228. 後輩ちゃんは『後輩を誘う』ようです
そして朝配信を終えて、リビングに行きコーヒーを2杯入れ、彩芽ちゃんの部屋に行くと彩芽ちゃんはクッションに顔を埋めてうずくまっていた。顔を少しだけ上げてこちらを確認するなり、また顔を伏せてしまった。
朝配信でも言った通り、えるるちゃんと仲良くなってもらうためなのだが……やはり強引すぎただろうか?まぁとりあえずコーヒーでも飲むか。マグカップをテーブルに置き、ソファーに座ると、彩芽ちゃんはまたクッションから少しだけ顔を上げる。
「コーヒー飲む?」
「……飲みます。颯太さん……ずるいです……」
「ん?なにが?」
「私……あんなこと……言われたら断れないです」
「あはは。でも、彩芽ちゃんのためだよ?先輩として、マネージャーとしてさ?」
「……分かりました。今回だけは……頑張ります……」
「ありがとう。それでこそ彩芽ちゃんだ」
小さく頷いてからゆっくりとした動きでクッションを膝の上に起き、マグカップを両手で持ちながらコーヒーを飲む姿がとても可愛らしい。
そして早速、えるるちゃんに連絡をすることにする。彩芽ちゃんはディスコードを開きメッセージを打ち始める。
「初めまして……Fmすたーらいぶ3期生の双葉かのん……と申します。今回はましろん先輩の……朝配信の焼き肉の件で……連絡させていただきました。もし、よろしければ……お話したいのですが、ご都合いかがでしょうか?……どっどう……ですか?」
「……いや定型文すぎじゃない?えるるちゃんは後輩だから、このメッセージ見たら緊張しちゃわないか?」
「じゃあ……どうしたら……?」
「簡単に初めまして、えるるちゃんと話したいんだけど今大丈夫かな?とかでいいんじゃない?」
「じゃあ……そうします……」
そんな感じでメッセージを打つ彩芽ちゃん。『え……馴れ馴れしいのは無理です』とか言わないんだな。初めて会った時の彩芽ちゃんなら絶対そう言って、『焼き肉も行きません』とか言ってたと思う。やっぱり彩芽ちゃんは変わったよな。そんなことを考えているとディスコードに返信がくる。
「あ。大丈夫みたいです……」
「じゃあ連絡してみよう」
「きっ緊張する……」
そんなことを言いながら、若干震える手でディスコードで通話を始める彩芽ちゃん。やっぱりまだ緊張しているみたいだが、そんな姿が初々しくて可愛い。
「あ。もしもし?」
《もしもし?かのん先輩ですか?》
「はっはい。双葉かのんです」
《初めまして。八神えるるです。うわ~本当にかのん先輩からかかってきた!アタシ感激です!あ!体調大丈夫ですか?》
「うっうん……」
《それなら良かったです!ところで……話って何ですか?》
そう言われて、彩芽ちゃんは少しずつおどおどし始める。チラチラとオレを見ているし。そんな彩芽ちゃんにオレはただ頷く。すると彩芽ちゃんは一度深呼吸してから、ゆっくりと話し出す。
「昨日の……Fmすたーらいぶ学力王選手権おめでとう……」
《ありがとうございます!》
「そっそれで……あの……ましろん先輩の……焼き肉の件で……」
《焼き肉?もしかして……本当に一緒に行ってくれるんですか!?》
「うっうん……私でよければ……」
《え!?本当に嬉しいです!ありがとうございます!いつにしますか!?》
えるるちゃんは本当に嬉しいのかテンションが上がりまくっている。
「あの……えるるちゃんは……他に誘いたい人いる?」
ん?なんか自分でハードル上げてないか彩芽ちゃん?いきなり初対面の人が増えて大丈夫なのか?
「えっと……私は……マネージャーさん……呼んでもいい?」
は?え?今なんて言ったの?
《もちろんです!あー……じゃあラビさんとかどうですか?確かかのん先輩のマネージャーさんはラビさんのマネージャーを期間限定でやってましたもんね!》
「うん。いいよ」
《じゃあ、あとでスケジュール送りますので楽しみにしてますね!》
そして通話が終了する。彩芽ちゃんは一息ついてからオレの方を見る。
「……すいません」
「……まぁ。いきなり2人は無理だよな」
こうしてオレも焼き肉に参加することに。まぁ……しょうがないか。彩芽ちゃんと外食できるって考えたら、焼き肉も悪くはないかな。実質デートだし。