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560. 姫は『変えない』そうです

560. 姫は『変えない』そうです




 そして3日後。今、オレは電車で事務所に向かっている。秋の配信ウィークの後半戦はこの週末にも行なわれる。オレは彩芽ちゃんとともに『ましのん』での配信を控えている。改めて『ガチ恋オフコラボ』という企画で後輩ライバーが先輩ライバーの家に行きオフコラボするというかなり難易度が高そうな企画だ。


 オレと彩芽ちゃんは一緒に住んでいるから何も変わらないし、『海ウサギ』『みるくココア』あたりも問題なさそうだけど、他の組み合わせは緊張してるだろうな……


 事務所に着き、いつものように双葉かのんのマネージャーの仕事をし、時間はお昼を回る。すると隣のデスクの高坂さんに声をかけられる。


「神崎先輩。お昼どうするんですか?」


「え?いや適当に食べようかなと……」


「良かったら一緒に食べませんか?私もご飯まだなんで」


 ……まさか高坂さんに誘われるとは。まぁ高坂さんは『姫宮ましろ』のマネージャーだし、何も問題はないんだけど。というか……緊張してきたんだが。高坂さんは22歳で年下で後輩だし。彩芽ちゃんとは違う緊張感がある。違うよ彩芽ちゃん。別に何もないからね?


「あ、うん……いいよ」


「良かったです。それじゃ行きましょうか」


 高坂さんはオレを先導するように前を歩く。そして事務所の近くにある食堂に寄る。ちなみに今日の日替わりはきのこクリームのパスタらしい。高坂さんはそれを頼み、オレはオムライスを注文する。そして料理が運ばれ食事をすることにする。


 一応個室になっており、この空間にはオレと高坂さんしかいない。その状況がまた緊張する。


 それに高坂さんと2人きりで一緒にご飯を食べるのは初めてだな……でもなんでオレと?そんなことを考えていると高坂さんが口を開く。


「あの……すいません突然誘っちゃって」


「いや、別に大丈夫だよ」


「実は悩み事があって……聞いてもらえませんか?」


「悩み事?オレなんかで良ければ聞くよ」


 高坂さんは周りを見渡し、誰もいないことを確認して話し始める。まぁ個室だから誰もいないんだけどさ。


「……実は私……『星影つむぎ』が捜査一課ってバレたじゃないですか?」


「うん。反響あったよな」


「それで……どのラインまで大丈夫かなって思って。私……ガチ恋勢じゃなくて本当に尊敬してるんです。でもリスナーさんは『ガチ恋』感を求めてると思ってて……私は公式Vtuberだし……」


 つまりは『星影つむぎ』が捜査一課……『遠山さくら』推しの振る舞いの話しか……


「まぁ……高坂さんが無理する必要はないんじゃない?カップリングって色々な関係があるだろ?素直に『星影つむぎ』と『遠山さくら』の絡みを見るだけで嬉しい人もいれば、自分の推しカプだけを求める人もいる。オレはどちらでもいいと思う」


「そうですよね……でも私は公式Vtuberとしてファンを裏切りたくないんです。だからどうすればいいか分からなくて……」


「……高坂さん。その悩みはオレには分からないけど、1つ言えることは、無理してキャラを変える必要はないってことだよ。オレなら変えないかな」


「え?」


「確かに高坂さんが言った通りに『ガチ恋』を求めてる人はいると思う。でもそうじゃない人もいるからさ?高坂さんが思う『星影つむぎ』として行動すればいいと思うよ?それがVtuber の強みだと思うから」


「そう……ですよね!やっぱり神崎先輩に相談して良かったです!」


 高坂さんはそう言って笑顔を見せてくれる。その笑顔は年相応で可愛らしい。


「あ。今日は私がお誘いしたので奢りますね?」


「大丈夫。オレが出すから。ここは先輩に奢らしてくれ」


「じゃあ……お言葉に甘えます。今日の雑談のネタが出来ましたねw」


「え?まぁ『姫宮ましろ』に奢ってもらったって話ならオレにとっても悪くないか」


「それもですけど、きちんと『オムライス』を頼んでたことですよ?ほら『姫宮ましろ』の好きな食べ物ですもんねw」


 なら、高坂さんも『星影つむぎ』ちゃんの好きなパスタ頼んでたけどな。まぁ元気が出たならいいか。


 こうしてオレたちは他愛もない話をしながら食事を終えた。こういう何気ないことを配信のネタにするなんて高坂さんもきちんとVtuberなんだなと少し嬉しい気持ちになった。

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