「そうだった! 千尋さまの治療のおかげで全く痛みませんでした。ありがとうございました。いつもなら雨が降る二、三時間前から痛みだすのですが、今日は全く。そのおかげですっかり寝過ごしてしまいました」
そう言って笑った鈴を見て千尋も笑う。
「それでとりあえず羽織だけを羽織って出てきてくれたのですか? これ、私がプレゼントした羽織ですよね?」
「はい。この羽織、とても綺麗でいつ着ようかって思ってたんですが、千尋さまに一番にお見せする事が出来て良かったです」
「そんな風に言ってもらえると私も贈った甲斐がありますね。思った通り、とてもよくお似合いです」
千尋は言いながら鈴の羽織の柄をマジマジと見つめている。
「その他のお洋服も順番に着ていこうと思います。それから頂いた反物で着物も縫おうと思ってるんです」
「それは出来上がるのが楽しみですね。出来上がったらまた一番に見せてくださいね」
「はい!」
思わず漏れた笑みに千尋も笑う。
これから一ヶ月も千尋が居ないのかと思うと何だか寂しいが、千尋の事を待っている人たちが居る事を考えると、早く戻れるようになって欲しいと思うのと同時に、何故か胸が傷む。
神森家にやってきてまださほどの時間を過ごした訳でもないのに、ここの人たちは既に鈴にとってはとてもかけがえのない人たちになっている。
「千尋さま」
「はい?」
「どうか、道中をお気をつけて」
鈴はこの思いを何て千尋に伝えれば良いのか分からなくて、とてもありきたりな事を言ってしまったけれど、それでも千尋は見たこともない優しい顔で微笑んでくれた。
「ありがとうございます。鈴さんもどうか私が留守の間気をつけてくださいね」
「はい!」
その時だ。窓の外が激しく光ったと思ったら、突然大きな音が辺りに鳴り響いた。
「っ!!!」
あまりの大きさにそれが雷だという事に一瞬気づかなかったほど、鈴は声にならない声を上げて思わず隣に居た千尋にしがみつく。
そんな鈴を千尋は優しく抱き留めて柔らかく言う。
「おやおや、あなたも雷が苦手ですか?」
「い、いえ、普段はそうでもないのですが、ここまで近くに落ちるのは初めて――っっっ」
最後まで言い終えないうちにまた雷が庭に落ちる。多分、これがさっき千尋が言っていた準備が整った時の合図なのだろう。