医務室のドアを開けると、入ってすぐに長椅子がある。そこにはすでに、ニ人の人間が座っていた。猿山とアイリだ。
三人掛けの長椅子ではあるが、座る場所はほとんどなく、ガバリと足を開いて座る猿山の足を、アイリが自らの太ももで押して閉じさせようと試みていた。私はアイリの横に、尻の半分だけを乗せてかろうじて座った。
長椅子の奥には青いカーテンによる仕切りがあり、中からは時折話し声が聞こえる。後になって知ったのだが、人喰ウィルスの予防接種は血圧測定、月末は採血とともに行われる。今は蟹原部長の番らしい。
「貴方、そのうち死にますよ」という医者の声が聞こえた。血圧が測り終わったところなのだろう。
ちなみにこちら(長椅子)では、
「は、やっ、く足閉じろっての……! せめぇんだよデブ」
小声でアイリは怒る。自らの太ももで猿山の広げた足を押し込みながら。
「やめろこのブス」
これまた小声で猿山は足を閉じまいと抵抗する。私はそれを横目に見ながら、小さくあくびをした。猿山とアイリの罵りあい(小声)はしばらく続いた。