「ふぁ~あ」
大きな欠伸が出たわ。朝からいつものチュートリアルをこなして、やっとこさ登校。
予定されていた検査やら戦闘試験やらが終わって、今日からみんなと混じって授業を受ける事になる。
ここの授業方針は、攻略者の育成に重きを得て居るけど、普通の高校の授業だって当たり前にする。
俺は学び場に通う事を決めたけど、学園の方針の一つとして、攻略者育成限定の道もあった。
主に成人の覚醒者が選ぶ道。一応、義務教育を終えている十五歳以上は、高校生みたくの授業を受ける必要は強制ではない。
攻略者育成限定は、初っ端から実戦方式。ある程度の訓練を受け、一足先に本格的なダンジョンへと潜り、攻略していく。
世間の目はその育成方針に白い眼を向けるが、現実はその育成方針の道に行くのが後を絶たない。
比率で言うと、いかにも優等生で無い、いわゆる不良たちが多いが、中にも真剣に攻略していくものもいる。
政府としては、ダンジョンの謎を早く解いてくれた方が都合がいい……らしい。
ちなみに、学園には指定の制服があるが、必ず着用しなくてもよいとなっている。これも時代の流れなのか、俺はその恩恵を大いに使って、指定のジャージで登校している。だって動きやすいし。
「……」
なんだろ。妙に周りから視線を感じるのは気のせいだろうか。ジャージで登校している生徒なんて、別に珍しくもないだろうに。
廊下を歩いているが、やはり視線を感じる。って言うか、完全に俺を見ている。なんなのいったい。
そう思いながら教室がある角を曲がると、入口が人でごった返しになっていた。
「あ! いたぞ!」
「え?」
その言葉で群がる人が一斉に俺を見た。そして大群で迫りくると、口を揃えて言ってきた。
「花房くん! 俺らとチーム組んでくれ!」
「俺たちのチームはいい所だぞ! こっちに来てくれ!」
「私のチームに入って! 後悔させないから!」
俺は訳も分からず、まるで記者に囲まれる政治家の気分を味わった。
「ちょ、なになに!?」
チームに入ってくれって、それスカウトですか? 間違いなくスカウトじゃん。でもこれは……。
「おい、じゃまだどけよ!」
「こっちが先だっつーの!」
「レディーファースト! レディーファースト!」
なんで俺が朝からもみくちゃにされなきゃならん。
「あの、教室に入りたいんだが……」
「先に目を付けてたのは俺らのチームだ!」
「あんたらのチームは既に四人じゃないのよ!」
「花房くんカモ―ン!」
アカン。誰も聞いてくれへん……。っと、思わず関西弁になってしまった。
「よっとぉ」
人ごみを掻き分けて俺の肩に腕を回す人物がいた。
「悪いね君たち」
梶 大吾だ。
「うちの
わざとらしくからかう様に、しかも俺の顎周りを摩りながらそう宣言した。
俺と大吾が親しい間柄と伝えても、周りは諦めきれないでいる。今にも声をあげようとしていると、大吾が遮った。
「課題の一つ、学園が管理している初心者ダンジョン。攻略者を目指すには、まず必ずそこをクリアしなきゃならない」
半目でわざと大きな声で言う。
「でも既にクリアしてる君たちと違って、俺たちのチームは誰もクリアしていない。なぜ? 簡単なのになぜクリアしないの?」
まわりの心情を言ったのか。
「理由は簡単。俺たちは萌ちゃんの帰還を信じて待ってたわけだ。あんたら見たく即戦力が欲しいって邪な考えじゃないんだよ!」
さあ帰った帰った! と手を払って梅雨払いさせる。図星を突かれた記者たち(生徒)はずるずると解散していった。
「ふぅ」
息をつく大吾。
「ありがとな、大吾」
素直な俺の気持ちだった。いきなりで訳も分からんし、混乱の中、大吾は助けてくれた。元々大吾と朝比奈さんとチームを組む予定だったが、大吾が声を大にして言ってくれた。それが妙に、嬉しかった。
「え? 萌ちゃんが顔を赤らめてお礼を……!? すまない、ホモは帰ってくれないか」
「……」
抜けよかな、チーム……。
「ってか何でスカウトされたん俺?」
席に座って腰を落ち着かせた。
「知らないの?」
朝比奈さんがタブレットを持って顔を出してきた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます。はい」
挨拶をしてからタブレットの動画を再生させた。
そこに映っていたのは誰が撮ったのか、昨日のテストの光景が動画サイトにアップされていた。激しい戦闘、周りの歓声。そして先生を倒し、起き上がった先生から終了を貰ったシーンまで映されていた。
「あーあ。こりゃ周りが黙ってねーわ」
「俺みたいなやつなんていくらでも居るだろ」
「いないからあんな事になったんでしょ!」
お、おう。と、朝比奈さんのツッコミにたじろしてしまう。
「肩を持つ訳じゃないけど、阿久津先生は相当の実力者だ。手加減しているとはいえ、先生を倒しちゃうってのは今のところ萌ちゃんだけよ」
「そ、そうなんだ」
「つか
仕方がないとは思う。こっちも必死だったし、あの避け方が次の攻撃へと繋げれた。結果は万々歳だ。
「いろいろと聞きたいことはあるが、俺たちの目先の目標はダンジョンの攻略だ。幸い、今日は十五時で授業が終わるし、手続きは既に済んであるから」
拳を出す大吾。
「さっそく今日、チームでダンジョン攻略しようぜ!」
ニヤつく大吾。
「当然私は行く。やっとだわーて感じだし!」
拳を合わせる朝比奈さん。
……なるほどね。
「待たせてごめん。それじゃあ、チームの第一歩だ!」
俺も二人の拳と合わせ、団結を結んだ。
すこしありきたりでクサイが、こういった行為も必要だと思った。
「あーえーと萌」
「?」
拳を離すと、朝比奈さんが頬を掻きながら呼んできた。
「せっかくのチームだし、朝比奈じゃなくてぇ、その、名前で呼んでくれてもぉ……よかったり……」
チラチラと俺の様子を伺うが目が泳いでいる。黒ギャルパリピの朝比奈さんにしてはどうにも歯切りが悪い。
「えっと、名前だから、瀬那さんでいいかな?」
「さ、さんもいらない」
目を合わせてくれない。俺みたいなゲーマーにも普通に接してくれてるから、オープンなギャルかなと思ったけど……。あの映像の俺、動きキモかったからなぁ。
よし。じゃあキモイ感じで行こう。
「ん゛ん゛ん。……瀬那」
「!」
低い声で呼ぶ。
「瀬那……」
「!!」
決め声で、できるだけ艶っぽく、そして儚さを醸し出して(俺なりに)キモく言った。
これで嫌われたら知らん。土下座するしかない。
「瀬那――」
「ッ」
しまった、調子に乗りすぎた、と、後ろを向いて震える朝比奈さんを見て瞬間的に思った。
「あ!」
そそくさと自分の席に戻って机にうずくまる朝比奈さん。
マジで土下座かもしれない。
「っぷ!」
「!?」
「プハハハハハ! キッッッモオオオオオ!! アッハハハ!!」
「笑い過ぎだろ大吾!」
こうなった大吾はうざい。
「せなぁ、せなぁ、って! 思いのほかッいい声でッヤバいぃぃぃ! ヒッハハハハ!!」
「恥ずかしいからやめろ!!」
大吾の爆笑、朝比奈さんの悶え、クラスメイトの微笑も相まって、俺は二度とやらないと