目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第41話【闇へと消えた謎〜帝都ティルトル剣術祭への参加登録〜】


 それから俺たちは帝都ティルトルに戻ると、チュロント森での一部始終をギルドの受け付けお姉さんに伝えた。


「――とにかく、結果的にサラマンダーを討伐する事は出来なかった。という事ですね。」

「あぁ、そうだ。本当にすまなかった。」


 俺は頭を下げると、お姉さんに依頼を完了出来なかった事を謝る。

「いやいや、謝らないで下さい」お姉さんはすぐにそう言っていたが、謝らないと気が済まなかった。


 俺たちは今回、この世界に来てから初めて依頼を完了出来なかった。

 それも、サラマンダーという危険なモンスターを逃がしてしまうという。


 (スザクに任せていれば結果は変わっていたかもしれないのに……)


 するとそこで、今にも泣きそうだった俺の背中を誰かが叩いた。


「罪悪感を感じる必要は無いだろ。お前らは何時間もサラマンダーを探し続けたんだ。それでも見つからないなら仕方がない。」

「そうです。もしかするとサラマンダーの目撃例自体がなにかの見間違えかも知れませんし。」


 スザクとお姉さんは俺にそう励ましの言葉を掛ける。しかし、チュロント森の中で見たあの草木の焦げ跡。あれは確実に人の仕業とは思えなかった。


 ---


 その後長い事話し合ったが、中々良い考察が飛び出す事は無く、とりあえず今は「あの森にサラマンダーが一時的に現れ、すぐにどこかへ移動した」という結論に至った。


 そして、ここからは他の冒険者たちが俺たちから役目を引き継いで調査を行う事になり、チュロント森は長期封鎖。

 俺はもちろん続きの探索をしたいと申し出たが、俺たちはこの街の冒険者では無い。


 これが長期的な物になると、長い間ラペルに帰れなくなるかも知れないからと言われ、流石にそれ以上その事については首を突っ込まなかった。

 きっと全て、ギルドからの気遣いがあってなんだろうな。


 正直今回の事で、俺も中々疲れた。精神面的にもな。

 だから今はとりあえずこの事は続報があるまで頭から消す事にしよう。


 さぁ、明日は帝都ティルトル剣術祭の参加受け付けの日だ。


 ---


 次の日。

 今日はレザリオに朝から叩き起されるということは無く、ゆっくり朝食を食べた俺たちは、レザリオと共に冒険者ギルドへ向かった。


 今日はなんで昨日みたいに起こして来なかったのか不思議だったが――昨日疲れ果てて帰ってきた俺たちにレザリオは気遣ってくれたのかもしれない。


 もしかするとレザリオは、案外良い奴なのかも知れねぇな。

 この事の真偽は分からないが――聞くのはやめておくとしよう。


「――で?どうやって帝都ティルトル剣術祭の参加受け付けを済ませれば良いんだ?」


 冒険者ギルドに着き、中に入ったところで俺はそうレザリオに確認を取る。

 そう、昨日も言ったが、今日は帝都ティルトル剣術祭の2日前。参加登録の日なのだ。


「普通に受け付けまで行ってお姉さんに言えば良いんや」

「帝都ティルトル剣術祭に出ますってか?」

「おう」

「本当に……?」


 なんかめちゃくちゃ簡易的だなぁ……。本当にそんなので大丈夫なのだろうか?


 まぁでも、今信じられるのはこの街に住んでいるレザリオだ。とりあえずお姉さんに言われた通り言ってみるとするか。


 俺たちは受け付けの前まで行くと、相変わらず表情が顔に出ないクールなメガネお姉さんに声を掛ける。


「なぁ、ちょっと良いか?」

「はい?依頼でしょうか」

「い、いや、そういう訳では無くてな――」

「じゃあなんでしょうか?」


 げげ……やっぱこのお姉さん、冷たくてなんか怖いな。

 絶対に口喧嘩したくないタイプだぜ。


 命を掛けている冒険者との会話での失言や言い間違えは絶対にしてはならないことだろうからこういうのが最適なんだろうが、ほんわか柔らかいラペルのお姉さんが恋しくなるなこれは。


「えっと――帝都ティルトル剣術祭に参加したいんだが――」

「あぁ、そういう事ですね。それなら参加料の方を」

「「え?」」


 そこで俺たち4人の声が綺麗にハモった。

 いや、だって参加料?そんなの一言も聞いていないんだが……


 まさかお姉さん、俺たちが戦うのでは無くて観戦すると思ってるのか?


 そんな事を考えていた時、後ろにいたレザリオが何かを思い出した様に声を上げると、俺たちにこう言った。


「あ、そう言えば帝都ティルトル剣術祭に参加するんやったら参加料を払わなあかんで」

「「はぁ!?」」


「お前!今言うなよ!?」

「いやぁ、すまんすまん!今思い出したんや」


 いや、俺たちなんにも言われてないからお金だって持って来てないぞ?


 すると、そんな俺たちの様子を見ていたお姉さんは状況を察した様で、いつも通りの落ち着いた声でこう言う。


「分かりました。では、今回皆さんは初めてこの街に来てこの事を知らなかった。という事で、払わなくて大丈夫です。」

「え?いや、それは良いのか?」

「はい。。」


 皆さんはってどういう事だ?――まぁとりあえず払わなくて良いなら別に良いんだが。


 こうして、とりあえず俺たちは帝都ティルトル剣術祭への参加登録が完了した。

 (その直後、詳しくは見ていないが何やらレザリオがポケットからお金を出してお姉さんに払っていたな。あれはなんだったんだろうか)



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?