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212. 姫は『認めて』もらいたいようです

212. 姫は『認めて』もらいたいようです




 オレは彩芽ちゃんと共に彩芽ちゃんのご実家に来ている。やはり彩芽ちゃんのお父さんはVtuberの仕事を良く思ってないようだ。


「……彩芽。ちょっと付き合え」


「え?お父さん……」


「すまないが、彩芽と少し話をさせてくれ」


 そう言って彩芽ちゃんとお父さんはリビングを出て、どこかへ行ってしまう。そしてリビングに残されたオレと彩芽ちゃんのお母さん。初対面だからめっちゃ緊張してきたんだが……。


「ん?」


 オレがふと壁にあるカレンダーに目をやると、彩芽ちゃんのお母さんは、オレに向かって優しく微笑むとゆっくりとした口調で語り始めた。


「そのカレンダーね……彩芽が配信した日に丸をつけてるのよ」


「そうなんですね。しかも……これは雑談配信の日ですね?」


「ええ。あの人ね。彩芽の雑談配信の日は極力視聴しているの。ほら近況を話すときがあるでしょ?その時の彩芽がとても楽しそうだから……でもそれが無理してるんじゃないかって心配なのよ。彩芽は意外と頑固で、昔から人とのコミュニケーションが苦手だから」


 ……なるほどな。心配するのも無理はないか。


「あの人には実はねすべて話してあるのよ、同居のことも神崎さんが彼氏だってことも。昔から知らないふりをしているだけなの。彩芽もあの人には何も話さないから」


「知ってたんですか……」


「昔から彩芽は意思表示が苦手でね……それでも社会人になってからかしらね、突然『姫宮ましろ』について嬉しそうに話してね……引っ込み思案な彩芽が1人で出歩いてグッズを買いに行ったり、そのグッズが買えたらとても嬉しそうにしていたわ。彩芽がFmすたーらいぶさんに合格した時は、今まで私にも見せたことのない笑顔で喜んでいたわ。憧れのましろん先輩と一緒に仕事できるって」


「本当に嬉しい限りですね」


 それから数秒沈黙の時間が流れる。そして彩芽ちゃんのお母さんはその沈黙を破るようにオレにこう言った。


「きっとあなたには彩芽の心を開ける何かがあるんでしょうね」


「……オレも似たようなものですから。自分の気持ちをうまく話すことができない。でも『姫宮ましろ』なら話すことが出来て、そして伝えることができる。彩芽ちゃんもきっと『双葉かのん』なら自分の素を出せているのかもしれないです。そしてオレはそんな彩芽ちゃんのことが好きで、Vtuber『双葉かのん』としても尊敬してますから」


「ふふっ……それあれでしょ?『てぇてぇ』」


 彩芽ちゃんのお母さんはどこか嬉しそうだった。そういえばさっきからずっと口調が砕けているし、もしかしてオレとのコミュニケーションを取ろうとしてくれていたのかもしれないな。


「ねぇ神崎さん」


「はい」


「このままならあの人は首を縦には振らないと思うわよ?私としては彩芽にはVtuberとしての仕事を頑張ってほしいと思っているの」


「つまりお父さんを説得しろってことですよね?」


「そう言うことね。あの人は黙って同居していたことに怒っているわけじゃないの、不安なだけ。彩芽が本当に心の底からVtuberを楽しめているか。だからそれを神崎さんが見せてほしい。そのくらいあの人も彩芽のことは心配してるの」


「なるほど……分かりました」


 確かにそうだ。彩芽ちゃんのお父さんは心配しているだけだ。大事な娘の仕事のVtuberのことが良く分かっていないだけ。それならオレが出来ることは……やはりあれしかないよな。


「ならみんなにメッセージを送って……あのお母さん。少しだけ協力してもらえますか?」


 そしてしばらく、お母さんと話していると彩芽ちゃんとお父さんが戻ってくる。彩芽ちゃんの顔を見ると、どうやら納得はしてもらえなかったようだ。


「彩芽ちゃん。SNS見てくれた?」


「え?……ええ!?」


 彩芽ちゃんのスマホの画面には姫宮ましろのSNSのメッセージ。


 姫宮ましろ@himemiyamashiro

『こんにちは(。・_・。)ましろついにかのんちゃんのご両親に『ましのんてぇてぇ』認めてもらいます!今はお母さんと仲良くガールズトーク中だよ(^-^ゞ……あ。これはゲリラオフコラボの告知だから!17時からましろの枠で『姫。妖精の森に潜入します!』配信やるよ~観に来てね~!』


「枠は取ったから、機材はとりあえず、オレのノートパソコンだけど準備しようか」


「あのこれは!?」


「お父さん。ぜひご自分の目で確認してください。彩芽ちゃんのVtuberのお仕事を」


「……。」


 こうして、オレは彩芽ちゃんのお父さんに、姫宮ましろと双葉かのんの『ましのん』の配信を観てもらうことにした。まぁ百聞は一見に如かずとも言うしな

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