東京から横浜のみなとみらい駅に到着した時、時刻はすでに18時を回っていた。
夜のみなとみらい駅は横浜という場所が醸し出す雰囲気のせいなのか、きらびやかに輝いて見える。
「うーん! 一度来てみたかったんだよね、横浜のみなとみらい」
電車から降りて隣で伸びをしている彼女を見ると、だいぶ表情が明るくなっていてほっとした。
「天羽さん、東京に住んでるのに、今まで来たことなかったの?」
「ないない。だってウチ、ああいう家庭でしょ? 家族でお出かけなんかろくにできなかったの。高校ではあんまり遊ぶ時間も、友達もいないしなあ」
その答えを聞いて、僕は自分がした質問が少し軽率だったのではないかと焦ったが、彼女はそれほど気にしていないようだった。
「ねぇ、それより早く遊びに行こうよ」
彼女は子供のように大きな瞳を輝かせながら、僕の手を掴む。
さっきまで僕の方が彼女の手を引いていたのに、今は立場が逆転していておかしかった。
僕は小さい頃みなとみらいに来たことがあったが、その時は母親に手を引かれるがまま歩いた。夜になると、あちらこちらの建物から色鮮やかな光が溢れ出て、小さな僕はまばゆい光の中で溶けて埋もれてしまいそうだった。
「水瀬君はどこ行きたい?」
彼女が振り返って、にこにこしながら僕に尋ねる。
家族でこの場所に来た時とは違って、「女の子と二人きり」という状況が、フワフワと浮き足立つような心地にさせた。
「そうだな~まずは赤レンガ倉庫にでも行きますか!」
彼女を励ますためにわざわざ電車に乗って横浜まで来たのに、彼女に主導権を握らせておくわけにもいかないと思った僕は、彼女の手を握り直して、目的の場所まで連れて行くことにした。
「わっ……」
電車に乗る時といい、今といい、僕の積極的な行動に、彼女は驚いているようだった。
無理もない。普段の僕は、どちらかというと人の指示について行く方だし、まして女の子に対して積極的になったことなんて一度もないのだから。
だから実は今の自分の行動に、自分が一番驚いている。
でも、いいじゃないか。だってこの場所では、周りでもたくさんのカップルたちが楽しそうに華やいでいるのだから。
「へぇ、赤レンガの中ってこんなふうになってるんだ」
観光スポットとしても人気の赤レンガ倉庫に入ると、たくさんのお土産屋さんやアクセサリー屋さんがあって、色んなものに目移りしてしまう。
「ねえ、これすごく綺麗じゃない?」
彼女がそう言って僕に見せてくれたのは、飴玉をモチーフにした青色のストラップだった。きらりと光る宝石のような透明な珠が、彼女の瞳の前で揺れた。
「本当だ、綺麗だな」
「他にもいろんな色があるのね」
「うん、そうみたいだ」
天羽さんは色とりどりのキャンディを手に取りながら、愛おしそうに眺めている。絵を描くのが好きというだけあって、こういった色鮮やかで美しいものには目がないようだ。
「ちょっとそれ貸して」
「え、うん」
僕は彼女が今手に持っていた青と黄色のストラップを受け取り、それをレジまで持っていった。
「はい、これ。お揃い」
そう言って青い方の飴玉ストラップを彼女の手の平に乗せると、彼女は最初とてもびっくりして、それから大事そうにそれをぎゅっと握りしめる。
「ありがとう」
はにかんだ彼女の表情が、僕の心にぽっと灯をつけた。その笑顔を見られただけで、買ってよかったと思える。
僕も自分用に買った黄色のストラップをスマホのカバーにつける。彼女とのお揃いのものを手に入れられたことに、心の中でガッツポーズした。