偽りのない瞳が見据える。引き込まれるような新緑。愛らしいばかりだった少年は羽化するように強く美しくなった。そしてきっとこれからも、美しくなるのだろう。
レヴィンはやっと、その背を抱いた。強く離さないように抱き寄せて、深く口づけた。貪るように繋げた体は全てを受け入れてくれる。背を撫で、衣服の間から手を滑り込ませて素肌に触れた。ほんの僅か跳ねた体は、本当にまだ細い。そして、何も知らない。
「愛している、シリル。俺の全部をあげるから、シリルの時間を俺に分けて」
「分けるなんて、そんな。レヴィンさんがくれるなら、僕も全部あげます。だから、側にいてください」
刺激に潤んだ瞳に熱を蓄えながら、シリルはあどけなさも見える笑みを浮かべた。
▼レヴィン
抱き合った体は少年を脱していない。細く白魚のような体は華奢で、簡単に壊れてしまいそうだ。
慎重に触れた肌は、ほんの少しの刺激にも敏感に反応を返してくれる。ヒクリと動く体に手の平で撫でるように触れながら、レヴィンは何度も小さなキスをした。
「ふっ」
鼻にかかる甘い声。紅潮した頬に潤んだ瞳。何も知らない体はこんなにも簡単に染め上がる。
どう、感じているのだろう。不安は? 恐怖は? きっと大した知識はないだろう。怖いと思っているなら、無理はしたくない。
「シリル、怖い?」
問いかけると真っ赤な顔で首を横に振る。そして、「大丈夫です」と言う。それを信じて、レヴィンは進める。寄せるように近づいて、細い首筋に唇で触れた。
「んぅ」
もぞもぞ動くのはくすぐったいから。脇腹を撫でてもそんな感じだ。幼い性感は、まだこれを快楽と受け取らない。
「シリルって、弱いんだね」
「え?」
「首と脇、くすぐったいんだ」
「だって……」
「でもね、慣れてくると気持ちよくなるんだよ」
「え? んっ」
首筋に噛みつくようなキスをした。無駄なもののついていない首は柔らかいが筋にすぐ触れる。ほんの僅かな痛みを与えて、その後を舌で舐める。こうすると、ムズムズとした感じがするのを知っている。
同時に薄い胸に触れた。高めるように可愛い中心には触れず、その周囲を柔らかく撫でる。もどかしい感じが、期待に変わっていくのを知っている。
「レヴィンさん、あの……」
「どうしたの?」
「あの!」
顔を真っ赤にしながら訴えかけるシリルが可愛くてたまらない。もう少し意地悪をしたいけれど、悲しそうな顔をしたから止めた。
唇を下へとずらして、ほんの少し主張を始めた頂きにキスをする。まだ柔らかく平面のそれは慎ましくて、主張と言ってもほんのりと色を変える程度だ。
「んぅぅ」
初めて、快楽と取れる声があがった。少年らしい少し高い声が腰を疼かせる。未開発の体を解いていくのは案外やりがいがある。染め上げるような楽しみがある。
唇で触れ、柔らかく舌で押し込むように刺激し、少し硬くなった部分を舐め上げる。ビクリと震え、耐えきれず切ない声が断続的に上がっている。片方の手は空いている部分を弄った。指の腹で撫でて刺激していく。
「レヴィンさん、それっ」
「気持ちいいでしょ? シリルは敏感なんだね」
「はい、気持ちいいです」
顔が真っ赤で笑った。恥ずかしくてたまらないという顔をしながらも、シリルは素直に感じる事を教えてくれた。
弱い部分を柔らかく刺激しながら、レヴィンの手は滑る。腹を、臍の辺りをクルリと撫でながら、ヒクンと動く皮膚の下の筋肉を感じる。そして手は、ゆっくりと更に下へと伸びていく。
驚いたようにシリルの腰が引けるが、それを引き戻した。僅かに兆す部分をやんわりと愛していくと、切ない声が上がりギュッとしがみつくようにしてくる。そんな部分がまた、愛おしい。
「気持ちいいでしょ?」
優しい声で問いかけると、頷きながらも切ない声が上がる。戸惑う新緑の瞳がレヴィンを見て真っ赤になった。
「あの、これは、その!」
「どうしたの?」
「恥ずかしいです」
消え入りそうな声が呟く。顔は快楽ではなく羞恥に染まった。それがあまりに愛らしくて、レヴィンは柔らかく笑った。
「可愛いよ、シリル」
「そんなことっ」
戸惑いを含む声音が初々しさを感じさせる。誰にも染まっていない彼にこれから自分が全てを教えていくのだと思うと、レヴィンは嬉しくてたまらない。
そしてそっと、奥まった部分へと慎重に触れた。
「あの……」
「怖い?」
「少し、だけ。でも、レヴィンさんならいいです」
熱に浮かされた潤んだ瞳が柔らかく笑う。だが、この顔を見るとどうしても躊躇ってしまう。
別に、今日じゃなくてもいい。それほどの焦りはない。レヴィンは知っている。無理矢理開かれる恐怖と絶望を。暗殺者として受けた訓練の中にこうした事はあった。
あんな思いをさせたくはないし、強いる側にはなりたくない。緩く笑い、シリルの愛らしい唇にキスをした。
「今日は、練習だけだよ」
「練習?」
「そう。怖くなくなる練習。最初は気持ちいいだけで終わりたい。今日が怖かったり、痛かったりしたら次も嫌な思いが残るでしょ? それは嫌だから」
「でも……」
嫌だという表情が見て取れる。だがレヴィンは譲る気はない。本当はまだ怖いのかもしれない。過去に受けた悲しみや拒絶を思い出すから。
「シリル、焦らなくたっていいよ。俺はもう、シリルを離すつもりはないから」
心は決まった。受け入れてくれるのなら恐れたりはしない。手を伸ばし、求めていいんだ。全てを彼に預けると決めたのだから、もう平気だ。
それでも言いつのろうとするシリルに、レヴィンは少し意地悪に触れた。それに驚き目を一杯に開いた子の戸惑いや恐怖をレヴィンも感じる。酷く申し訳無い気持ちで。
「ね、痛いでしょ? 無理をしたら傷つけてしまう。それは、俺も嫌なんだ」
だから今はこのまま、優しいだけの交わりでいたい。
「無理はしない。いい?」
「……はい」
渋々といった様子でシリルが返事をする。レヴィンはほっとした。
優しく、ただ愛おしむような中でシリルは素直にレヴィンに身を任せてくれる。繊細なガラス細工のような子を腕に抱いて、レヴィンはこの一時を宝物のように愛そうと誓う。夢だというならば一生、これを胸にしまい込んでいこうと誓う。
なのにシリルは何処か不満顔をしている。すっきりとしたはずなのに。
「酷いです、僕ばかり」
「ん?」
「レヴィンさん一人、涼しい顔なんて」
文句を言うように言われたレヴィンは苦笑する。本当はそんなに涼しくはない。彼を気持ちよくする事に注力した結果自分はおざなりで落ち着かない。ただ、まだズボンは履いたままだから多少ごまかせているだけだ。
「さぁ、寝て。俺は汗を拭ってから寝るから、先にね」
コップに水を注いで手渡してから、レヴィンは部屋を出た。熱くなった自身を鎮めるため、レヴィンは暗い廊下を進んでいった。