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1話 やり残した事(6)

「タニス国王ユリエル陛下の弟、シリルと申します。王に代わり、皆にお願いがあります。国の暴政によって亡くなった多くの子供達は、温かな手を必要としていました。国はその子供達に絶望を与え、道具のように扱い殺しました。時を戻す事は叶わず、散った命を取り戻す方法はありません。私たちに出来る事は心からの贖罪と、祈る事ばかりです。どうか、祈ってください。恐れではなく、哀れみと来世を願い、安らかに眠るよう共に祈りを捧げてください」


 胸に手を当て、瞳を閉じて祈りを捧げるシリルを見つめ、ユリエルも頭を上げて同じく祈りを捧げた。見れば多くの人々もまた、一人、また一人と胸に手を置き祈りを捧げてくれる。

 この国は大丈夫だ。まだ誰かを思う心を忘れていない。祈る事を忘れてはいない。ユリエルはそう確信し、心の中で何度も感謝した。



 執務室に戻るといきなりフェリスが抱きついてその頬にキスをした。ずっと言葉のないレヴィンもまた、シリルを抱きしめユリエルの側にいる。


「ありがとう、陛下」


 フェリスの感極まった声に微笑み、抱きついたままの頭を撫でてやる。側に近づいたレヴィンもまた、ユリエルの背中に額を当てた。


「無理して……もう、いいって言ったのにさ」

「私が気持ち悪かったんですよ」

「バカ正直。どうすんのさ、反発されたりしたら」

「私のやり方で認めさせますよ」


 泣きそうな二人を慰めるユリエルを見る、シリルとクレメンスもまた穏やかな表情で笑っている。

 何にしても、これでユリエルも一つの区切りがついた。気持ちは前を、ルルエへと向けたのだった。

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