――翌日――
俺たちはそれぞれ武装をして、昨日の夜にゴブリンを倒した小麦畑前に並んでいた。
あれから家に戻った俺とみさとは、何事も無かったかの様に布団に入ると、すぐに眠った。
ちなみにみんなが気になっているであろうことを言っておくとすると――
昨日の夜、ゴブリンが出たと言われる前に俺が目撃したみさとのあの行動については、あれから一切触れていない。
いや、今思うとあの時なんでもっと目に焼き付けていなかったんだとか、あの時の俺はなんであまり興奮しなかったのかとか、色々思うことはあるのだが――
俺の身にもなって見てくれ。
あの時はほんとに真夜中で、俺も半分寝ぼけててよく分かってなかったんだよ。
今でも本当はあれは俺の欲求不満によって見せられた幻想かもとか思ってるもん。(それは無いと思うが)
とりあえず、みさともその事については一切言って来ないし、深堀するのもなんかあれだしってことで、事は終わったって訳だ。
でも、最後にひとつだけ覚えておいてくれ――――
あの時のことで一番後悔してるのはこの俺だ……
はいッ!この話終わりッ!
「――それにしても昨日の夜にそんな事があったなんてな。とうま、本当に私たちを起こそうとしたのか?」
「お前なぁ、俺がどれだけ頑張ったのかも知らずによくそんなこと言えるぜ全く。」
まぁ、実際のところそこまで起こそうとはしてないが。
「私が寝てた時にそんな事が起きてたなんてびっくりだよ〜」
「本当に、昨日は色々と大変だったわ」
今、そう言ったみさとが少し頬を赤らめたのは気のせいだろうか。
「まぁでもよ、過ぎ去った昨日のことをとやかく言ったって仕方ない。お前ら、気合い入れるぞ。」
「ま、そうね」「おう!だな!」「うんうん!」
俺の呼び掛けに、3人は笑顔でそう応えた。
――ってな訳で、まぁ分かってるとは思うが今日の予定、要するにこれからする事を軽く話そうと思う。
まず、おさらいからだが、この村の名前はアンテズ村で、俺たちはラペルからこの村を危険に晒しているモンスターを討伐する為に来ている。
それで、今回の依頼の一番厄介なところが「モンスターの住んでいる巣穴の場所が分からない」というところだったのだが、それは昨日の夜に村に現れたゴブリンを捕え、みさとが尋問(最終的にはユニークスキルだったが)をして巣穴の場所はだいたい特定している為、総合的な依頼の難易度は何段か下がっている。
だが、だからと言って相手のゴブリン共が弱くなっている訳では無いため、油断は出来ない。
あいつらは頭が良いからな、油断大敵ってことだ。
っと、こんな所だな。
そして今俺たちは、ゴブリン共を倒すため、巣穴があるであろう森に一番近道である小麦畑の前に居るって訳だ。
俺たちがここに集まっていた理由、分かってくれたかね。
――てなわけで、早速歩いて行こうか。
---
そこから俺たちは村を離れると、すぐ近くにある森を目指して歩き始めた。
――まぁ、村と森の距離はすごく近いからすぐに着くんだけどね。
「この森の中にゴブリン共の巣穴があるのか。」
「えぇ」
「ま、実際のところこの目で見た訳じゃないから分からんがな。」
「ちょっととうま?」
「まさか私のユニークスキルを信用してないのか?」まるでそう言って来ているかの様に圧のある視線を向けてくるみさと。
「ごめんって。」
いや、マジで信用してないとかそういうことじゃ無くてだな――余計なことを言ってしまうのが俺なんだよ。
この癖、治したいんだがなかなか治らんのだ。
「おほん、で?森は海沿いに長く続いてる様だけど、どっちから探索するの?」
そこで、少し重くなった空気を変えるかのように、くるみは咳払いをすると、みさとにそう聞く。
おぉ……!ナイスくるみ!助かったぜ。
「えぇ、北方向から探索するわ。これに関しては確信がある訳では無いけれど。」
「なにか心当たりある物を見つけたりしたのか?」
「いいえ、昨日の夜、ゴブリンは村の中でも一番北にある小麦畑にいたじゃない?」
「だな」
「だから北方向から来たのかなって――そう思っただけよ。」
「なるほど、そういう事か。」
確かにみさとが言った通り、これに関しては確信を持てるような考えでは無いな。
まぁだが、だからと言って運任せに方向を決めるよりは遥かに良いだろう。
「じゃあ、北方向から行きますかね」
俺たちは、北から南へと長く伸びる森の、北方向から探索を開始する事にした。
---
森に足を踏み入れると、どうやらそこまで深い森では無いらしく、木と木の間から向こう側の砂浜が見えていた。
これなら迷うことは無さそうだな。
「じゃあ、言っていた通り北方向に行きましょう」
「あぁ」「だな」「うん」
俺たちは早速、森の中を歩き出した。
――するとしばらくして早速、
「おい、なんかここから道みたいなのが続いてるぞ」
前を歩いていたちなつが地面を指さしながらそう言った。
って、なんでこんな森の中に道があるんだよ。
しかし、指さす先を見ると、確かにそこだけ地面にびっしり生えている草は無く、砂利が敷かれていた。
そしてその砂利道は森の北方向に続いて行っている。
アンテズ村の人達はこんな危険そうな場所には来ないだろうし――一体誰が作ったんだ?
「これ……ゴブリンが作ったんじゃないかしら?」
「は?ゴブリンが道を作るぅ?」
何言ってんだよみさとは。
いくらゴブリンが頭の良いモンスターだからって所詮モンスターはモンスターだぜ?
道の綺麗さなんて気にしないだろ。
しかし、どうやら俺以外の2人はみさとのセリフに納得いったらしく、
「確かに……!それじゃあこの道を辿ったら巣穴に着くんじゃない?」
「ほんとだな……!よっしゃ!気合い入れてくぞ!」
完全に道を辿る雰囲気になっていた。
はぁ、しゃあないな。
ま、確かになんの情報も無いまま進むよりは良いだろうし。
絶対に無いとは思うがな!!
---
ありました。
いや、マジでなんで?
あれから俺たちはちなつの見つけた砂利道の続く方向に沿って歩いていたのだが――5分ほど歩き続けると、なんと本当にゴブリンの巣穴らしき場所に着いたのだ。
「遂に見つけたわね……!」
「なんか思ったよりも人工的だな。」
「ワクワクしてくるなぁ!」
「緊張して来たよ……」
俺たちは木に隠れながらゴブリンの巣穴らしき物を見て、それぞれそう感想を呟く。
そこ一帯は木や草が一切生えておらず、地面がその場所だけ盛り上がっており、その盛り上がりに穴が空いていて中に入れそうだった。