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解決 16

 伊達の道場は、武術として教授しているため試合用のコートのラインがあるわけではない。大会に出場する場合は、テープで臨時のコートを作り、その広さを体感させるが、近々にはその予定はないので、板張りのままだ。そのため伊達は、堀田と大塚の両名を道場の中央に呼び寄せた。2人は適度な間を取り、対峙している。2人を並べてみると、大塚のほうが一回り大きい。見た目では堀田のほうが不利に見える。

「おい、チビ。参りました、と言えば勘弁してやるぞ。怪我したくないだろう」

 黒田があざ笑うように言った。

 しかし、堀田は全く動じない。武術に体格は関係ないことを知っているからだ。実際、伊達の道場には外国人の道場生も多く、大塚よりも体格の良い道場生とよく組手をやっている。だから、大塚くらいの体格ならば、むしろ差はないに等しいくらいの感覚だったのだ。伊達もその手のヤジには一向に耳を貸さず、2人にルールの確認をしていた。

「勝負はKOかギブアップで決める。KOとは意識を失ったり、戦う状態ではなくなった場合とする。お互い、いいな」

「はい」

 堀田が返事した。

「俺も構わない。投げてKOしてもいいんだな」

 大塚が確認した。

「もちろんだ。柔道が不利になるような判定はしない」

 伊達が答えた。大塚としては相手が基本的には空手なので、柔道で戦っても勝ちとみなされないのでは、という思いがあったので確認したのだ。もっとも、最初から喧嘩のつもりで来ているので、納得いかない場合は大暴れしてやろうという意識でいるため、ルールは建前、といった気持ちもある。だが、一応柔道の有段者でもあるため、他流試合的な意味での勝負の意識は他のメンバーよりはあったわけだ。

「では勝負を始める。互いに、礼。勝負、始め!」

 伊達の開始の宣言に、軽くではあったが、大塚は堀田に一礼した。黒田の仲間の中では比較的まともなほうらしいことは、ここで理解された。だが、ここはあくまでも黒田の仲間として戦わなければならない。そういう伊達の考えは堀田も感じ取っており、勝負は勝負として、最初に打ち合わせた通りの意識で行うことを改めて心で確認した。

 堀田は柔道を稽古したことはなかったが、伊達のところに入門する前には少林寺拳法をやっていたので、それなりの投げ技や関節技などは稽古していた。入門後は合気道をやっていた松池ともよく稽古をし、少林寺拳法とは異なる投げや関節技に対する経験も積んでいた。また、伊達の道場でも突きや蹴りだけでなく、全ての武技を含んだ総合的な武術として学んでいたため、対柔道ということでも動じなかった。むしろ他流試合的なことが堂々とできると喜びを感じていた。事前に黒田が言った大塚の経歴などは、まったく堀田の心の中に響いてなかったのだ。

 堀田は空手道のオーソドックスな構えを取った。左足・左手を前に出し、右手はみぞおち付近に置いた。両手とも開手で、左手のほうが位置的にはやや高い程度の、いわゆる中段の構えだ。大塚は両手を高く挙げ、左右に広げて相手を威嚇した。体格的には自分が有利なので、たとえ1発くらい当たっても捕まえてしまえばこちらのものと考えていたのだ。


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