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675. 姫は『頼もしく』なったそうです

675. 姫は『頼もしく』なったそうです





『煌めく聖夜のFmすたーらいぶ感謝祭!』の配信が無事に終わり、今年も残りわずかとなった。オレはいつものように朝配信を終えて、リビングで遅めの朝食を取ることにする。


 そのままリビングに向かうと、そこには休みなのだろう、ソファーに寝転がりながらスマホを弄る寝巻き姿の姉の姿があった。


「おはよ~。配信お疲れ様」


「ああ」


「あら?もしかしてご飯作ろうとしてる?」


「……なんだよ?」


「いや。せっかくだから私の分も作ってくれないかなぁって思ってさ?」


 ……なんか最近サボってないか?ちなみにオレ、彩芽ちゃん、桃姉さんは基本は生活スタイルが違うから、各々外食や買ったり注文したりしているのだが、たまにこうやって料理を作ることもある。それが最近オレか彩芽ちゃんがやることが多い。まぁ別に良いけど。どうせ言ったって変な理屈をこねて、なんだかんだ言って作らせるんだろう。


 オレは冷蔵庫から卵とハムを取り出し、フライパンを温める。その間に食パンをトースターに突っ込み、インスタントのスープを作り始める。そしてものの5分もかからず朝食が完成した。


 それをテーブルに並べると桃姉さんが嬉しそうに席に着く。オレも向かい側に座り、手を合わせる。すると何か思い出したかのように口を開いた。……なんだ?また変なお願いじゃないだろうな?


「あっ颯太。実は重要なことがあるんだけど」


「重要なこと?またなんか忘れてて、いきなり明日収録とかじゃないだろうな?」


「違うわよ!……実はね。来月でマネージャーが1人産休に入るのよ」


「え?ああ……ひなたさんとすずめちゃんのマネージャーさんだろ?」


 確か再来月が予定日だったかな?ギリギリまで働いてくれてたからな。お腹も結構大きかったし。


「なのにマネージャーは増えないのよ。人事の部長に言っても、どこの部門もギリギリの人数って言うのよ?それでね、私がフォローすることも考えたんだけど、現実的に難しそうなのよね」


「そうなのか?」


 まぁ桃姉さんはチーフマネージャーだからな、マネージャー全員を総括する立場にある。だからこそ自分の担当を持つことは難しい。それこそ桃姉さんが忙しくなるだけだろう。


 桃姉さんは料理を食べる手を止めて、真っ直ぐにオレを見る。そしてテーブルに両肘を置き、手を組んでそこに顎を乗せた。


 ……なんだ?ヘラヘラした雰囲気なんだが?


 オレは思わず警戒してしまう。桃姉さんはそんなオレを見て、ニヤリと笑った。


 ……あ。これダメなやつだ。


「あんた『神川ひなた』ちゃんのマネージャーになってくれない?」


「え?」


「CGSプロジェクトが始動している以上、ひなたちゃんのマネージャーをはずすことは出来ないわ。そしてあなたも来年から面接やら選考やらの仕事が入って、CGSプロジェクトの仕事にも力をいれないといけない。『姫宮ましろ』は毎日朝配信がルーチン化されているから、必然的に午後はCGSプロジェクトの仕事になるだろうし。場合によっては朝配信を削る必要も出てくると思うし、夜にやるような配信コラボや公式配信の露出は減ると思うわ」


「それはオレも理解しているよ。中途半端では出来ない仕事だろうし……そうなると彩芽ちゃんのマネージャーはどうするんだ?」


「それは高坂さんに彩芽ちゃんのマネージャーをやってもらうわ。あの2人は同い年だし問題はないでしょ?」


 高坂さんなら問題はないけど……彩芽ちゃんのマネージャーを外れるのは少しだけ寂しい気持ちはある。あの日からずっと二人三脚だったしな。


 でも……最近薄々感じているのだが、少しお互いがお互いに依存しているような気はしている。この前、彩芽ちゃんには話したが、もう『ましのん』を組んだ当初のようなチャンネル登録者の伸びはほぼ期待できない。お互い何か新しいものを見つけるべきではある。


 だからこそ1度離れることで、お互いにまた成長できるような気もする。それにCGSプロジェクトに携わる以上、月城さんのマネージャーをやったほうがオレのためにもなると思うしな。オレは少し考えたあと、桃姉さんに頷き返す。


「分かった。彩芽ちゃんにはオレから話すし、高坂さんには引き継ぎをしっかりして年明けからそれで動けるようにする」


「そう?なんか……言うことなくて変な感じ……」


「無理に何かを言わなくてもいいだろ」


「そうだけど……いつの間にこんなに頼もしくなって……お姉ちゃん泣いちゃうわw」


「笑うなよw」


 こうしてオレは月城さんのマネージャーに、高坂さんが彩芽ちゃんのマネージャーになることになった。

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