「それでは、当日のお越しをお待ちしておりますわ」
「ふんっ、あんたを信用したわけじゃないんだからね」
「あの女は変わりませんね」
アイリスを見送っていたウェルシェの耳に男の呆れ声が届く。ちらりと横を見れば、木に背を預け寄りかかっているレーキの姿が目に入った。
「そうね。アイリス様はご自分の置かれている状況を理解なさっていないんでしょ」
オーウェンが廃嫡となれば、そそのかしたアイリスも恐らく無事ではすまない。彼女は色々と各所でやらかしているし、場合によっては極刑もありうる。
「このままでは、確実に彼女は破滅するわ」
「あの女がどうなろうと自業自得でしょう」
アイリスを気づかうフリをするウェルシェに対し、レーキは辛辣な態度を隠しもしない。
「だけど放置するわけにはいかないわ」
このままアイリスを放置していると確実にオーウェンは失脚するだろう。
「私としては静観もありかと思われますが?」
「レーキ様はオーウェン殿下を王位に就けたかったのではないの?」
ウェルシェの問いにレーキは肩をすくめた。昨年までレーキは優柔不断なエーリックより行動力のあるオーウェンを推していたのだ。
「最近はエーリック殿下の方が良いのではないかと思えてきました」
だが、ここ最近のオーウェンの振る舞いが目にあまる。また、成長著しいエーリックの努力家な部分を目の当たりにして気持ちが揺らいだらしい。
それに、王妃にはイーリヤより絶対ウェルシェの方が向いているとレーキは確信している。
「まあ、オーウェン殿下が王になろうとなるまいと、私のすべきことは変わらないと悟りもしましたし」
「私もオーウェン殿下達がどうなろうと知ったことではないんだけどね」
ウェルシェにしても、オーウェンが自滅する事には興味がない。自分自身にとばっちりが飛んでこなければの話だが。
(だけど、オーウェン殿下が失脚しちゃうと……)
オーウェンが王位継承を剥奪されれば、エーリックが次期国王となるのは決定事項。そうなればウェルシェは王妃にならねばならない。
それだけは絶対ヤダ!
「オーウェン殿下が廃嫡となれば、国全体の恥になってしまうわ」
もちろん腹黒令嬢は本音は面に出したりはしない。
「王家の嫡子が女で身を持ち崩すなどいい笑い者よ」
「それはそうなのですが……」
目的にズレはあるものの、ウェルシェもレーキも現状に対して同じように考えてはいる――こりゃなんとかしないとあかん、と。
「どうなさるおつもりなのですか?」
「元はと言えば、アイリス様がオーウェン殿下と懇意になったところから始まった話よ」
「つまり、殿下からあのスエズィリの狂女を引き剥すと?」
「加えてオーウェン殿下がイーリヤ様との関係を修復すれば、きっと王妃殿下は王位継承を剝奪なさらないと思うのよ」
「それはあるかもしれませんね」
オルメリアの裁定は無茶ぶりもいいところだと、ウェルシェもレーキも感じていた。どんなに優秀な者でも、学生が僅か一年ちょっとで実績を出すなど簡単な事ではない。
ならば、オルメリアには別の狙いがあるのではないかとウェルシェは考えた。それにはレーキもなるほどと思う。
「先程、あのスエズィリの狂女を招待なさっておられたのはその為ですか」
「ええ、イーリヤ様もお招きして何とか和解をしようと考えているの」
イーリヤの話を信じるならば、二人とも同郷ということになる。話し合いでお互いの納得できる妥協点を見つけられるかもしれない。
「ですが、あの女が素直に言う事を聞くとはとても思えないのですが……」
「私もそう思うわ」
もっとも、そこはウェルシェもあまり期待はしていないが。だから、ウェルシェはきちんと解決策も考えている。
「それでね、レーキ様にお願いがあるの」
「何か良い手立てがおありなのですか?」
「まだ婚約者のいないアイリス様と釣り合いのとれる令息を探して欲しいのよ」
「あの女に男をあてがうおつもりですか!?」
目を大きくまん丸にするレーキにくすっとウェルシェが笑った。
「ええ、アイリス様にはふさわしい殿方と結ばれてもらって、