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第40話【深まる謎〜テレポート使いのサラマンダー?〜】


「この依頼を頼む」

「分かりました――ッ!」


 あの後、サラマンダーの依頼が書かれた紙をクエストボードから取ると、それをすぐ隣にある受け付けカウンターに持って行った。


 すると、俺が渡した依頼を見たお姉さんは、直接口に出すことは無かったが、明らかに驚いている様だ。

 まぁ、さっきも言ったが普通こんな異常な依頼、誰も受けないだろうと思うよな。


「あの――本当にこの依頼を受けるのでしょうか?」

「ん?あぁ。」

「そうですか――」


 ん?なんでこのお姉さんはどこか心配そうなんだ?


「どうしたんだ?」

「いや、実はですね――」


 そこでお姉さんはこう言った。

 実はこの依頼、今日の朝にチュロント森へキノコ狩りに行った男性がサラマンダーを目撃し、それを冒険者ギルドに伝えて依頼になったらしいのだが、

 (その為、チュロント森はもう封鎖されてる)

 改めて適正等級を検討したところ――今までにこの様な出没例も無い事から、上級下位以上に上昇させる事になり、これから修正後の新しい紙に貼り変えようとしていたところだったらしい。


 だから本来はもう、俺たちがこの依頼を受けることは出来ないとのことだ。だが、


「依頼の内容を変えるという結果になったのは、こちら側の責任ですので、どうしてもというのであれば、受ける事も特別に許可します。」


 という事らしかった。まぁ、そういう事ならもちろん――


「じゃあ、喜んで受けさせてもらうぜ」

「そうね」「だな」「うん」


 正直、この時に「じゃあやめとくか」と言っても良かったのだが、謎のプライドでそうはしなかった。

 とりあえず、無理はし過ぎない様に頑張るとしよう。


 ---


 その後、無事に依頼の受託を完了した俺たちは冒険者ギルドの外に出た。

 なんでもスザクが馬車で目的地のチュロント森まで連れて行ってくれるらしい。――とまぁ、それは普通に感謝なんだが、


「レザリオのやつ、まだ来ねぇのか?」

「ほんと、遅いわよね」

「だよな」「うんうん」


 俺たちの武器を取りに行ったレザリオがまだ冒険者ギルドまで来ていなかった。


 ちなみにスザクとミラボレアは同じ家に住んでいるらしく、さっき一緒に戻って行った。もう少しするとスザクが馬車で迎えに来るはずだ――



 するとそこで、やっとレザリオの姿が見えた。


「おーい!持ってきたでぇ!!」


 両手に剣を3本、杖を1本、盾をひとつ持って、冒険者ギルドから見て右側から走って来るレザリオ。

 絶対に重いのにも関わらず、相変わらず大剣は背負っていた。


「ほらほら!自分の武器取ってや!」

「あ、あぁ……ありがとう」

「ほらほら、べっぴん3人組も!」

「え、えぇ」「あぁ」「うん」


「――お、おい、レザリオ?」

「ん?なんや?」

「お前、そんな重そうな大剣を背負ってここまで走って来たのか……?」

「そやで?それがどした?」

「いや、普通置いていくだろ。ただでさえ俺たちの武器だけで相当な重さになるのによ」

「重い?こんなん朝飯前や!あ、もう朝飯食ったから朝飯後か!」


 いつも通りガハハと笑うレザリオ。

 いや、どんだけバケモンなんだよこいつ。


「さすが、この街最強と謳われるのも無理ないわね……」

「だな……」


 俺たちは改めて、レザリオの化け物っぷりを再認識したのだった。


 ---


「――なるほどな。有り得へん時期にサラマンダーが森に現れたと。」

「そうなんだよ。レザリオはこの事についてどう思う?」


 あの後、俺たちはどんな依頼を受けるのかをレザリオに伝えた。

 やっぱり、上級上位の冒険者の意見も聞いておきたいからな。


 しかし、俺はやはり悪い意味でレザリオを舐めていたのかもしれない。

 質問に対してレザリオは少々腕を組んで考えると――


「ん〜せやな。どうもこうも思わんな、力でねじ伏せればええだけや、ワイはそうするで。」


 な、何言ってんだよこいつ!?それが出来たら俺だってこんなこと聞いてねぇよ!!――――って、そう言いたいところだが、


「はぁ……ま、まぁお前はそうだよな」

「圧倒的な力でねじ伏せることの出来る冒険者にどう思うかなんて聞くだけ無駄ね」

「全くだぜ」


 たくよ……いっその事もうこいつにサラマンダーの討伐を頼みたくなって来たんだが。


 するとそこで、今度はレザリオの来た反対側――右側の道から馬車を操るスザクの姿が見えてきた。


「――お、来たか」


 御者の位置に座るスザクは、俺たちの前まで来ると馬車を止め、一言こう言う。


「待たせたな。」

「いやいや、レザリオに比べたら全然だ。」

「ん?聞き捨てならん言葉が聞こえて来たで――って、スザク。なんでお前が馬車でここまで来たんや?」


 あ、そう言えばレザリオに目的地まで馬車で連れて行ってもらう事を言って無かったな。


「実はチュロント森の入り口まで馬車で送ってもらうんだよ」

「あ、なるほどな」

「よし、じゃあお前ら、思ったより時間が長引いて夜になったなんて事になったら厄介だし、早速後ろに乗ってくれ」

「おう」


 俺たちはスザクにそう言われると、指示通りに馬車の荷台に回って行く。

 するとそこで――「って、まさかワイの出番ここで終わり?」背後からレザリオがそう聞いて来た。


「――ん?あぁもう用無しだから家で待ってて良いぞ」


 俺は首だけ振り返ると軽くそう返す。

 いや、分かってるさ。自分より上の冒険者にその態度は無いだろって事だろ?


 俺だって相手がそういうところを気にする奴ならちゃんと言葉を並べるぜ?でもよ、相手はレザリオだ。こんな感じで十分なんだよ。


「ん?もう帰っててええんか?ほな、帰らしてもらうで。」

「おう」


 ほらな?

 相手によって接し方を変えるのは良くないなんて、学生生活をしている時良く言われたもんだが、時にはこうやってその人にあった接し方に変えるのも重要な事なんだよ。


 ヒキニートを長年していたくせに世渡りは上手い俺である。


「よっと」


 その後、全員荷台に乗ると、スザクにそう言い、馬車を動かしてもらう。

 こうして俺たちは今回の舞台――チュロント森へと向かって行くのだった。


 ---


 それから馬車で帝都ティルトルから出た俺たちは、今回の目的地であるチュロント森に向けて東に進む。


 すると帝都ティルトルを出てから約10分。

 馬車が森の入り口で止まった。


「――よし、お前ら、着いたぞ」

「お、そうか。ありがとな」


 俺は腰を浮かすと荷台から降りる。

 そして正面に回ると目の前には今回の目的地であろう森が広がっていた。


「なぁスザク、この森が今回サラマンダーが出たって森か?」

「あぁ、そのはずだ。」


 スザクはやはりおかしいと思っているのだろう。腕を組み、首を傾げながらそう答える。

 だが、それもそのはずだ。俺が今この森に対して最初に持ったイメージは、平和そうな森。


 ワーウルフを討伐した時のオリアラの森とは違い、本当にモンスター1匹も居なそうな――そんな森だった。

 しかし、いつもはキノコ狩りなどで賑わっているというこの森が、今朝からサラマンダーが現れた為閉鎖されており、


 こんなに綺麗な森なのに俺たち以外誰1人人がいないというところが逆に不気味でもあった。


「――やっぱりおかしいな。近くにサラマンダーが生息していそうな洞窟も無いし、これじゃあまるで――」

「まるで、なんだ?」

「まるで


 ---


「本当にこんな綺麗でポカポカしてる森にサラマンダーなんているのー?私日向ぼっこしたいよ〜」

「おいくるみ、気持ちは分かるが今は依頼中だ。気は緩めるな。」

「分かってるって」


 それからスザクと別れ、森の中に入った俺たちは、早速サラマンダーを探し始めた。――と言っても一向に気配は感じられない。


 ――それにしても先程のスザクの言葉、なんか引っ掛かるんだよな。

『まるで誰かがそこに召喚したかのようだな』

 いや、そんなの有り得ねぇだろと笑い飛ばしたくなるセリフではあったが、俺たちとて他人事では無いのだ。


 なぜなら俺たちも、いきなりこの世界へ飛ばされたのだから。

 まぁ、関係してるとは思えないが。


 するとそこで――みさとが何かを発見したのか、右側を指さしてこう言った。


「ねぇあれ何かしら?あそこだけ色が違う気がするのだけれど」

「ん?どれだ――って、確かにあそこだけ草が枯れているな。」


 みさとが指さしたは、そこ一帯がまるで焼け焦げたかのように、茶色に変色していた。


「一旦近付いて見てみるか。」

「そうね」「だな」「うん」


 そうして俺たちはその場所に近付いたのだが――――結果的にやはりそこ一帯が焼け焦げていた。

 しかも、範囲は中々広く、直径7メートル程の円形だ。


 これも絶対、サラマンダーと関係しているはず!

 俺はそう思い、そこから更に森の奥へ進んで行った。


 ――のだが、結果だけ先に伝えよう。俺たちはサラマンダーと出会う事は無かった。



 今はもう日が沈み始めた頃で、あまりにも帰りが遅かった俺たちを心配したスザクが、「これ以上は何かあったら危ないし、帰る時も危険度が増す」という事で、半ば強引に依頼は中止となった。


 だから今回の依頼が初めて、失敗という事だ。

 そして、この事によって今回の件は更に謎が深まった。


 ありえない条件下で突如森に現れたサラマンダー。

 森の中で見つけた謎の焦げ跡。

 そして突如消えたサラマンダー。


 俺たちは色々な事を考えながら、一度も抜かなかった剣を背中に背負い、帝都ティルトルへと帰還した。

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