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378. 姫は『教育』するそうです

378. 姫は『教育』するそうです




 Vパレスプロダクションさんとの初の外部コラボの『Vすたコラボ』を成功させてSNSやV業界でも多くの反響をもらった。


 特にFmすたーらいぶは今まで外部コラボをやって来なかったからな。これで『お堅い箱』のイメージを払拭できるといいよな。


 そしてオレは今、事務所で他の3期生のマネージャーさんと旅行配信の打ち合わせをし、ある程度の詳細を詰め、打ち合わせは順調に終わり、帰る前に桃姉さんに『姫宮ましろ』のオリジナル曲の相談をしようと、探していると廊下から話し声が聞こえて来た。


 オレはその話し声がする方へ歩いて行くと、桃姉さんと1人の女性が話をしている所に遭遇した。見たことない人だな……新人さんかもな


「うぅ……ぐすっ……」


「泣いても何も解決しないわよ。自分の中で何をしたいのか、そのライバーさんに何を提案するのか、必要なポイントを見つけなさい」


「うぅぅ……」


「泣く前に行動よ。時間は有限なのだから。じゃあ私は仕事に戻るから、また企画書を提出しなさい。……頑張ってね」


 泣き崩れている新人らしき女性にそう言い残し、桃姉さんは歩いて行った。……なんか珍しい光景を見たな。桃姉さんって……一応偉いんだよなチーフマネージャーだし。


 その女性は見た目は可愛い系の顔立ちをしていて髪は肩ほどの長さで整えられた綺麗な茶髪だ。歳は……彩芽ちゃんと同じぐらいかな?胸は……いやそれはどうでもいいか。


 桃姉さんの言っていた言葉も気になるな。行動しろと言っていたが、なんか訳ありなのか……?するとその女性と目が合う。気まずかったのか急いで涙を拭いて走っていってしまった。なんか桃姉さんと話せる雰囲気じゃないし、また後でいいか。


 そんなことを考えるが、さっきの目……泣いてはいるが何か強い意志が宿っているような気がした。


 そしてそのまま家に帰り、彩芽ちゃんと『ましのん』の打ち合わせをしながら夕飯を食べていると桃姉さんが帰ってくる。


「ただいま」


「桃さんお帰りなさい……」


「彩芽ちゃんがカレー作ってくれたけど食べるか?」


「あら、ありがとう。せっかくだからいただくわね?」


 そう言ってオレは彩芽ちゃんの作ったカレーを温める。カレーを食べながら雑談をし、しばらくすると彩芽ちゃんが配信準備で部屋に戻り、リビングにはオレと桃姉さんの2人だけになる。


 ……なんかオレ桃姉さんと話せなくなってる?昔から2人で暮らしているはずなのだが。そんなことを考えていると、ふとあの新人さんのことを思い出す。


「なぁ桃姉さん?」


「なに?」


「いや……今日事務所の廊下で新人っぽい人と話す姿を見かけたんだけど……」


「あぁ……あの子ね……今年の新人マネージャーの1人なの」


 桃姉さんはカレーを食べながら答える。やっぱり新人さんか……なんで泣いてたんだろうな……仕事だろうから、理由を聞くわけにもいかないしな……


「彼女は高坂陽葵。大学を卒業してFmすたーらいぶのスタッフに採用された22歳の新卒の女の子よ」


「……聞いてないが?」


「気になるって顔していたけど?あんたのこと何年見てると思ってるのよ。ほら……『ひなこ様』よ私?」


「まぁ……そうだが……」


「マネージャーの仕事はライバーのスケジュール管理が主な仕事。もちろん体調やメンタルも。それ以外に必要なことがあるわ、それは『企画提案力』。ライバーに案件のプレゼンや提案をするのはマネージャーの仕事よ。どう言ったメリットがあるのか、相手側からどういった配信が求められているのかを汲み取る必要もあるし、それを自分の担当ライバーさんに適しているように配信内容を一緒に考える必要もあるわ」


「……なるほどな。新人さんでも結構仕事を任されるんだな……」


「そうね……うちは特にマネージャーが少ないから」


 桃姉さんはカレーを食べ終わり、皿を流し台に持って行きながら答える。


「まぁ……今は勉強しているということね。人手不足なのは分かっているけど、今のレベルではライバーの担当なんて出来ない。厳しいかもしれないけど成長してもらわないと困る。最近の子はすぐやめちゃう子も多いし。もしかしたら……彼女もやめちゃうかもね」


 少し残念そうな顔を見せる桃姉さん。オレは不思議とあの時の目を思いだし声を出していた。


「……彼女はやめないと思うよ」


「え?」


「なぁ桃姉さん。提案なんだけど、彼女を『姫宮ましろ』のマネージャーにしてもらえないか?オレのマネージャーは桃姉さんだし、何かあれば相談するし。事務所も大きくなって色々大変だろ?それにオレはマネージャーでもあるから彼女の助けにもなれていいと思うし……」


「……ふぅ……確かに、あなたの言う通りかもしれないわ。彼女も相談する相手がいない状況なのも事実だし……もしかしたら、直接担当をした方がいいのかもしれないわね……一度やってみて、ダメなら考えようかしら。颯太お願いできるかしら?」


「ああ。オレなりに教えてみるよ」


 あの時の目が忘れられずに咄嗟に提案してしまった。でも彼女は上手く言葉には出来ないが、何か光るものがある。だってあの目は……初めてVtuberになったきっかけを話してくれた時の彩芽ちゃんに似ていたから。

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