さて……と。
やっぱり核心をついていくしかないか。
「その友達って、誰?」
「誰って……中学の時の友達よ。前にも言ったわよね」
「その友達の名前は?」
「名前? 名前なんて聞いてどうするの。言ったって友一には分からないじゃない」
だんだんと、彼女がいら立ち始めているのを感じる。それもそうだ。彼女にしてみれば、なぜ僕がここまで執拗に友達のことを聞くのか分からないだろうから。
「いいから教えて」
「どうして? 友一に私の友達のこと教えたって、意味な——」
「沢田さん……だろ」
僕が、沢田さんの名前を口にした瞬間、夏音の肩がビクッと震えるのが分かった。
「どうして」
「沢田桃。昨日僕のバイト先に入ってきた女の子なんだ」
今度は怯えるような表情で僕を見る夏音。本当はこんなふうに、彼女を追い詰めたくなんかない。家に帰ってきたら、「おかえり」と言って一緒にテレビを見たりくだらない話をしたりするだけでいい。僕だってそうしたい。彼女と思い描いた幸せな日常は、そういう些細な温かい風景なのだから。
沢田さんが僕のバイト先に入ってきたこと。それから僕が、沢田さんと夏音の関係を知っていること。その事実を繋ぎ合わせたら、僕が何を言いたいのかぐらい、頭の良い夏音には簡単に分かっただろう。
「夏音、きみは本当は今日……いや、今日までずっと、沢田さんに会ってなんかない。そのことは彼女から直接聞いた。それと、きみには沢田さん以外、中学時代の友達がいないことも」
「……そんなこと」
彼女は明らかに動揺していた。自分の嘘が、完全にばれてしまったと悟ったのだろう。先ほどの堂々とした態度とは違って、今は小動物みたいに小さくなって僕のことを見ている。
そんな彼女を見ていると、なんだか彼女をいじめているような気分になって、申し訳ない気持ちがした。
それでも、本当に夏音のことを好きで大切に思うなら、僕は真実を知らなければならない。
「夏音。きみは、嘘をついてたんだね」
「私、嘘なんか」
「ついてるんだ。僕は沢田さんから全部聞いたから知ってる。勘違いしないでほしいのは、きみが嘘をついているからと言って、僕はきみを責めたいわけじゃない。ただ、本当のことを言ってほしいだけなんだ。夏音、きみは本当は何をしに京都に来たんだ? それから今まで、僕と一緒にいない間、何をしてたんだ」
僕は一気に彼女を問いただした。決して彼女のことを責めたいわけじゃないというのは本当だ。彼女とこれからもずっと一緒にいたいと思うからこそ、心を鬼にするしかなかった。
しばらく彼女は、何か得体のしれないものを見るような目で僕をじっと見つめた後、徐に視線を落として何か考え始めたようだった。しかしそれは、「どうやってこの場を切り抜けるか」を考えているというよりも、本当に何を言えば良いか分からないというふうに見えた。
彼女が黙り込むと、二人の間に気まずい空気が流れる。喧嘩をしているわけでもないのに、互いに互いの出方を様子見ているような時間がとても居心地悪い。背中から嫌な汗が滲みてくる。全部なかったことにしたいと思うと同時に、彼女の真実を知らなければならないという使命感がかろうじて僕をその場に立たせていた。
数分の出来事だったのに、永遠かと思っていた時間。彼女はようやく口を開いて、蚊の鳴くような声でこう呟いた。
「私……分からない」