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16、久しぶりのデート計画

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 高校2年生の初夏に恋人同士になった僕たちは、それから一年が過ぎても、円満な交際を続けていた。

 彼女と迎えた初めての夏休みには海に行ったり花火大会に行ったりと、定番だが幸せな時間を過ごした。それからクリスマスも、お正月の初詣も、夏音や僕の誕生日も、僕たちはちゃんと恋人らしく二人一緒にいた。


 学年が上がり3年生になると、同級生たちは皆大学受験や就職のことを本格的に意識し始めた。もちろん僕たちも例に漏れず、お互いが自分の進路を真剣に考えるようになったことは言うまでもない。

 それにプラスして、1年付き合っていると流石に付き合い始めの時よりは「いつも二人でベッタリ」という訳にはいかなくなる。もともとお互いに自分の時間も大切にしながら付き合い続けていたが、大学受験に向けて、今までより一層自分と向き合う時間が増えたと言えば良いだろうか。


 そういった環境の変化もあり、交際1年が過ぎると、以前より二人で過ごす時間が減っていたのは事実だった。

 それでも僕たちはお互いのことを大切に思っていたし、これからも二人でいることに変わりはないと思っていた。


 そう、あの日までは——。



 僕たちが交際を始めてから1年半にあたる11月は、僕の誕生月だった。だから僕は、自分が誕生日を迎えるとはいえ、二人の1年半をお祝いするために彼女と久しぶりに出掛ける計画を立てていた。


 このところ二人とも受験勉強に必死で、二人でデートに行く時間が全くと言っていいほど取れていなかった。特に夏音が東京の難しい大学を目指していたこともあり、1日のほとんどを勉強時間に費やしているようだった。それに加えて、彼女は依然として母親とも距離を置いたままで、心が休まる暇がないように見えたのだ。久しぶりに気分転換でぱーっとお出掛けでもして彼女を喜ばせようと思った僕の気持ちも自然ではないかと思う。


 彼女との記念日をお祝いする計画を立てるのは、とても楽しかった。

 何せ数か月ぶりのちゃんとしたデートだ。

 朝から彼女を外に連れ出して、美味しいものを食べて、心が躍るような場所に行こう。ちょっとぐらい費用がかさんだって構わない。彼女の心の疲れが癒えて、これから受験に向けて頑張るための英気を養ってくれればそれで良かった。


 彼女が好きなものを思い浮かべながら、当日のプランを考える。

 付き合い始めたあの日、横浜で屈託なく笑っていた夏音。

 そんな彼女の笑った顔を、僕はもう一度側で見たいと思った。


 いよいよ計画を立て終わり、当日に訪れる予定の店の予約も取った。これでもう完璧、あとはその日が来るのを待つだけだ、早く夏音に予定を伝えたい―と意気込んでいた時、その日は確か日曜日だった。僕は街に出てチェーン店の喫茶店で勉強でもしていたのだと思う。その帰り道、僕は見てしまった。


 夏音が、僕の一番の親友である三宅創と、二人で並んで楽しそうに歩いているところを。


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