目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第1章 第2話 ポチ⑬

 ポチは口をあーんして、指でひっぱって大きく開けた。綺麗な歯並びを見せたかったのではないとすぐに分かる。



 だって、二本の鋭い牙が視界に飛び込んできたから。


「ほふはひんへんひゃあ……僕は人間じゃありません」

 途中で気づいて指を口から外した。


「僕は人喰です」


 赤い双眼がじっと私を見つめる。私も見つめ返した。一目見たときから、病室で会った男と同じ血の色の目を見て、人間ではないと気づいていたけど考えないようにしていた。


「うん」

「えっ、それだけですか!?」


 ポチはあわあわしながら、『えっと、えっと他に何かないんですか……?』って聞いてきたけど


「何かって?」

「怖いとか、気持ち悪いとか……」


 私はカーペットのひかれた床に胡坐で座り込んで、


「そう言われてもなー、べつになぁ」


 私にとっては、人間が一番怖いし危険だから。



「食べられちゃうかもって思わないですか? こう、バクッと!」


 ポチはバクッとの部分で、がおーと両手でポーズを取った。それが、


「ぷっ」

「な……なんですよ~もぉ~!」


 不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまったのだ。



「君が私を食べる気だったら、私は今頃とっくに胃袋の中だよ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?