「ち、千尋さまは流石ですね……」
「何がですか?」
「こんな大きな雷を聞いても――また!?」
また話の途中で落ちる雷に思わず鈴が口調を荒らげると、そんな鈴を見て千尋が笑った。
「ふ……ふふ、すみません。怒る鈴さんは少し新鮮ですね」
「お、怒った訳ではないのですが、何ていうかこう、あまりにも怖かったり驚くとムカッとしませんか?」
「例えばお化けとかにも?」
からかうような声に鈴は千尋からようやく体を離して頬を少しだけ膨らませた。きっとあの蔵の事を思い出したのだろう。
「も、もう忘れてください」
「はは、すみません。さて、それではそろそろ私も出発しましょうか」
そう言って千尋は鈴の頭を撫でると立ち上がり、かけてあった羽織に袖を通す。
「この部屋からが一番よく見えると思います。良かったらここから見ていてください」
「いいんですか?」
「もちろんです。それでは行ってきます。雅、そんなに怯えなくても次が最後ですよ」
千尋はそう言って机の下を覗き込むと、そこにはさっきまでお腹を出して寝ていた雅が、いつの間にか丸くなって震えている。
「雅さん、私も怖いので抱いても構いませんか?」
何だか不憫になってそんな雅に鈴が尋ねると、雅はすぐさま机から出てきて鈴にしがみついてくる。
「もちろんだよ! あたしが側に居てやるから安心しな!」
「雅、ヒゲが震えていますよ」
「あんたは黙ってさっさと行きな! 気をつけるんだよ!」
「はいはい。それでは家のこと、しばらくよろしくお願いします。行ってきます」
「はい!」
鈴は千尋を玄関まで見送ってそのまま千尋の部屋に戻ると、窓に張り付いた。
「こんな雨なのに、千尋さま濡れないのでしょうか?」
千尋は傘も持たずに外へ出ていったが大丈夫なのか? そんな事を考えながら腕の中の雅を見ると、雅はまだ毛を逆立てて早口で言う。
「よく見てみな。あいつの周りだけ雨、降ってないだろ?」
言われて鈴は視線を窓の外に移して凝視すると、確かに雨は千尋だけを避けている。
「凄いですね! これが龍神さまのお力ですか?」
「いや、あれはあの雷鳴らしてる龍の力だよ。確か千尋の知り合いだって言ってた気がする」
「雷の龍、という事でしょうか?」
「そうなんじゃないか? あたしも龍の事はよく分からないんだけどさ。鈴、いよいよだよ!」