680. 姫は『伝説』をつくるそうです
そして時間は21時。えるるちゃんの枠で異例の謝罪配信が始まる。ちなみにすたライは21時30分からなので、そこまではえるるちゃんが経緯を含めた話をするという配信になる。
「えっと……みなさんこんばんは。八神えるるです。今日は少しお時間を頂きまして、ご報告と謝罪をさせてください」
配信が始まると、コメントがすごい速さで流れていく。すでにSNS上で今回の騒動は拡散されているからな。そしてえるるちゃんはその状況を確認しつつ話を続ける。
「この度はご心配をお掛けしてすみません。まず経緯ですが、本来はやってはいけない時間帯のすたライの時間に枠を立ててしまいました。これは本当にアタシの不注意に他ならないことで、事務所、ライバーさん、リスナーさんにご迷惑をお掛けしました」
コメント
『えるるちゃん……』
『大丈夫だよ。みんな分かってるから!』
『気にすんなー!』
そんなコメントが流れ始める。どうやら炎上の火はだいぶ下火になったらしい。それに『えるファミ』のみんなは温かいよな。
「ぐす……ありがとうございます。でも本当にすいませんでした」
コメント
『泣かないで』
『無理しないで大丈夫』
『配信も無理しないで』
えるるちゃんの声は若干涙声になっていた。それでも頑張って謝罪している姿に、リスナーも感動しているのだろう。コメントの流れる速度が先ほどより明らかに上がっている。
「アタシがお願いできる立場じゃないんですけど、他のライバーさんは、今回の件は関係ないので誹謗中傷はやめてほしいです。そもそもアタシは今、特例ということで配信させてもらってます。本来であれば間違っているのはアタシのほうです。なので……どうかよろしくお願いします」
えるるちゃんの姿にコメント欄は更に加速する。でも誹謗中傷のコメントを投下している人は誰もいなかった。
「みんなが楽しみにしていたすたライをこんな形で始めていいのかって考えたんですけど……やっぱり『えるファミ』が喜んでいるのを目にして配信を中止にできませんでした。今のモチベーションで楽しませられるか分からないけど、精一杯すたライのカウントダウン配信をしますので、どうか楽しんでいただけたらと思います」
コメント
『楽しみ!』
『大丈夫。最後まで見るよ』
『無理しないでね!ずっと見てるから』
そんな温かい言葉が流れる。本当にいい人たちだよなみんな。オレも思わず笑顔になってしまう。でもいつまでもこの感動に浸っている訳にはいかないな……そろそろオレ達も動かなければならないのだから。
オレはすぐにディスコードを開き通話に参加することにする。
「あ。ちょっと待って……えっと……いやその今配信してます。えっ……いやそれは……はい……分かりました」
コメント
『どうした?』
『大丈夫団長?』
『運営か?』
《あ。聞こえてるかな?》
《これ入ってるのかしら?えるる?》
「今入れました」
コメント
『ほわ!?』
『姫とママじゃね?』
『うおおおおましリリィ!?』
『来てくれたのか』
『嘘だろ!?』
『二大巨頭が来たぁ!』
《なんかえるるちゃん、今からカウントダウン配信するんだって?》
「え?あっはい……」
《なんか元気ないわね?ましろ知ってる?》
《いや?ましろ知らないけど》
「あの……」
《どうしたの?炎上でもしたの?w》
コメント
『草』
『炎上したぞw』
『早速切り込んできたw』
《まぁ今回はみんなを騒がせてしまってごめんなさい。ここは先輩の私たちの指導不足ということで許してあげてほしいわ》
《えるるちゃんもわざとじゃないと思うけど。でも、社会人として会社のルールを守らなかったのは事実。今回はこの場を借りて、ましろたちFmすたーらいぶ、そしてえるるちゃんも深く反省しています。申し訳ございませんでした》
「本当に申し訳ございませんでした!」
《ということで、えるるには深く深く反省してもらわないといけないわよね?》
《えるるちゃんは今日何でもやるでしょ?》
「はい!何でもやります!」
コメント
『草』
『何でもw』
『これは神回w』
《じゃあ今年最後だから私たちをもてなしてもらわないとw》
《御祓だよね。来年はまた新しい気持ちでスタートして欲しいしねw》
「え……もてなすとか御祓とか、アタシ何すればいいんですか?」
《そりゃあ……Fmすたーらいぶ初のカウントダウン配信として、立派に司会をやって私たちが満足するように配信回してもらわないとw》
《ましろは今日は伝説を作りに来たから。あ。ちなみにえるるちゃん。ましろとリリィさんのコラボも初だからwみんなが5年越しに待ち望んでいた『ましリリィ』が今日コラボしてるんだよね。いやぁ……ましろが言うのもあれなんだけどさ、えるるちゃんすごいねwきっとさ、この配信は伝説の謝罪配信として語り継がれていくんだよw》
「伝説の謝罪配信w確かにそうじゃん!うわぁ!どうしよう……反省しなきゃいけないのに……アタシ……」
コメント
『もう反省した』
『次やらなきゃ良き』
『この配信もてなそう!』
『団長頑張って』
『伝説作るぞ!』
『えるファミも一緒だよ!』
《ほらコメント欄の言う通りよ。いつまでも落ち込んでいても仕方ないじゃない。それよりも今あなたができることを精一杯やるべきよ?八神えるるはFmすたーらいぶの応援団長なんでしょ?》
《そういうこと。いつも通り元気なえるるちゃんで配信回してね?何かあったら、リリィさんのせいでいいからさ?》
《なんで私だけなのよw》
《リリィさんは炎上のプロじゃんw》
《誰がプロよw》
コメント
『団長流れがw』
『回せ!』
『頑張れえるるちゃん』
「あ。本当にアタシが司会やるんですか?荷が重すぎるんですけどw」
《大丈夫。今年1番の炎上をさせたんだから。もう怖いものなんてないでしょw》
《えるるちゃんはきっと後でこう思うんだよね。ましリリィ面倒すぎ!もう絶対炎上しない!ってさ?》
《面倒なのはましろだけだからw一緒にしないでw》
《あ~!リリィさんましろの悪口言った!》
「もうどうしたらいいの!?ひなた先輩助けて~!」
とりあえず、二大巨頭『ましリリィ』の乱入によってえるるちゃんの配信の空気は一変した。あとは、この配信を忘れられないものにするために盛り上げるだけだな。