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第29話【侵入開始〜モンスター退治、そしてアイツ〜】


「見張りは居ないみたいだな」

「そうね、これなら安全に入れそうだわ」


 俺たちは異様に盛り上がり、そして入り口の様な穴が奥に続いているという、どう考えても人工的な建物の周りに今回のお目当てモンスターのゴブリンや、その他のモンスターがいない事を確認すると、穴のある正面(おそらく)まで移動した。


「近づいてみると本当に不思議な形をしてるな」


 例えるんなら、竪穴式住居たてあなしきじゅうきょの屋根が全て藁ではなく土みたいな、そんな感じだ。

 もし仮にこれがゴブリンの巣穴じゃ無かったとしても、村の人やラペルの冒険者ギルドに報告した方が良さそうだな。


「くるみ、松明お願い」

「うん!分かった!」


 みさとは、この中に入るには明かりが必要だと判断したのか、くるみにそう指示をだす。


 するとくるみは、背中から村の人達に予めもらっていた松明の棒を取り出し、


「よっ!」


 魔法の力で先端に火を付けた。

 って、実際にこうやって本格的に魔法を使うところは初めて見たが、やっぱりすげぇな。


「よし、じゃあ入りましょうか。」

「だな、なかなか上手くいかなくて夜なんかになったら最悪だし」

「だな」

「うん」


 こうして俺たちは、竪穴式住居のような建物に入って行った。


 ---


 入り口から中に入ると、すぐに下へと続く階段があった。

 (まぁ、土の盛り上がり的にそうだろうとは思っていたが)


 そこから階段を降りると、やがて一本の通路が現れる。

 周りは全て石で加工されており、空気は冷たくホコリっぽかった。


「モンスターがいる気配が全く無いわね」

「だな」


 もしかするとこの建物は昔の人たちが造った建物で、本当にゴブリンの巣穴では無いのかもしれないな。

 まぁ、だからと言って進むのを辞める訳には行かないが。


「とりあえず、奥に進もうぜ」

「だな」


 俺たち4人は、石の通路を歩いて行った。



 しばらく歩くと、通路から少し広いスペースに出た。

 相変わらず壁は全く装飾のされていない石だ。


「奥に扉があるわ」


 みさとは正面の壁を指さす。

 そこには確かに木で出来た古い扉がある。

 いや、あるんだがな――


「ここが本当にゴブリンの巣穴なんだとしたら、完全にトラップだろあれ。」


 だって普通あんな堂々と進むべき道を示したりしないだろ。

 だが、そんなことなんて気にしないバカがこのパーティーには居た。


「ほんとだ!とびらとびら!」

「お、おい!ちょっと待て!」


 くるみは何故か目の前にある扉に興味を示すと、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらバカ丸出しで扉の方へ走って行く。

 いや、あれがトラップじゃないとしても勝手に1人で進むのは危ないって!


 しかし、そんな俺の声も扉に興味を持ってしまった子供くるみには届かず、今にも壊れそうなドアノブを捻って勢いよく開けた。


 するとその瞬間――


 カランカランカランッ!!


 俺が思っていた通り扉を開けると見事にトラップ発動!!

 建物全体に響くような甲高い音が鳴り響いた。

 って!?ほら言わんこっちゃない!!


「な、なに!?どうしたら良いの!?」

「バカ!とりあえず戦闘準備だ!」

「ちょっととうま!周りからこっちになにかが走ってくる音が聞こえるわ!」


 みさとは背中から剣を抜きながらそう叫ぶ。

 くっそ!こんなトラップを仕掛けてきて、そしてその音とほぼ同時にこっちへ襲いかかってくる。


 そんなことをしてくるモンスターなんて俺が知ってる限りではゴブリンしかいなかった。


 俺たちは各自武器を構えると、いつでも戦いを開始出来るように、全員が背中合わせで戦闘態勢に入る。


 すると、どうやら広いスペースに続く道は目の前にあったトラップの扉と、ここに来る時に使った通路以外にもあった様で、


「ギャギャギャギャ!!」


 右側から棍棒や、石の斧を持ったゴブリンたちが、耳を塞ぎたくなる様な不快な鳴き声と共に襲いかかってきた。


「来たわよ!」

「くっそ!いきなりかよ!」


 俺は左手に持った盾で突進して来たゴブリンを跳ね返すと、それによってよろけたところを狙って剣で頭を叩き潰す。


「はぁぁ!」

「これでもくらいやがれ!!」

「いっけぇ!」


 それに続く様にして、みさととちなつは剣でゴブリンを斬り殺し、くるみは杖から炎の魔法を飛ばして応戦。


 奇襲された割に、俺たちは見事にゴブリンを押していた。


「こんなもんかよッ!!」

「ギャギャギャギャ!?」


 俺は最後のゴブリンを斬り倒すと剣から血を払い、「ふぅ」と一息つく。


 っと、とりあえずこれで一旦襲いかかって来たゴブリンは全員倒した訳だが――


「なんだか思ったより呆気ないな。」

「全くよ、拍子抜けした感覚だわ」

「だな」「うん」


 ゴブリン自体の数も少なく、とても中級に上がる為の昇級クエストとは思えなかった。

 (まぁこれで等級が上がるんなら楽で良いんだが)


「まだなにかあるよな」

「でしょうね」


 俺はゴブリン共が襲いかかって来た方向を見ながらぼやく。

 きっとこの先には何かが居るんだろうな。


 そして、正直なところこの先には進みたくは無かった。

 だって絶対ヤバいのがいるじゃん……?


 きっとこの依頼が「ゴブリン退治」ならこの先には進まないだろうな。――だが、これはゴブリン退治では無く、村に危険を及ぼすモンスターの討伐だ。


「よし、行くぞ」

「えぇそうね」


 俺はくるみから松明を受け取ると、自ら先陣を切って暗い暗い通路へと進んで行った。

 ――ん?いつもならビビるのに今回は行けるのかって?


 そんなの無理に決まってるだろッ!いつも通り小便チビりそうだし!

 でもな……俺はリーダーなんだ。時にはこうやって先陣を切ることも必要なんだよ。


 ---


 ゴブリン共が出てきた隠れ通路は、今まで通って来た通路よりも更に汚く、今にも潰れそうなくらいヒビが入っていた。

 (前に一度ゴブリン退治をしたことがあるんだが、その時もこんな感じの汚い通路だったな)


 そこをしばらく歩くと――先程のスペースよりも更に広い、教室くらいの空間に出た。


「お、広い場所に出たなって――ッ!?」


 そして、その瞬間俺は目撃してしまった。この巣穴のボスを。


「グォォォッ!!」


 俺たちを見つけたモンスターはそう叫び声を上げる。って!?マジかよ……


「な!?オーガ!?なんでこんなところに!?」

「ちょっとヤバくないか!?」

「こ、怖いよ……」


 なんとそこに居たのは、ゴブリンでは無く、俺たちのトラウマモンスター、オーガだったのだ。


「グォォォォ!!」


 オーガはすぐに俺の方へ勢いよく突進してくる。

 そして今回は、前の様にエスタリたちは助けに来ない。――――


「くっそ……!」


 だからって諦められる訳ねぇだろ!!

 俺はもうただのヒキニートじゃねぇ!美少女3人を束ねるパーティーのリーダー「スーパーとうま」だッ!!


「お前ら!横に避けろッ!」

「分かったわ!」「了解!」「うん!」


 俺は一応身体を盾で守りながら横に回避。仲間にも素早く指示を出す。

 すると――やはり身体が大きく、簡単に進行方向を変えることの出来ないオーガは、


 ドーンッ!!


 まるで車が壁に衝突したかのような音と共に、勢いよく壁に衝突する。


 やっぱりこいつは身体はデカいが知能は低い!


「はぁぁ!」


 そうしてがら空きになった背中に、俺は会心の一撃を放った。


「グォォォ!?」そう地鳴りの様な叫び声を上げるオーガ。

 ゴブリンなどのモンスターなら一撃で倒れている様な攻撃だ。


「やったの!?」

「いや!まだだ!」


 しかし、こいつはオーガだ、簡単にやられるほどやわな身体はしていない。

 オーガは「グォォォ……」と、唸り声を上げながらこちらに身体を向けてくる。


「もう一度だ!はぁぁ!」

「あっ!待ってとうま!そのままじゃ攻撃が!」


 俺はそんなオーガの方に走って行くと、再び剣を振り上げる。

 しかし、そんなオーガの考えをユニークスキルで読んだのであろうみさとがそう叫んだ。


 その瞬間――オーガも大きく腕を振り上げると、俺に向かって勢いよく振り下ろしてくる。


 そして今の俺とオーガの距離間では、相手の攻撃は当たり、こっちの攻撃は当たらないという最悪の距離だった。


 ――だが、そんなの分かっている。

 俺はオーガの攻撃が当たる寸前で身体を大きく右側に傾けて避けると、左手に持っていた火のついた松明をオーガの方へ投げ付けた。


 すると――松明の炎は一瞬にしてオーガへ燃え移り――


「グォォォ!?」


 凄まじい叫び声を上げた。

 よっしゃ!何とか攻撃が成功したぞ!


 だが――まだオーガが死んだ訳では無い。

 なんなら今も燃えながらこっちへ攻撃を繰り出そうとしてきているからな。だから――


「ちなつ!お前のユニークスキルなら一撃でトドメを刺せるはずだ!」

「わ、私か!?」

「そうだ!」

「わ、分かった!」


 俺はちなつにそう指示を出した。

 ちなつのユニークスキル[正義の心ジャスティスハート]、忘れたやつもいるかもしれないが、正義のセリフを叫びながら攻撃すると威力が上がるスキルだ。


 正直なところ本当に威力が上がるのかは分からないが――試すなら今だろうし、たとえミスをしたとしてもカバーしてやれるからな。


 すると、俺から指示を受けたちなつは勢いよく炎に苦しむオーガの方へ走って行き、


「食らえッ!正義の鉄槌!ジャスティスザンゲキッ!!」


 正義のセリフを吐いた。って、


「「だっせぇぇぇッ!!」」


 俺たち3人は同時にそう叫ぶ。

 いや、だってなんだよジャスティスザンゲキって!小学生でも思い付かんわ!一体今ので大丈夫だったのか?


 俺はスキルが発動するのか心配になったが、どうやら大丈夫だったようで、ちなつがセリフを吐いた瞬間、刀身全体に青いオーラが纏われると、なんと斬撃を入れられたオーガは肩から脇腹までザックリ斬れ、血が勢いよく噴き出した。


「グォォォ……」


 攻撃を受け、地面に倒れこむオーガ。

 俺たちは、誰からの助けも無い状態で無事、オーガを討伐した。


「よっしゃッ!」

「やったわね!」

「どうだ見たかお前ら!」


 オーガが動かなくなった事を確認して、飛び跳ねながら喜ぶ俺&みさと&ちなつ。


 宴会だ宴会!酒持って来い酒!

 俺は嬉し過ぎて、今すぐにでもエスタリ達にこの事を自慢してやりたかった。


 しかし――そんな俺たち3人に、唯一喜んでいなかったくるみが切羽詰まった表情で俺たちに何かを訴えかけて来ていた。


 ん?なんだよこんな時に。

 この中なら一番子供みたいにはしゃぎそうなのはくるみなのにな。


「なんだ?どうかしたのか?」


 俺はくるみにそう尋ねる。

 するとくるみは、一言こう言った。


「燃えてるよッ!!」

「「え?」」


 俺たちは倒れたオーガの方を見る。

 すると、今にもオーガの身体に燃え広がった炎が、ここから出るための通路を塞ぎそうになっていた。って!?


「ちょっと!?ヤバいじゃねぇか!?」

「急げ急げ!!」


 俺たちは急いでその場所から移動をする。

 あのくるみの一言が無ければ――俺たちはおそらく炎で燃えるか一酸化炭素中毒で死んでいただろう。


 最後までハラハラしっぱなしだよ全く……

 まぁだが、こうして俺たちはアンテズ村を危険に晒していたゴブリンの巣穴を制圧し、オーガを討伐したのだった。

(オーガに炎を付けたことについて、あとからめちゃくちゃ3人に謝罪した)



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