506. 姫は『支配』するそうです
無事に案件コラボのスタジオ収録を終え、オレは七森さんに『姫宮ましろ』のことを話した。
「というわけなんだ」
「なるほど……率直に聞きたいんですけど、神崎さんは……『姫宮ましろ』は女性のアバターですし、それを演じるのは恥ずかしいなって思わないんですか?」
「オレは『姫宮ましろ』であって、声やガワを借りれば誰でも同じ『姫宮ましろ』にはなれない。だから今の『姫宮ましろ』がオレにとっての一等星だし、恥ずかしいとは思わないよ。それだけ誇りは持ってるつもり」
「そうですか。ならいいんじゃないですか?正直、ましろ先輩がどんな人でも私には関係ないと言うか……一番大切なのは『Vtuberであること』だと私は思ってるので。それにバ美肉のVtuberなんて最近では珍しくもないですし、わざわざこちらから言うこともないですよ」
そう言って七森さんは缶コーヒーを飲み始める。どうやら認めてもらえたようだ。すると何かを思いついたように七森さんはオレに提案してくる。
「あー……そっか。ならオフコラボとか普通にできるんだ」
「そうだね。何人かオフコラボはしたことあるけど……」
「ならオフコラボしましょう。ドッキリの件はそれで許します!どうですか面白い配信が思いついたので!」
「オフコラボ?いいけど……」
「じゃあ……今は20時30分なので……22時からで、神崎さんの家でいいですか?」
「え?今から!?」
突然そう言う七森さん。行動力が鬼なんだけど……とりあえず内容を聞いてみると今日のドッキリ企画の裏側を話ながら晩酌オフコラボをしたいとのことだった。確かに今日の今日だからなインパクトしかない。
「彩芽も誘いましょう。どうせいるんですもんね。まぁ……本当は姫宮ましろと話したいって言うのが本音ですけどね?」
「急だな……」
「今日はお酒飲みたい気分なんです。ダメですか?私の晩酌とか珍しいですよ?」
「わかった。やろうオフコラボ」
そしてそのまま晩酌オフコラボ配信をするために、お酒を買ったりと色々準備をして家に戻ることにする。ちなみに彩芽ちゃんも誘ったのだが、流れでゲーム配信をしているらしく配信には参加できないらしい。ということは……七森さんと2人なのか……
「なんかごめんね彩芽。服貸してもらっちゃって」
「大丈夫です。あの……サイズ大丈夫ですか?」
「ピッタリ。私と体型似てるから。そう言えば……さっきふと思ったんですけど、まだ神崎さんが『姫宮ましろ』だと知らない人いっぱいいますね?知ってるのは半分くらいですか?」
「5期生が入ってきたからね。1期生は全員、2期生は七森さん、朝比奈さん。3期生は彩芽ちゃん、玲奈ちゃん、衣音ちゃん。4期生は一ノ瀬さん。5期生は高坂さんだから……10人?」
「まだまだたくさんいますねw」
「そうだね。でも、正体は知らせてないけど3期生と4期生は全員会ったことあるから」
そう考えるとまだ半分なのか……正体を明かしたほうが活動の幅は広がるかもしれないが、それはまだ判断がつかない。でも各期生にオレのことを知っている人がいるまでなったのも事実。それでも……今はこのままでいよう。
そのあとは色々雑談をし、彩芽ちゃんは自分の部屋に戻る。そして時間は21時50分。配信10分前なので準備を始める。
「なんか緊張するな……」
「え?なんでですか?」
「いや……七森さんって同い年だろ?ほら……違うんだよ」
「なにが違うんですかwあ。紗希ちゃんと七海ちゃんからLINE来てるw『香澄ちゃん最高だったよw』『颯太は本当に無茶振りするから気をつけてw』ですってw」
「そんなことないだろw」
「まぁ……『姫宮ましろ』は配信を支配しますからねw」
なんかそれは遠山さくらも同じような気もするが、そんな雑談をしつつ、時間になったのでマイクのミュートを解除して配信を始めるのだった。