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10、雪の舞祭

 雪の舞祭当日の朝、学校に着くと、既にA組の皆は教室に集まって準備を始めていた。


「メニュー班、ちゃんと材料揃ってる?」


「食パンがまだ来てない! 最後の飾り付けはどんな感じ?」


「今足りないとこを飾り付けてる!」


 バタバタと動き回る皆の様子を見て、いよいよ文化祭が始まるのだと実感した。


「そろそろ開会式始まるし、とりあえず皆体育館に移動しよう」


 実行委員らしく僕が指示を出すと皆が「はーい」と返事をして移動を始める。


「水瀬おはよう」


「おはよう、三宅君。今日はよろしく」


「ああ、任せとけ」


 彼の爽やかな笑顔を見て、僕も安心する。


『只今より、第125回私立六花高校雪の舞祭を開会します』


「「おおー!!」」


 雪の舞祭の開会式は異様なほどの盛り上がりを見せた。文化祭という非日常な世界を堪能しようという生徒たちの熱い思いが伝わってくる。もちろん僕も例に漏れず、今日と明日の2日間をとても楽しみにしていた。


 開会式が無事に終わって教室に戻ると、一般のお客さんが入れるようになる一般公開が30分後に迫っていたため、最初のシフトに入るクラスメイトたちが衣装に着替え始めた。


「じゃーん! どうどう? A組のメイド喫茶の衣装!」


 衣装班の班長の中田さんが、可愛らしいメイド服を身に纏った女子たちを指さして言った。


「かわい~!」


「すごい、これ全部作ったの?」


 他の女子たちが目をキラキラさせながら歓喜の声を上げた。


「衣装班の班員で手分けして仕上げたよ。大変だったけど皆腕が良くて助かったんだ」


「さっすが、選りすぐりの衣装班だね!」


 女子たちに絶賛された中田さんは「へへっ」と照れながらも得意そうな顔をしていた。


 一方僕たち男子は、衣装の出来を評価することもさることながら、それ以上にメイド服に身を包んだ女子への評価で盛り上がっていたことは言うまでもない。


「やっぱ、1番は新川だよな」


「分かる分かる。新川さん1位は譲れないわ」


「そうか? 俺は白木さんを推すぞ」


「お前ほんと白木さん好きだよなー」


「う、うるせー」


 ……とまあ、それぞれのイチオシの話で盛り上がる僕たちは、女子から冷ややかな視線をいただいた。その中でも、学級委員の木村さんが僕たちをじろっと睨んだ。


「はいはい、くだらない話してないで、とっとと開店の準備始める! ちなみに新川さんも白木さんもあんたたちには渡さないからね!」


 あっかんべー、と言わんばかりに男子を叱責する木村ささん。怒られた僕たちは大人しく「はい」と言って準備を続けた。


 そして30分後。


「よーし、もう開店するよ。皆、準備はいい?」


「「おっけー!」」


 ついに、雪の舞祭の一般公開が始まった。


「いらっしゃいませ!」


 開店から15分も経たないうちに他校の学生や親子連れのお客さんがやって来る。


「メイド喫茶だって、面白そう」


「店員さんの制服可愛い!」


「入ろうぜ!」


 そんな嬉しい声も聞こえてきて、僕も俄然やる気が湧いてきた。


「水瀬、中手伝ってー!」


「お、おう!」


 メイド喫茶は思いの外盛況だったので、フードやドリンクの提供はかなり目が回るような忙しさだった。


「2番、紅茶とモンブランお願い!」


「5番は?」


「5番はアイスコーヒーだけ!」


「了解っ」


 バタバタとせわしなく注文を通して提供をしている間も、メイド服の女子たちは終始笑顔で接客していた。さすがは我がクラス、2年A組の接客クオリティだ。

 シフトは3時間交代制だったが、僕は実行委員なので3時間が過ぎても働いていた。しかし途中でクラスメイトの一人が、僕に声をかけてくれた。


「水瀬、今日はもう俺らで何とかするし、お前も休憩行ってこい」


 その厚意に感謝し、お言葉に甘えることに。とはいえ、時計を見ると午後3時、雪の舞祭1日目終了まで残り1時間しかない。


「どうしよう」


 とりわけ誰かと一緒に文化祭を回る約束もなかったので、一人でどこに行こうか迷っていた。とりあえず校舎をめぐろうと思ったが、ふと彼女の言葉を思い出した。


——D組の『何でも展示店』来てね。


 そういえば今日、彼女はA組のメイド喫茶には来なかった。

 彼女も実行委員で忙しく、ずっとシフトに入っているのかもしれない。

 それならば、会いに行けば喜んでくれるかもしれない。なんて、僕の願望に過ぎないのだが、他に行くあてもなかったので僕はいそいそと彼女のいるD組へと向かうことにした。




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