「大学1年生の夏休みに何をしていたか?」そう訊かれると、大抵の下宿生が「帰省」と答えるのではないだろうか。特に僕みたいに大学の部活やサークルに所属しているわけでもなく、バイト以外にやることがない人にとって、初めての大学生活での夏休みは実家に帰るのが最も賢明な長期休みの過ごし方なのだ。
そういうわけで、僕は去年の夏休みに2週間ほど東京の実家に帰省していた。
帰省の醍醐味と言えば、もちろん家でだらだらと過ごすことなのだが、ちょうど僕が帰省している期間に、私立六花高校3年A組の同窓会が催されるため、僕も同窓会に参加することになった。ちなみに六花高校では、2年から3年でクラスが変わらないため、同じクラスの人とはかなり親交が深まる。それゆえ、大学生になってもこうして皆で集まっているというわけだ。
「よお水瀬」
同窓会会場——と言っても、よくある普通の居酒屋の大部屋に入るやいなや、真っ先に声をかけてきたのは高校時代の親友、三宅創だった。髪を茶色に染めたせいか、以前よりだいぶ垢ぬけて見える。しかし、まだ「やんちゃなスポーツ少年」という感じが少しだけ残っているところもあり、僕を安心させた。
「……三宅君、久しぶり」
「おう」
夏音との一件以来、彼とは没交渉だったため、始めこそ彼と話すことに戸惑いを隠せなかったが、三宅君は思ったより僕に普通に接してくれた。あれから半年以上経過しているし、時効というわけか。
「水瀬じゃないか、久しぶりだな~!」
三宅君以外の友達とも、それぞれ久々に挨拶を交わしながら、僕は懐かしい気持ちにさせられた。元クラスメイトの多くは、関東の大学に通っているため、僕のように地方の大学に通っている人は、どうやら「天然記念物」扱いだ。
やがて参加者が全員お店に集まり、それぞれが久しぶりの友人との再会に歓喜の声を上げるなか、僕たちの初めての同窓会が始まった。
最初の1時間は、くじ引きで決められた席につき、近くの人たちと高校時代の話で盛り上がった。未成年なのでお酒は飲んでいないはずなのに、なぜか皆の声がどんどんと大きくなり、会場全体が高揚とした雰囲気に包まれる。
「水瀬といえば、あれだよな」
「そうそう、アレ!」
幸か不幸か、「天然記念物」の僕は、近い席の人たちの間で話題の中心になることが多かった。
「なんだよ、あれって」
大体の予想はついていたが、話題の中心になるのが小っ恥ずかしい僕は、「何のこと?」というようにとぼけてみせた。
「おいおい、すっとぼけんな!」
「そうよ、学校中で噂になってたじゃない」
「学年一美人の天羽さんと付き合ってたこと!」
……やっぱり。
僕は、予想通りの答えに「はあ」と溜息をつきながら、彼らがこの後どう話を進めるのか、大人しく見守ることにした。
「いや~まさか水瀬が天羽さんと付き合うなんて思ってもみなかったよ」
「ほんとほんと、クラス中、いや学年中の人がびっくりしたんだから」
皆が「ウンウン」と頷きながら、僕と夏音の話を繰り広げる。「まさか」「あの水瀬が」というところから、皆の僕に対する評価の低さを感じないわけではなかったが、僕も大人だ、それぐらいでいちいちとやかく言う器じゃない。
「悔しかったけど、まあ二人仲良かったし、俺たち応援してたんだぜ」
一人の男子がそう言うと、これまた他のメンバーも首を縦に動かしながら僕の方を見た。さっきはあれだけ「何でお前が天羽さんと」とでも言うかのように話を展開していたのに、意外にも皆僕のことを擁護してくれていたらしい。
「でもさ、結局別れちゃったんだよね。どうしてだっけ」