伊達の前に堀田、高山、龍田が並んで立った。試合前の注意のためだ。3人とも神妙な顔だ。
「さっきの黒田の口上がみんなにどう聞こえたか分からないが、私が見るところ、張りぼてみたいなもんだ。本当に強い奴というのは口には出さないし、相手が身構えるような威嚇行為をしない。だから勝敗の結果は分かっているが、なるべく怪我をさせたくない。早いうちに勝負をつけるように。防具を否定しているから、一応相手の言い分に乗った形でやるが、真の武道は条件を問わない。私が言おうとしていることは分かると思うが、しっかりやってくれ」
伊達は静かに言った。内弟子たちの分があることは分かっているが、喧嘩ではないにしろ敵意を持った相手との戦いだ。そういう場合の意識と共に、熱くなりすぎないようにし、必要以上に相手にダメージを与えないよう、きちんと注意したのだ。
「何、ぐちゃぐちゃ喋っているんだよ。恐くなったなら、今『ゴメンナサイ』って言えば、許してやるよ」
黒田から嘲笑の台詞が出た。伊達が3人に話している内容を勘違いしている。龍田は黒田の言葉にキッと睨み返したが、伊達からたしなめられた。
「龍田君。落ち着きなさい。勝つ気でいるらしいが、始まったらだんだん言葉も少なくなるはずだ。今、挑発に乗るんじゃない」
「はい。分かりました」
龍田は頭を下げながら答えた。
「では、まずこちらは堀田君が出る。そちらは?」
伊達が黒田たちに視線を向けて言った。
「じゃあ、こっちは大塚さんがいく。道場は板張りだから、投げられたら怪我だけじゃ済まないぞ。びびっても勘弁してやらねえぞ」
黒田が言った。横柄な態度はますますアップしていた。
「たしか、柔道だったな。では堀田君は防具は着けない。ただし、大塚君のために、手の防具だけは着けることにする」
「そんなのどうでもいい。さっさと始めようぜ」
威勢だけは一人前の黒田は、せっかくの伊達の思いやりが理解できていない。もっとも、きちんと分かっていれば二度と現れることはなかっただろうから、やはりここはしっかり分からせることが大切と、伊達は改めて思った。
「では、始める。勝敗はKOかギブアップということでいいな。審判は私がやる。文句はないな」
伊達は確認するように言った。
「いいから早く始めろよ。
黒田は伊達に対しても無礼な態度を取った。
内弟子たちの顔色が変わった。すぐにでもバトルロイヤル的な戦いが始まりそうな緊張感が漂った。
伊達としては、もちろんそれは本意ではない。内弟子たちのほうを見て、右手を差し出し、内弟子たちが暴走しないよう止めた。