99. 『ましポん48』~オフパート これが大人~
時間は10時。この時間は『魔法の森の音楽会』という3期生の歌枠配信がおこなわれている。オレは朝配信を終えて、今からリリィさんの家に行く。一応最寄りの駅でひなたさんと待ち合わせをしているが、早めについてしまった。とりあえず『魔法の森の音楽会』配信を観て待つことにする。ちなみにタグはそのまま『#魔法の森』
メンバーは双葉かのん、葉桐ソフィア、朽木ココア。……なんか特にオレが面倒を見ているようなメンバーだよな。それに裏で一番年上が彩芽ちゃんというのもなんかな……やっぱり3期生って5人が揃うとバッチリ決まる感じだよな。Fmすたーらいぶの1期生は特別、2期生は自由、3期生は仲良しって印象がある。
そんなことを考えながら、オレは配信を観続ける。しばらくすると1人の女性がやってくる。その格好は全体的にふわっとしたイメージで、とても可愛い。これが大人の抜け感ファッションというものなのか……とオレは心の中で感動する。
「おはよう。まし……じゃなかった颯太君」
「おはようございます。ひなたさん」
「ごめんね。少し遅れちゃって」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「そう?なら良かった。今日はよろしくね?」
そう言ってひなたさんは軽く微笑む。
「ねぇ颯太君。まだ時間あるから少しお茶していかない?私おすすめのお店があって……」
「あ、はい。良いですね」
こうしてオレたちは近くにある喫茶店へと向かう。店内に入り席につくとひなたさんはすぐにメニューを開き、2人分のアイスコーヒーを注文し、それをお互い一口飲んでから話始める。
「今日も暑いね。リリィちゃんの家はここから10分くらいだから、少し休んでから行こうね。あまり早く行っても迷惑だし」
「そんなに近いんですか?なら集合時間を遅らせたほうが良かったんじゃ……」
「颯太君は女心が分からないなぁ?私が颯太君と話したかったから早めに集合したんだよ?」
「え?」
「こうやって話す機会なんて今までなかったじゃない。たった数十分かもしれないけど、私にとっては貴重な時間なんだから。少しくらいワガママに付き合って?」
ひなたさんはオレと仲良くなろうとしてくれているんだろう。それが嬉しかった。
「颯太君は私に聞きたいことないの?彼氏いるんですか?とかさ」
「聞いた方がいいんですか?」
「そういう訳じゃないけど、少しは私に興味を持ってほしいかな?」
「ひなたさんはオレに興味ないですよね?」
「あるよ。だって颯太君は彼女いないんでしょ?なら私と付き合う可能性があるじゃない。別に異性として好きとか嫌いとかは今はもちろんないよ?でも、この先何があるか分からないしさ」
この人は大人だ。これが大人の恋愛なのか……でも、ひなたさんに聞きたいことか。教えてくれるかは分からないが一応聞いてみることにする。
「それは置いといて、あの良ければ……ひなたさんの名前を知りたいですかね?」
「名前?あー本名の話?そんなんでいいの?私は月城陽菜。本名も『ひな』が入るの。実はポアロ……あ。七海ちゃんが言ってるひなちゃんって本名だよ。バレないしいいよね!って言ってね?」
「じゃあ……月城さん」
「陽菜でもいいよ?」
「それはこれからの関係性で」
「なるほど。なら少しは期待してようかな?年下の男の子も悪くないからね?」
そう言って少し悪戯っぽく微笑む月城さん。やっぱり大人の女性だ。そしてそのあと少しの時間、最近の近況を話したりこのあとの配信の話をし、気づけば時間は11時20分を過ぎていた。
「そろそろ行かないとだね。リリィちゃんにメッセージ送って……と」
「じゃあ会計してきますね」
「ううん。今日は私が奢るから」
「いや……それは……」
「あのね颯太君。また一緒にこうやってお茶したり、ご飯を食べたりしたい人には奢るんだよ?次はお願いね?」
……やっぱり大人だ。月城さんとは2つしか違わないのに、なんかそういう考えができる月城さんを尊敬したのだった。