「……でも、」
蟹原部長は、聞き分けのない子を叱るときのような目でこちらを見つめて
「居酒屋にいた大量の死体を見ただろう。お前もそれの一つになりたいのか?
ポチを、指さした。
真っ赤な肉塊がたくさん散らばった赤い部屋と、むせ返るような血の匂いがフラッシュバックして、吐き気を飲み込んだ。
ぎゅっと目をつむる。目を開けて、そして、蟹原部長に指をさされたポチの姿を見た。
「でも、それでも! 無抵抗の相手を、一方的に嬲っていいわけないです!」
「お前みたいな馬鹿が喰われるんだ」
「騙されないようにするのと、積極的に加害しに行くのは違いますよね!」
「口答えするなァ!!!!!」
蟹原部長のオフィス中に響き渡る大声に、脳がビリビリした。
「それに、ただ虐めてるわけじゃない! 人間に対して従順になるように調教してやってるんだ! お前や俺が、この化け物に喰われたら、誰が人間みんなを救うんだ!?
この化け物を甘やかして、外に出たときに人を喰ったらどうする!? お前は責任とれんのか!? あ゛あ゛!!?
俺たちは人喰管理委員会――
真っ赤な顔で、大声で早口でまくし立てる。人間じゃないみたいで、ただただ怖かった。それでも、
「じゃあ、私はヒーローのアンチでいいです」