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第2章 そのヒロイン、本当に大丈夫ですか

第8話 その聖女様、やっぱりヤバくないですか?

「ここにいたのね、悪役令嬢ウェルシェ・グロラッハ!」

「またですかぁ」


 例の如くレーキと落ち合う為にウェルシェは一人で校舎裏の花壇にやって来ていた……のだが、例によってピンク頭に突撃を食らったのだ。


 以前もこんなことがあったなぁと思い、ウェルシェはげんなりした。


「どうして私をイジメないのよ!」

「申し訳ございませんが、私はアイリス様の性癖に応えられませんわ」

「なによ性癖って?」

「だって、ご自分をイジメろと仰ったではありませんか」

「前とおんなじ反応してんじゃないわよ!」


 どうやら同じ返しではお気に召さないらしい。確かに芸がなかったかと、ウェルシェはちょっと反省。う~ん、何か面白い回答はないものだろうかと思案した。


(そう言えば、イーリヤに前世での話を聞きましたっけ)


 ぽんっと手を打つとウェルシェは、喉に手を当て「んっんっ」と声を調整する。


「ヨウコソ マナビノソノ マルトニア ガクエン ヘ」

「バカにしてんの!」

「いえ、『NPC』とはこういうものだと、以前ご教授いただいたものですから」

「あんた、やっぱ転生者なんでしょ!」


 イーリヤに教えてもらった『NPC』なるものを、ウェルシェは忠実に再現したつもりであった。だが、逆に怒らせてしまったようだ。芸の道はなかなかに厳しい。ウェルシェは痛感した。


「まあ、誰しも輪廻の輪に入って生まれ変わりますので、転生者と言われれば間違いありませんが……」

「私が言っているのは異世界転生!」


 恐らくアイリスも自分と同じ日本という国からの転生者だと、イーリヤは言っていた。その予想はどうやら正しかったようだ。


「申し訳ございませんが、私は転生者なるものでは……」

「ホントは知ってるんでしょ。ここが乙女ゲーム『あなたのお嫁さんになりたいです!』の世界だって!」

「いえ、ですから私は他の方から聞いただけで……」

「おかしいと思ったのよ!」

「あのぉ、聞いてますぅ?」

「ちゃんとケヴィンを攻略したのに、ワンコエーリックルートは解放されないし、トレヴィルルートでの悪役令嬢はイーリヤのはずなのに、トレヴィルはあんたにつき纏っているし」


 アイリスはまるでウェルシェの話を聞かず一方的にまくし立てる。


「あんたがエーリックやトレヴィルを先に攻略して、ルートやフラグをめちゃくちゃにしたんでしょ!」

「もともとエーリック様は私の婚約者ですわ。それに、特に何かをしたわけでもありませんが……」

「男の子を攻略するのはヒロインの役目よ! イーリヤもぜんっぜん私をイジメないし。あんた達、悪役令嬢としての矜持が無いの?」

「???」


 悪役令嬢の矜持ってなんぞや?


 腹黒令嬢としての矜持は持ち合わせているつもりだが、ウェルシェにはこの悪役令嬢なるものがさっぱり理解できない。


「悪役令嬢ってのはヒロインの敵役を貫いて、婚約者から毛虫のごとく嫌われて、みっともなく悪あがきし、みんなの嫌われ者として断罪されるものでしょ。それでも最後は高笑いしながら破滅するのよ!」


 なんだその性格破綻者は?


「申し訳ございませんが、私はアイリス様と違ってマゾの性癖も破滅願望もございませんの」

「私の話じゃないわよ! 悪役令嬢ってのはそういうものなの!」


 そんな決めつけられてもウェルシェとしては困る。


「そうは仰いますが、このままだとアイリス様の方が悪役令嬢として断罪されかねませんわよ?」

「どういう意味よ?」

「あら、ご存じありませんの?」


 アイリスが睨むようなきつい視線を向けてきたが、ウェルシェはちょっとも堪えた様子を見せず首を傾げながら右の人差し指を頬に当てた。


「今のオーウェン殿下はとても微妙な立場にありますのよ」

「微妙?」


 理解できていないアイリスの態度にウェルシェはおやっと疑問を感じた。


「昨年、王妃殿下よりオーウェン殿下に課題が与えられたのはご存知ですわよね?」

「何の事よ?」


 もはや学園で知らぬ者のいない有名な話なのだが、どうやらアイリスはまだ知らなかったらしい。


「オーウェン殿下は卒業までに王妃殿下に実績を認められなければ王位継承を剥奪されてしまわれるのですわ」

「なんですって!?」


 寝耳に水といった感じでアイリスは目をむいた。


(これはホントに驚いてるみたいね)


 ウェルシェの目にはその様子が演技には映らなかった。


(アイリス様はまだ知らなかったのね)


 あれほど自分で引っかき回して原因を作った張本人だというのに……

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