『チュートリアル』
何故突然出てきたのか、何故俺だけチュートリアルがあるのか、今もまだわからないでいる。
ダンジョンをクリアした証。王冠を学園へ納めてから数日、その日からチュートリアルが多発し、いわゆるチュートリアルのストックができ始めた。
好きな順番でやってね。
そう取れる様にメッセージ画面を潜って行くと羅列している。
期間は無いらしいが、ちょっとしたチュートリアル、起床だったり何なりは毎日更新されている。
まぁそれはこなしていくんだが……。
『クリア報酬:速さ+』
そしてクリア報酬としてステータスが上がっていくが、これも可視化できずわからん。
わからないだらけだが、俺にはわかる事がいくつかある。
それは
幻霊種の頂点。
そう。俺が継承した君主の力だ。
正直に言おう。俺は君主の力をすべて引き出せていない。知識としてはあるが、時期尚早といったところか。
こればかりは俺が強くなって扱える様にしなくては……と思う。
そして同時に思った。力を引き出せない俺は思った。
「あれ? 俺、メッチャ手加減されたくね?」
と。
これも正直に言おう。もしあの場でアンブレイカブルが全能力を行使したならば、俺は間違いなくアへ顔ダブルピースに糞尿撒き散らして精神崩壊していただろう。ちなみに変な意味はない。
事実、殺される何回かはふざけてアへ顔していた。うん。手遅れだったわ。
しゃーないやんだって。いっぱい死んでみ。っと、せやかて工藤を丸ごと側において、今日は休日。反省会の名のもと、なぜか俺の部屋で攻略祝いをすることになった。
そして今、
「っふー、っふー」
お昼前の運動をしている。
『チュートリアル:レッツ筋トレ中級編』
『課題:腕立て伏せ 495/500 上体起こし 500/500 スクワット 500/500』
敷いたマットの上に汗の雫がポタポタと流れ落ちる。染みこんだ跡が俺の頑張りを証明している。思いのほかまき散らしているので、広めのマットで正解だ。
始めは余裕綽々と早めに動いていたが、ゆっくりとした動作に変えると、なかなかに負荷がかかって効果がありそうだ。
「よっし」
デンデデン♪
『クリア報酬:体力+ 力+ 技+』
肩で息をする。これからはゆっくりと鍛錬部位を意識してこなしていこう。その方がずっと成長しそうだ。
そう思っていると、不意にインターホンが鳴り、来客を知らせる。急いでオートロックのカメラ映像を確認すると、大吾と瀬那が袋いっぱいの菓子とジュースを携えてこちらを見ていた。
「今開ける」
解錠を押してロックを外す。部屋は伝えてあるので、エレベーターで昇って来るだろう。多少の時間があるのでキッチンへ向かい、浄水器を通した水を捻りだし、コップに入れてゴクゴクと飲んだ。
三杯飲んで一息つき、脱衣所に設けているタオルを肩にかける。顔の汗を拭きながら玄関に向かう。覗き穴を見ると、ちょうど二人が到着したようだ。
ドアを開ける。
「お疲れさん」
「おうぅうお!?」
「へあッ!?」
人の顔見るなり驚くとは失礼な。……ん?
「あ、ごめん!」
肩に掛けてあるタオルを急いで胸元へと持っていた。失礼なのは二人じゃなくて俺の方だった。
今の俺はほぼ半裸。ボクサーパンツ一丁の変態だ。トレーニング系のチュートリアルは汗をかくので、洗濯物を増やさないためにパンイチでこなしていた。
チュートリアルを達成して完全に油断していた。あちゃ~。
「その筋肉はさすがに引くわぁ。仕上がりすぎだろ!」
「ほ、ほっといてくれ!」
大吾が苦虫を噛んだ様な顔をしてドン引きしている。
(
瀬那は手で顔を覆うが、指の隙間からしっかりと俺の体を見ていた。漫画やアニメの世界だけの行為だと思っていたが、リアルで拝めるとは若干嬉しかった。
顔が赤くなっているのはどうしてんのだろうか。ギャルだからそこらへん耐性があると思っていたが、俺の偏見か?
「とりあえず上がってくつろいでてよ。見ての通りトレーニング直後だから、軽くシャワー浴びてくる」
そう言い残した俺は脱衣所に向かう。おじゃましますと二人の声を聞いてから脱衣所のドアを閉め、そそくさとシャワーを浴びた。
バスタオルで体を拭き軽く浴び終えた俺は、着替の用意をしていない事に気づいた。急いで用意しようとタオルを腰に巻いて部屋に戻ると、大吾と瀬那が俺の部屋を物色していた。
「……何してんの」
「エロ本探し」
「ねーからテレビでも見とけ!」
キレ気味で言いながら着替えを用意して脱衣所で着替えた。再び部屋へと戻る。
「!?」
「うわ、巨乳ばっかじゃん! しかも清楚系て……」
俺のプライベートのタブレット。それを手に取り慣れた手つきで操作している。
「ちょやめて!」
どうやってセキュリティを破った!?
「エロ本とかもあんの? うわぁ人妻もの。これも清楚系……」
「やめて瀬那さん! アカンて! 俺のプライベートですよ!」
やばい! 俺の
「おいおい
「!?」
大吾がベッドの側のゴミ箱の中身を見てから俺を見る。
「丸まったティッシュはあからさまだってー」
「ち違う! それは鼻をかんだティッシュであって変な物じゃない!」
事実だ。二人が来るから清掃し、ゴミ箱の中も綺麗にした。ただ、どうしてもムズムズして鼻をかんだ。これが真実。
「ん゛~。うん、生臭いにおいだ」
「お前ブッ飛ばすぞ大吾! 違うっつてんだろ!」
わざとらしく演技する大吾にキレる俺。明らかに俺をからかっている。
「あれれ~?
「ッ!?」
こ、こいつ! 半目で誘導尋問か!?
《ああん♡》
「!?」
条件反射で瀬那を見た。
《あん―― あん――――!!》
この声は俺のお気にの音声。幾度も聞いた洋物音声。だが普通の洋物じゃない。
「これアニメとかゲームのキャラクターだよね。……カテゴリーCG集? ヤバー!」
《ん♡》
「やめてえええええええ!!」
恥ずかしい。余りにも恥ずかしすぎる。百歩譲って大吾に見られるのは我慢できる。でも女子の瀬那に見られるのはマジで恥ずかし。急いでタブレットを取り上げないと!
「あれれ~? この赤と白のストライプ模様はなに~~?」
「!?」
わざとらしい大吾の声。おどけた名探偵みたく疑問を言っているが、その手に持つのはアレだ。
こいつ、ベッドの収納スペースに隠してあったアレを見つけただと!? つか勝手に開けんな!
「なにそれ」
「おっと瀬那さん、やはり女性には馴染みがない様子で。これは――」
速攻でソレを大吾から奪い取り、隠す様に背中に持って行った。取られた大吾はニヤつきを隠さない。
「えー! まさかエロいグッズなの?」
「い、インテリアです!」
「じゃあ隠さなくてもいいじゃん! つーか顔赤ーい!」
赤くなって当然だろう。俺はいたって健全な思春期ボーイなのだから。……まぁ今この状況では健全から程遠いが。
《あーん♡♡》
「それ止めてくれるかな!?」
「いいじゃん別にー。うわぁ……エッグいわ。こんな奥まで入らないって……」
なんの事言ってるのかな俺にはぜんぜん分かんないやー。とりあえず瀬那が持つタブレットを回収しなくては!
「瀬那、それ返して――」
「いやだ! 弱みを握ってやるんだ~!」
言葉を遮って笑う瀬那。俺の弱みなんて握ってどうしようってんだ? こうなったら強行だ!
「返せってこの!」
「いや~ん変態が襲ってくる~」
「ギャハハハ!」
部屋のテーブルの周りをまわる様に追いかける。子供じみた所業。俺はいい加減恥ずかしくてたまらない。瀬那に一気に近づいた。
すると、
「あ――」
脚が絡まり、二人して倒れる態勢になった。先はベッド。このままでは瀬那が下になるので、瞬時に抱き、態勢を変えて俺が下になる。
二人が倒れこみ軋むベッド。
耳の側で瀬那の息をのむ吐息が聞こえた。
そして俺は気が気じゃない。柔らかな肌に瀬那特有の甘い良い匂い。どこか落ち着く甘い匂いだが、俺の胸に当たる柔らかな物の存在が、それを跳ね除ける程に心臓を速くした。
「……大丈夫?」
起き上がろうとした瀬那に言った言葉。自分でも分かる程に艶のある声で驚く。
見つめ合う。瀬那の瞳を見ていると、時が止まった感覚に陥った。お互いに逸らしはしない。ただ、瀬那の瞳は揺らいでいて、潤んでいる様に思える。
頬に髪が当たる。甘い吐息が俺をくすぐる。
……なぜこうなったのか。肌に感じる俺とは別の鼓動がその思考をかき消した。
二人の鼻先が触れ合う。
その瞬間。
カシャ
「「!?」」
泥沼の思考が謎のシャッター音で我に返る。
「おい!? お前ッ! お前ええ!!」
音の方を見ると大吾がスマホをポケットに閉まっていた。
「なに撮った大吾!」
「♪~」
青筋を立てる瀬那にどこ吹く風といった大吾。ベッドから降りた瀬那がキレているが、一抹の寂しさを覚えた俺は少し、ほんの少し寂しかった。
だが俺は童貞。さっきのは何かの間違いだと思わざる得ない。と、首を高速で横に振った。
「消して変態!」
「え? ちょっと何言ってるのかわかんないなぁ。♪~」
明後日の方を見て口笛を吹いている。その姿に俺もイラついた。
「消せっつうのッ!!」
不意に、持っていた俺のアレを投げ飛ばした瀬那。
驚愕する俺。
クリティカルヒットするアソコ。
白目を向く大吾。
「ッッッ~~~!?!?」
膝から崩れ落ちうずくまる。アソコを両手で覆うが、圧倒的な瞬発力で覆ったためぶつかったアレが両手にあった。そして奇跡的にアレの使用態勢でダウンしていた。
「っぷ、っく。大丈夫かっ大吾ッ」
悪だくみした因果応報だと俺は笑いを隠せない。ぴくぴくと痙攣する大吾を見ると盛大に吹き出しそうになった。
「やっば! 急所に当たっちゃった!
呼ばれたので瀬那へと顔を向いた。
そして俺は思考を停止した。
「わ~~~おぉ」
履いている部屋着のジャージパンツ。さっきの事故で俺の理性が崩壊し、機動戦士としてテントを張ってこんにちはしていた。
顔を赤くする瀬那。
「コンニチハ!」
「きゃあああああああ!!」
目をつぶって悲鳴をあげた瀬那が、俺のタブレットを勢いよく投げた。
クリティカルヒットされるこんにちは。
「」
俺も痛い目に遭った。