クラス内で天然キャラだった
「ちょ、それは」
佐伯さん以外の人は僕と夏音が破局した時の事情をしっかりと覚えていたらしく、皆揃ってちょっと離れた席に座っている三宅君の方をそうっと確認した。
当の三宅君はというと、近くの席の人たちと会話を楽しんでいて、僕たちの視線には気づいていないようだった。
そんな彼の様子に安心したのか、皆が「もういいだろ」と言うふうに、僕の口から答えを聞こうと静かに耳を傾けてきた。
聞こえていないとはいえ、同じ空間に三宅君がいるため、僕は正直に答えるのはやめて、こう言った。
「マンネリ化ってやつかな」
嘘は言っていない。実際あの頃、僕らの関係は付き合いたての頃よりは冷めていたし、その影響で夏音も三宅君と遊んでいたに違いないから。
「……ま、そうだよな」
「うん、よくあることだわ」
本当は皆、もっと別の答えが聞きたかったのだろうということは、「なーんだ」と肩を落とす彼らの様子を見れば容易に理解できた。しかし、やっぱり皆も大人だ。これ以上僕の過去の話を掘り下げても良い雰囲気にはならないということを察してくれたようだ。
結局そこで僕に関する話題が尽き、それぞれの大学生活の話や、「実は高校時代、○○さんのことが好きだった」というカミングアウトが始まった。今だからこそ言える、みたいな告白は、誰もが聞きたいし盛り上がる話でもあった。そのため、皆が「告白大会」に夢中になり始めた頃、僕はそっと今いる席を立って、三宅君の近くの席に移動した。
「三宅君」
「お、水瀬か。楽しんでるか?」
三宅君は愛想良く突然やってきた僕と乾杯してくれた。どうやら丁度彼の周りにいた人たちがばらけ始めたようで、彼も話し相手を探していたようだ。
「本当に久しぶりだな、水瀬。元気だったか?」
「ああ、元気だったよ。三宅君の方はどう?」
「俺も、相変わらずって感じかなー」
まだ少しぎこちないやり取りではあったが、彼が大学生になっても授業中ほとんど寝ていることや、サッカーサークルで早くもキャプテンに抜擢されたことなんかを話してくれるうちに、自然と以前の調子を取り戻していった。
「それでさ、同期のやつが四月にクラスの女の子に告ったんだぜ。馬鹿だよなあ。そんな急に付き合ってくれなんて、成功しないだろ」
「ははっ。それは言えてる」
彼はなぜか、友達の恋愛事情を知り尽くしていた。それほど交友関係が広いのか深いのか、はたまたそういった話題に敏感なだけなのか。ただ、自分の恋愛のことは一切話さなかった。それでも僕は、彼とまた以前のように仲良く話ができていることが素直に嬉しいと感じた。
「俺さ」
30分ほどお互いの近況について語り合った後、三宅君が神妙な面持ちで僕に向き直る。「これから重大発表をします」とでも言うような彼の様子に、僕は自然ときゅっと身を引き締めてしまう。
「水瀬にずっと、謝りたかったんだ」
彼が何のことを言おうとしているのかは、すぐに分かった。
夏音と三宅君。
あの日、僕が見てしまった二人の真相を、彼は語ろうとしている。
「謝るって、”あのこと”?」
「ああ。あの時水瀬に……お前に、勘違いさせちまったこと、謝りたくて」
彼は、すまなそうに僕の目を見据えてそう言った。
本当はここで僕が、「もういいよ」とすぐに許すべきだったのだが、僕は彼の言葉が引っ掛かって、彼の言いたいことがきちんと飲み込めずにいた。
今、彼が口にした重要なワード。
もう一度、彼に確認するために、僕はゆっくりとその言葉を復唱した。
「勘違い……?」