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誘い 24

 続いて行なったのが堀田だ。どんな技で割ろうかと考えたが、松池が蹴りだったので手の技にした。正拳や手刀も考えたが、よく見かけるものだけにやらなかった。今回の試割は自身の稽古ということもあるが、黒田たちへのパフォーマンスであることを堀田も自覚していたからだ。だからいろいろ考えたが、それは豪快な技ではなく、シャープで、しかも必殺の威力がある技だった。その意識で選んだのが猿臂だった。

 肘による技だが、空手の試合では見かけない。ポイントとして取られることがないため、誰も使わないのだ。しかし、実戦では大変有効な技で、特に接近戦では抜群の威力を発揮する。肘打ちが認められるムエタイではしばしばKO技になる。競技空手では稽古でもあまりやらないが、武術としての空手道を教える伊達の道場では当然、必須の技だった。

 2番手として行う堀田は、松池の成功の後に行うため、あまり緊張は感じられない。人によっては、自分の番で失敗したら、という心配から逆に緊張する場合もあるが、堀田は1番手の場合のほうが緊張してしまう。内弟子の中では最年少ということも理由に挙げられるかもしれないが、そういう意味では伊達が指名した順序は一人一人の心理状態も読んだ上のことであり、失敗しないための工夫がなされていると言える。

 その他にも理由があるが、堀田が選択した猿臂は松池の回転足刀蹴りと違って両足を地に着けて行なえること、もう一つは割る際に回転する動作がないため、十分間合いと呼吸がはかれるためだ。試割というのは、力だけではうまくいかず、むしろメンタル面が重要になってくる。だから、いわゆる心のコントロールが重要になる。そういう意味では、堀田は有利な技を選択したことになる。

 だが、黒田たちへのアピールという点では、猿臂は見た目に地味だ。特に遠巻きにして見ている黒田たちからは見えにくい。速さは感じても、動きが小さいために威嚇には向かないと考えた。近場で見ているならともかく、遠いところから見ていることを考慮しなければならない。

 そのため、割るブロックを2つにした。前後にブロックを配して割ろう、と考えたのだ。

 試割で複数割ることはよくあり、いろいろな方向に設置し順次割っていくものだが、堀田はその方法を採ることにした。

 ただ、持つメンバーの数が限られており、まさか伊達に持ってもらうわけにはいかない。そこで一方は、高山と松池に棒を持ってもらい、ブロックの穴をその棒に通す形で吊るした。もう一つは、河川敷に生えている小さな木の枝に棒の一方を置き、他方を龍田に持ってもらい、ブロックを同様に吊るした。


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