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誘い 20

 2人の組手を見ていた黒田たちも、その瞬間は思わず声を上げた。もし当たっていたら、間違いなく大怪我したはずだ。遠くで見ている者にしてそう感じさせる技だったのだ。

 しかし、黒田たちにも面子がある。驚いた顔ばかりはしていられない。気を取り直して見続けるが、内心、穏やかでないものが込み上げてくる。その程度は人によって違うが、立っている姿に落ち着きがなくなっている。

 そういう黒田たちの変化を尻目に、龍田と高山の組手は続いた。

 さきほど不覚を取りそうになった龍田は、慎重に戦いを進めた。高山の攻撃を捌き、その隙をつこうという作戦にチェンジした。一見、龍田が防戦一方になっているように見えるが、龍田の実力が知っている高山は、おいそれと攻撃を連発できない。うかつな攻撃ではすぐに返されるのが分かっているからだ。

 高山も地味な動きになっていく。その状態でにらみ合いが続く。

 ただ、道場での稽古ではそれで良いが、今回の稽古は黒田たちへの牽制という意味も含んでいるので、このままでは良くない。そう考えた高山は、今度は自分から仕掛けた。

 飛び回し蹴りの大技である。以前、高山が金的を蹴って怪我をさせた時、堀田が使った技だ。今度はそれを高山が行なった。

 だが、ここではその時のような展開にはならなかった。龍田は身体を沈め、蹴りをかわしたのだ。高山は目標を失い、中途半端な感じで着地した。この時、隙ができた。

 龍田はこの機を逃さなかった。中段の短い、しかしパワフルな回し蹴りを出した。この時は背足で当てるのではなく、脛で当てている。これが見事に極った。高山は踏ん張ることができず、そのままダウンした。防具を着けていても、このタイミングで脛で蹴られたらかなり腹に響く。瞬間、高山は呼吸が止まる感じがして、すぐに立ち上がることはできなかった。文句なしの1本だ。

 この結末も黒田たちにショックを与えた。だが、ここまでやってきておめおめと引き下がっては示しがつかないとばかり、黒田がメンバーに渇を入れた。このグループでは黒田に次いで2番目に位置するのが北島だ。だから黒田は北島を指名し、代表してグループの意識の引き締めを図った。

「てめぇら。今の見て、びびってるのか? 北島、歯を食いしばれ!」

 そう言って、北島の頬を殴った。黒田にとっては精一杯の虚勢であったが、その様子を見ていた伊達たちは、もう少し揺さぶれば大丈夫と、逆に余裕が出てきた。

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