さて、木村のしつこさに折れた俺達は、今回の件を踏まえて「絶対に配信するなよ」と念押ししてから件のダンジョンへと連れて行くことにした。
迫り来るゴブリン。それを打ち払う伊藤達。
これはなかなかに絵になるな。
ホブゴブリンの登場時なんて失禁しそうなくらいビビってたけど、Totuberとしての威厳か、それでも頑張って俺たちについてきた。
正直ダンジョンになんの夢もないことは分かってもらえたと思う。
そして深層。
今までのトラップ、モンスターが前座であったかの様な光源が確立された巨大な空間。
そこだけ数百km規模の広間になっており、緑が溢れている。
中央には巨木が天に届くほど枝葉を伸ばしており、それを守る様に三匹のガーディアンが巡回する。
ただし、今回のガーディアンの守護者は以前ほどの強さはないらしい。
岡戸の能力が底上げされたからかもしれないが、あの時の様な震えるほどの恐怖、吐き気を催す様な邪悪さは感じないって。
「そんなわけでな、俺たちはどうにかしてあのゴーレムを黙らせ、更に木に登ってその実を奪うだけ奪ったって感じだ」
流石に今回は木の実が生ってないのでわざわざ討伐する必要性を感じなかったが、木村には納得してもらえた様だ。
「アレは無理。正直道中でも凶悪すぎて音をあげそうなのに、最後が特に無理ゲーじゃん」
ちなみに今回桂木先生を連れてきてないので本気でゴーレムが止まらない。やはりゴーレムからコアストーンを抜き取る、または変質させることが出来るスキル保持者がいなければ……と考えつつ、俺の視線は姫路さんの前でハタと止まる。
「何よ?」
居るじゃん、壊し屋が。
アレ? 今回普通に攻略できるんじゃ?
あんな極悪商人なんて要らなかったんや。
情操教育に悪すぎるもん、あの人。
「あー……木村」
「なんだよ」
「可能であればゴーレムを討伐してすぐ近くで千年樹を撮影したいか?」
「そりゃ可能であれば最初から配信はしたいに決まってんだろ? いちいち聞くか?」
俺はみんなに振り返り、今回の事を話すかどうかを決めた。
「とご本人は言ってるがどうする?」
「どうするって、まさか一から十まで見せる気?」
「この姿が全国区に!?」
俺の質問に岡戸は自分のスキルがどこまでやれるかを考え、姫路さんに至っては自らの肉体の変化をどの様に配信されるかで戸惑いが起きていた。
まぁそればかりは仕方ないが、特殊メイクとして誤魔化してもらうしかないし。
なお、人の口に戸は立てられない。
何より木村のお陰で学校でもスマホで動画が見れるので、いずれバレる情報なら出してしまって広く拡散してしまってもいいんじゃないかという事で話が決まった。
動画内容は『攻略! 難攻不落ダンジョンに挑む』を階層ごとに分けて配信。異例の視聴数を見せて、木村は一躍時の人となる。
そしてこれは異例中の異例なんだが。
笹島さんが千年樹に近づいたら、ニョキニョキ実が生えた。
もしかしなくても、マナを生み出すこの木の栄養源って魔力?
いや、単純に『充填』がどんなものにも適用されるっていう強力なチートだからこそ出来た代物なのかもしれない。
今回のダンジョンアタックは配信したのでクラスメイトにお土産として持ち帰った。
配信者にも抽選で何名かにプレゼントする事で公平性を保ち、ひとつの実を最大30人で分けてもエルフ化(スキル成長+長寿の獲得)効果がある事を紹介。
うちのクラスメイトどころか学校中にその効果が知れ渡ってからは自分達にもよこせと声が殺到した。
多分間に合うけど、それでは公平性が失われてしまう。
贔屓したのはクラスメイトのみで、他のクラスの人たちには、ダンジョンの入り口まで連れて行き、攻略すれば手に入るぞと教えてやった。
ちなみに千年樹に直通の転移ルートを作っているので、そこに笹島さんを連れて転移。十分に実ったら帰還する千年樹デートが日課になった。
しかしゴブリンの殺意に当てられてまだそこまできてないのか、実は売れ切っていた。多分『充填』のスキルが強力すぎるんだろうなぁ。
勿体無いのでそれは持ち帰って姫島さんの熟練度上げに使用することにした。
ついには元がなくても作れる様になったのは内緒である。
それらの複製品は木村の抽選企画の商品に充てがわれた。
こうしてスキルも使い方次第で攻略が可能な事、エルフ化することによってそのスキルが強力に進化することが日本中で爆発的に広まった頃、国外からの圧力が政府にのしかかったのか、自衛隊へのダンジョン攻略が激化する。要は派遣である。
お仕事ご苦労様です!
要は一度異世界に転移させてスキルを獲得させ、ダンジョンをアタックさせるコツを俺たちのクラスが教えることになっていた。
なぜ俺のクラスに任されたのか?
単純に俺の『転移』でしか異世界にジャンプできないからである。
まぁ、頑張ってとしか言いようがない。