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~第一章 赫いカナリア~ 第十四話 瞳の深淵に宿る者 前編

「大変申し訳ありません。私の監督不行き届きです」

「そうか……。過ぎた事を言っても仕方がない。ドリー頭を上げなさい」

「はい……」

「実害がないならば構わないさ。お前の部屋には特殊な磨製道具ソーサラーツールや危険な劇薬は置いていない筈だから」

「……ブラウ様、それが……。アンナ様が魔法石スペルストーンに触れてしまった様なのです」 


 アンナとナディがドリーの部屋に侵入したその日。ブラウが帰宅したのは、夕食の後だった。少女たちを寝かしつけたドリーから事の顛末を報告されたブラウは、最初こそ平静に耳を傾けていたものの、魔法石の件を知ると眉根を寄せた。


「魔法石に、発現した形跡がありました……」

「それは、本当か?」

「ええ……。間違いありません」

「そうか。いよいよかも知れないな。報告ありがとう、ドリー」

「……はい」

 ドリーが神妙に頷くとブラウは目を見開き、ドリーの肩を掴んで問いただした。常に柔和な表情を崩さないブラウにしては珍しく、興奮した様子が見てとれる。ドリーが屋敷に仕えて以来初めて見た、彼の好奇に満ちた眼差しだった。


 侵入事件の翌朝、ブランチの一時間前にアンナはブラウの自室に呼び出された。


「ブラウ様。まだ朝食の時間には早いのに、なんのご用?」

 この時期のアンナは、ナディへの嫉妬と大人への反抗心、更にはホライズの中毒症状で常にイライラしている状態だった。

 精神状態は再び不安定となり、突如憤りを露わにして癇癪を起すこともある。ドリーやブラウもアンナをなだめるのに手を焼いたが、反抗期を迎えても、アンナの根底にあるブラウへの執着心は変わっていなかった。

 アンナが年頃になったため添い寝はなくなったが、それもまたアンナにとっては不満の種だった。彼女はいついかなる時でも、恋い慕うブラウの傍にいたいからだ。


 今朝、久方ぶりにブラウに呼び出されたアンナは、密かに胸をときめかせていた。ナディと同居が始まって以来二人そろっての呼び出しが増え、ブラウと二人きりの時間が減ってしまったからだ。

 そわそわするアンナを見つめながら、ブラウは静かに口を開いた。


「アンナ。お前は昨日、許可なくドリーの部屋に立ち入ったようだね。屋敷内で自由に過ごすのは構わないが、私やドリーの部屋への立ち入りは、禁じていた筈だが」

「……なぁに、またお説教なの?ナディと遊んでいたら、たまたま鍵が開いていたから、ちょっと覗いちゃっただけ!それにドリーがいる時に、何度か入ったことあるもの!一体、何がそんなにいけないの?」

「勿論、ドリーがいる時なら構わないよ。ただ、私とドリーの部屋には貴重な魔法石スペルストーンや薬品が保管されている。お前が思っている以上に、取扱いに注意を払わねばならない物もあるんだ。万一、お前やナディの身に危険が遭ったらどうする?私はお前たちが心配なんだよ、アンナ」

「心配、心配って。ブラウ様はいっつもそればっかりね!アタシはもう、あの頃とは違う……。何も知らない下女のアタシとは違うの!子供なんかじゃない……」

 アンナはブラウの話を遮り、床を足で踏み鳴らして癇癪を起した。年々感情の制御を失っていくアンナを見たブラウは、思春期特有の気分のムラ以外に、彼女の精神的な要因が干渉していると見抜いていた。

「よし、分かった。お説教はもう終わりにしよう。その代わり、アンナはナディの姉として、彼女のことも気にかけてやってほしい。危険な遊びに誘うのはもっての外だ。いいかい?」

「……次は、ナディの話?もういいじゃない。せっかくブラウ様と二人なのに……」

「アンナ」

「あんな子の、どこを気に入ったの?」

 ブラウの関心が自分からナディへ移ることを恐れていたアンナは、分かりやすく拗ねてへそを曲げてしまった。

 ブラウはアンナをあやすように腕に抱き締め、片手で黒く艶やかな髪を撫でてやる。ブラウの温もりに落ち着いたのか、アンナは大人しく身を任せていた。

「アンナもナディも、そしてドリーも私の大切な家族だからね」

「……アタシが、いちばんだったのに……。ブラウ様の一番はこのお屋敷に来た時からずっとアタシだけだった……。アタシは、ブラウ様の宝物なんでしょ?宝物って、とくべつって意味なんでしょ?……ねえ、違うの?」

「……」

 胸元に顔を埋め縋りつくアンナを抱きしめながら、ブラウは逡巡していた。ここで「お前が一番だ」と答えるのは造作もないこと。ブラウには少女の機嫌をたった一言でいかようにも操る術があった。しかし、今はそれよりもブラウにとって重要な確認事項がある。

「アンナ。魔法石スペルストーンに触れた時に光を見たと聞いたが、本当だね?」

「……そうよ。それがどうしたの?」

「あれが魔法だ。そしてあの魔法石には特殊な術式スペルが刻まれていてね。あれを発動させることができるのは“女神イリアーヌ”からの福音を授かった者だけなんだよ」

「それ、どういう意味?前も聞いた気がするけど、アタシ難しくてわかんない」

「お前の“兆し”がもうすぐ目覚めるという証拠だ」

「え?」

「お前が魔術師ウィザードになる日が、近い内に訪れるだろう」

「……それ、ホント……?」

「ああ、そうだ。この日をどれだけ待ち望んでいたか……。もうすぐだ。もうすぐ私の夢が叶うんだよ、アンナ。お前のおかげでね」

 アンナはブラウの胸から顔を上げ、彼を見つめた。ブラウの手つきは変わらず優しく、アンナの黒髪を梳いている。だが、言葉には隠しきれない興奮が滲んでいた。

 ――二人の同居が始まって四年余り。アンナはこれほど歓喜に満ちたブラウの声を聴いたことは一度もなかった。

「よく分かんないけど、ブラウ様の言っていた夢が叶うんだ?だったら、アタシもすっごく嬉しい。それって、アタシがブラウ様の役に立つって意味でしょ?アタシのおかげで、ブラウ様が幸せになれるんだ」

「ああ。もちろんだ、アンナ。だからこれからは、より一層魔法について学んでほしい。座学は苦手かも知れないが、必ずお前のためになるだろう。私もアンナの望みは出来る限り叶えるし、助力は惜しまないつもりだからね」

「……アタシの願いを……?なんでも?」

「ああ」

 ブラウの言葉に、アンナは小さく喉を鳴らした。

そして、彼のローブの裾を掴むと頬をバラ色に染めて小声で呟く。

「アタシと二人で過ごして欲しいの!……昔みたいに……」

「それはお安い御用だよ」

「それから、また昔みたいにとなりで一緒に寝てほしいの。毎日じゃなくてもいいから。アタシ、ブラウ様の傍が一番落ち着くんだ。だから……」

 アンナが自分に寄せる恋慕を知っても、ブラウはこれまで通りに彼女に接してきた。寧ろ計画のためならばと時に恋心を巧みに利用し、彼女をコントロールしていたのだ。そして、いよいよアンナの“兆し”が発現する段階を迎え、ブラウは今が尤も重要な期間と捉えた。


「良いだろう。眠れなくなった時は、遠慮せず私の自室に来なさい。勿論、研究中や外泊の夜は無理だが、可能な限りお前の傍にいると約束するよ」

「えっ……?ホント?ホントに、いいの?」

「はは、可愛いお前の頼みを断る筈ないだろう。その代わり、ナディには内緒にしておきなさい。あの子はヤキモチを妬く子ではないが、お前ばかりを贔屓していると思われてはいけないからね」

「ブラウ様……!ふふっ、うんっ。……二人のヒミツね?」


 この日、ブラウは己の魔法知識と経験を活かし、魔法複製人形レプリカント研究に着手する決断を下したのだった。



 ――“兆し”の発現には対象者に過度の負荷が必要となる。精神的、肉体的な重圧や抑圧によって、魔力を封じる枷が外れる。


 これまでの研究では、大半の魔術師ウィザードが心身に影響を及ぼすほどのショックを受けた際、初めて“兆し”が発現するとされていた。

 更に、兆しの発現前に魔法術式スペルを刻んだ魔法石スペルストーンに触れ、対象者が初めて魔法を発動させたという統計もあり、ブラウは今こそ「アンナが魔術師になるため」の好機だと確信を持った。


 ブラウの透視眼力クリアボヤンスで視ると、アンナのオーラは日に日に増大していった。卵型だったオーラが肥大化し、周囲にらせん状に広がる様子が確認できる。一つ懸念点があるとすれば、四歳の頃は純白でやや薄緑がかっていたアンナのオーラが、黒く変色している点だった。

 ブラウは研究の中で様々な魔術師のオーラを調査したが、アンナのように二色が混在するものはこれまで見た覚えがない。

 しかし、イレギュラーとはいえ、アンナの魔力が一般的な魔術師を遙かに凌ぐ量であることは、オーラの大きさと厚みで一目瞭然だった。

 血統からしても、魔法の才を持つ純エスぺラ人のアンナは、魔法複製人形レプリカントの器として申し分ないだろう。ブラウは自分が可能性を見出した“検体”に、絶大な信頼を寄せていた。


 そして、ブラウとアンナにとって運命の転機となる、“兆し”発動計画決行の日――。


「薬草採取の日だね」

「怖いの、ナディ?アハハハッ、相変わらずビビりだねー!」

「……っ、だ、だってぇ……。アンナちゃんは怖くないの?この辺りの林はブラウ様の魔法結界シールドで安全だって聞いたけど、外には魔獣もいるしあぶない毒草とかも、たくさんあるんだよ?」

「ブラウ様が安全だって言ってるんだから、お屋敷の周りはあぶなくないでしょ!お付きの人達だってついて来るし、なにか起きたらすぐお屋敷に逃げればいいだけ!」

「う、うん。そうだよね……」

「もー!ダッサイなァ、もう何度も採取してるんだから、いい加減慣れなよね」

 採取用の籠とリュックサックを背負い、手袋を装備したアンナとナディは、林の中に足を踏み入れた。彼女たちの後方には、ブラウの側近が一名控えている。これも、ブラウの指示によるものだ。

 少女たちはこれから起こる事象を当然知る由もなく、ドリーから依頼された薬草の採取を始める。


「にしてもさ~。屋敷に閉じ籠ってると運動不足になるからって、こんな林を散策させるものなの?ブラウ様も過保護なんだか乱暴なんだか、たまにわっかんないコトするよね~」

「う、うん……。そうだね……。あんなに外に出ちゃダメって言ってるのに。もしもわたしたちが逃げ出したら、どうするつもりなんだろう?」

 しゃがみ込んで茂みを漁るナディを見下ろし、アンナはけらっと笑って言った。

「アハッ……!逃げる?ドンくさくて、かけっこが苦手なナディが~?絶対ないと思うけど、どうせ逃げきれっこないよ。側近の人が見張ってる限り、アタシたちなんてすぐに捕まっちゃうだろうし」

「……そ、それはそうだよぉ。逃げようなんて思ってないから。……アンナちゃんは、逃げようとしたこと、ある?」

「えー!?ないよ、そんなの!アタシの居場所はココしかないもん!それに、ブラウ様から逃げる必要なんてないでしょ?」

「う、うん……。ブラウ様、やさしいもんね。ドリーさんも、側近の人たちも……」

 ナディは持参したメモ紙を見つめながら、丁寧に薬草を分別していった。一見しただけでは判別ができない種類もあるため、ドリーの文章と照らし合わせて判別する。

 アンナはくるくる舌は回るが、自分で採取しようとはしなかった。ナディが草をかき分け手袋を泥で汚す姿をじっと観察しながら、あれやこれやと口出ししている。

「アンナちゃん、あとはクロマキナ草だけみたいだよぉ」

「ふぅん。どんなのだっけ~?」

「ええっとぉ……」

 ナディがメモを解読している横でアンナは退屈そうに欠伸を漏らし、茂みを蹴ったり木の枝を折ったりしつつ暇を潰していた。注意力が散漫なアンナは、一ヵ所にじっとできない傾向があり、気分がコロコロと移り変わる。だが、興味がある事柄に対しては爆発的な集中力を発揮する才能もあった。


「クロマキナ草は真っ赤な花びらが特徴で、茎にギザギザの小さな棘があるから注意してください、って」

「ふーん。真っ赤な花を探せばいいんだ?目立ちそうだしすぐに見つかるんじゃない?」

「んんっとぉ、水場に多く咲いてる花なんだって。お薬になるって書いてあるよ」

「ハァ~?泉までいけってこと?めんどーだなァ……」

 林の中間部には、こんこんと湧く泉がある。野生動物にとっては憩いの場所で、小鳥や小型の草食動物たちが集まる場面に遭遇する機会もあった。

 ブラウが魔除けの魔法結界シールドを張っており魔力を持つ害ある生物は入り込めないが、毒蛇や身体に悪影響を及ぼす毒草は多数存在する。


「アタシもう疲れちゃったし、ナディが行って採ってきてよ~」

「……は、はい……」

 切株に腰を下ろしたアンナは、周囲の草をむしったり昆虫の巣穴を枝で弄る作業に夢中になっていた。ナディは彼女に逆らえず、一人で林の奥へと歩き出す。

 ――二人が完全に遮断されたタイミングで、ブラウの作戦が始動した。


「ふぅ……。着いたぁ……。この泉、いつ見てもキレイだなぁ。アンナちゃんも来ればいいのに」

 ナディが泉の縁にしゃがみ込み、水面を覗き込みながら呟いた、その瞬間――……。


「きゃあぁあ……っ?」

「……えっ?ナディ……?」


 ナディの切羽詰まった悲鳴が響き、立ち上がったアンナは林の奥を見つめた。ナディは泉から飛び退いて、尻餅をついてその場を後ずさる。水面から飛び出してきたのは、巨大な水生生物だった。

 長い首と鱗に覆われた体を持ち、爬虫類特有の顎と牙が生えている。全長は二メートル前後と見られ、水面からナディを見下ろす瞳はギラギラと血走っていた。

「これって、先生が言ってた魔龍ドラゴン……?どうして、こんな泉に……?」


 魔龍は魔獣の一種とされているが、絶対数が少なく伝承の生物と云われている。ミラディアでもその多くが絶滅したとされ、近年目撃例は上がっていない。

 ましてや、蔦みどろの館周辺はブラウの魔法結界シールド内だ。これまでアンナとナディが危機に瀕したことは一度もなかった。

「あ、ああ……。いや、助けて……」

 気が動転したナディは目前の魔龍を前に硬直し、身じろぎすらできなかった。魔龍はギロリとナディ《獲物》を見下ろし、口腔を開いて水弾を発射する。

「きゃあぁっ?」

 水弾の一つがナディの脇を掠め飛び、地面にぶつかって破裂した。地面は抉られ、少女一人が埋もれる深さの穴が空いている。水飛沫を浴びたナディは頭から水浸しになり、恐怖で全身カタカタと震え出した。


「ナディ……!?」

「あっ、アンナちゃ……き、きちゃ、ダメ、……っ」

「な……によ……?この、生き物……」


 ナディの絶叫で駆けつけたアンナは、自分たちを値踏みしている魔龍ドラゴンを見上げて顔面蒼白になった。

「逃げるよ、ナディ!こいつはどうせ、泉からは動けないんでしょ?付き人のトコまで走って戻ろ!ほら、早く立ってッ!」

「う……うん……。でも、なんか、足が震えて……。さっきから、う、動けない、のぉ……」

「はァ?!ばかっ、ドジ!ノロマ!!今そんなジョーダン言っている場合!?」

「ごっ、ごめん、ねぇ……。アンナちゃん……。先に、逃げて……」

 ナディはショックで腰を抜かしており、立ち上がることができない。アンナはナディの腕を引っ張り、何度も踏ん張った。が、しかし――……。


「っ、アンナちゃん、だめぇ……っ!」

「きゃあっ!?」

 魔龍の口から、二弾目が放たれた。ゴウッと風を切る音と共に激突した水泡が大地を揺るがす。木立が揺れ、林の上空を鳥が飛び去っていった。


 水弾が激突する刹那、ナディは自分の真横のアンナを突き飛ばしていた。アンナは間一髪で危機を免れたが、水飛沫はナディの腕に接触していた。


「ナディ!?」

「……っ、ぁ……」

「ナディ、ナディ……!ウソ、しっかりしてよ!!」


 右腕を負傷したナディのワンピースの腕は、鮮血に染まっていた。不自然に内側に湾曲し、骨折していると判る。ナディは激しい痛みと衝撃で、そのまま気を失ってしまったようだ。絶体絶命の危機に直面し、アンナの全身にはぶわっと鳥肌が立った。肌がぴりぴり痺れて粟立ち、体の芯まで冷たく凍り付いていく。


――なんで?なんで、こんなことになったの……?


 いつの間にか、見張っていたはずのブラウの側近の気配は消えていた。アンナの頭は真っ白になり、内側から恐怖と混乱が一斉に溢れ返っていく。


「誰かぁーーーーー!早く助けて!ナディが怪我してるの!いるんでしょ!?いつもアタシたちのことジッと見張ってるじゃない!!ほら、ドリー!ドリーってばぁ……!!ねえ、助けてッ、助けてよォーーーーー!!」


 アンナがいくら叫んでも喚いても、木々が虚しく騒めくだけだった。魔龍はその場から微動だにせず、咆哮するアンナを凝視している。


「い、イヤ……ッ、ヤダ、やめて……もう、やめてぇ……!」


 殺される?アタシもナディも、このまま死ぬ――……?


 アンナの脳裏には、最悪の光景が浮かんでいた。自分一人なら逃げ切れる。しかし、ナディを置き去りにすることはできなかった。嫉妬や対抗心があるとはいえ、ナディは“家族”の一員だ。我が儘で自由奔放なアンナにも、家族に抱く情はある。

 魔龍がおもむろに口を開き、三度目の水弾を放つ構えを見せた。アンナの体は凍りつき、心臓が波打つ音だけが耳奥で木霊する。


 魔龍の狙いは、既に意識のないナディだった。


「やめてぇーーーーーーーッ!!」

 アンナは絶叫し、気を失ったナディの前に飛び出した。今後のことも自分のことも、何一つ考える余裕はない。ただ、自分がナディを守らなくては――その一心に突き動かされた時、彼女の内側でナニかがプツンとはじけ飛ぶ音が響いた。

「……え……」

 アンナは体の中心が熱を持ち、みるみる光を放ち始めるのを見つめた。白く眩い閃光がらせん状に広がって、魔龍を、泉を、そして林全体を包むようにじわじわ拡大していく。

「なに……コレッ……?アタシ、なんで――……」


――眩しくて、目を開けていられない。全身が、燃えるように熱い。


 先程まで血の気が引いていたとは思えぬほど熱を帯びた体は、アンナ本人が制御不能な魔力を一挙に放出し始めた。神々しくも強大な力に気が遠のくのを感じながら、アンナは重くなる目蓋に従い意識を手放したのだった。

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