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15、きみが震える理由

 そう、2年D組の人たちは、彼女のことをよく思ってはいない。皆、と断定するのは早合点かもしれないが、少なくとも大半のクラスメイトは天羽夏音のことを疎ましく思っている。


——天羽さん、なんで休んでるのか知らない?


——知らないよ。風邪じゃない?


 店番をしていた女子は、クラスメイトでしかも実行委員の彼女に対してさも無関心という感じだった。

 無関心なのはきっとその女子だけじゃないのだろう。D組の皆に、もう少しだけでも彼女に協力する心があったのなら、展示品だってもっとバラエティに富んでいたはずだ。


「私はね、皆に好かれるような人気者じゃないの。この間も言ったけど、いつも周りになんて思われてるか気になって仕方ないんだ。クラスの人たちがね、私のこと悪く言ってるのも聞いたことあるよ。『天羽さんは頭が良くて可愛いけど冷たいから嫌い。お高くとまってるとこがいや』って。でもね、私だって皆のこと信じられないからおあいこなんだ」


「そんなこと、ないだろ」


 なぜ、彼女がそんなふうに悪く言われなきゃならないのか、僕には理解できない。みんな本当は彼女が羨ましくて妬んでるだけなのか? 特に女子は、そういう感情に敏感だ。D組のみんなが、完璧な彼女に嫉妬しているというのはその通りかもしれない。


「そんなこと、あるんだって」


「違うよ」


「違うって何が?」


「おあいこなんかじゃないってこと。きみは悪くない」


 僕がそう言うと、彼女はなぜか泣き笑いのような表情を浮かべて僕の方を見た。


「……私が悪くなかったら、じゃあ誰が悪いの」


 天羽さんが、助けを請い求めるようなまなざしで僕を見据えた。身体はもうとっくの前から震えている。怖いのだ。自分に向けられる悪意が、自分の過失のせいではなく、ただの“純粋な悪意”であることが。

 そして、こうも思っているはずだ。

 クラスメイトが悪意に支配されているのが自分のせいなら、みんなを変えるには、自分が断罪されるしかないのだと。


 ああ、そうか。

 僕はようやく、彼女が震えている理由が分かった。

 きっとそうやって原因を自分の中に求めることで、自分以外の世界の全てを肯定しようとしてるんだろう。


「……ははっ」


 僕が突然笑い出したので、彼女は訳が分からないというふうに怪訝そうな顔をした。


「きみは、とてつもなく良い人なんだ」


「え?」


「自分に降りかかる災難を全部自分のせいだと思っているだろ。きみは何一つ悪くないことでも、自分が悪いと思い込むことで、他人を守ってるんだ」


「……」


「でも、それは決して良いことなんかじゃない。そんなこと続けてたら、いつかきみが壊れてしまう。今日みたいに、きみが震えて泣いてしまう」


「私、泣いてなんか」


「泣いてるよ。きみは心の中で泣いてる。いいか、他人の責任まで自分で背負い込むのはな、自己犠牲って言うんだ。僕はきみに、自分を大事にしてほしいと思う」


「自分を、大事に……」


「そう。だから、僕にちょっと付き合ってくれないか?」


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