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第42話【奇遇〜お前らも帝都ティルトル剣術祭に〜】


「――で、とりあえず参加登録はこれで終わった訳だが、ここからどうする?」

「んーそうね、私はとうまに委ねるわ」

「じゃあ私もそうするぜ」

「うん、私も良いよ」

「俺に委ねる。かぁ――」


 帝都ティルトル剣術祭への参加登録を終えた俺たちは、これからどうするのかを特に考えてはいなかった。

 正直、まだ全然朝方だし依頼を受けても良いんだが、それで怪我でもしたら祭りに出られないかも知れないしな。


 う〜む、どうしたものか。

 するとそこで、冒険者ギルドにスザクとミラボレアが入って来た。

 2人は俺たちに気付くとこっちへ歩いて来て、話しかけてくる。


「ようお前ら、今日も朝から偉いな」

「他の大陸から来たんならぁ、ゆっくりすればぁ、良いのにねぇ」

「いやいや、俺たちはずっとこのくらいの時間にギルドへ来るんだ。」


 最初の方は眠くて遅れる事もあったが、気が付くとそれを苦と感じる事は無くなっていた。

 通学や通勤でもだんだん慣れてくるだろ?あんな感じだ。


「そういうあなたたちはなんで冒険者ギルドに来たのかしら?」

「あぁ、俺たちか?俺たちは帝都ティルトル剣術祭に参加登録をしに来たんだ。」

「そうなのか、それは奇遇だな。俺たちも同じだ。」

「お、やっぱりこの時期にティルトルへ来たって事はそれが目当てってのもあったって訳か。」


 いや、スザクさん?そんな分かった様にドヤ顔で言ってますけど、俺たちはここに来てからその存在を知ったんスよ。

 だが、とりあえずその事にはツッコまずに話を進める。


「まぁそれで、今はその登録を終えてここからどうするかってのを話し合ってたところだ。」

「なるほどな。――って事はお前らは特に今から用事があるって訳でも無いんだな?」

「あぁ、まぁそうだが、」

「じゃあ俺たちと少し話さないか?こっちも今日は依頼を受ける気は無いしよ。どうだ?」


 おぉ……!なんだか冒険者らしい提案が来たな。そう言えば俺たち、今までそういう事をあまりして来なかったし、(というかラペルでは中々エスタリたち以外で仲の良い冒険者がいなかったってのもあるが)良いかもしれないな。


「俺は良いぜ、お前らは?」

「私は良いわよ?面白そうだし」

「だな」

「うん!私も良いよ!お祭りの事とか気になるしね!」

「よし、じゃあ決まりだな。とりあえず俺たちは今から参加登録をして来るから、壁沿いの長いテーブルに座っていてくれ。」

「了解」


 こうして俺たちは、スザク、ミラボレアと話す事になった。



「よし、じゃあ話すか」

「待たせてぇ、ごめんなさいねぇ?」

「ワイもぉ、おるでぇ?」


 そこから俺たちは言われた通りに入り口沿いの壁に設置されている長テーブルに座り、待っていると、しばらくして参加登録が完了したスザク、ミラボレア、そしてミラボレアの話し方をモノマネしているのか、気色の悪い声色を出すレザリオが来た。


 なんでこいつも?――って、そう言えばさっきなんか受け付けのお姉さんとやってたな、それが終わったのか。

 てっきり元から居なかったかのように振舞っちまってたぜ。


 3人は俺たちの対面にそれぞれ腰を下ろすと、早速スザクが口を開いた。


「で、早速だがお前らは剣の部か魔法の部どっちに登録したんだ?」

「え?俺は多分剣の部だと……思う」

「ん?なんでそんな首を傾げてるんだ?」


 俺の曖昧な返しにスザクはそう聞いて来る。

 そう、実は先程俺たちが参加登録をした時、「剣の部」か、「魔法の部」なんて指定していなかったのだ。


「いや、登録する時どっちかなんて聞かれなかったんだよ」

「――あぁ、その事なら心配いらんで。ワイがちゃんとしといたから」

「ん?なんでいきなりお前が話に割り込んで来るんだよ?俺は今レザリオじゃなくてこいつらと話しているんだが?」


 するとそこでレザリオが席から立ち上がり、スザクのところまで歩くと、耳元で何かを言った。

 それを聞いたスザクは――


「なるほどな、それでお前らがこいつらの部もちゃんと伝えたと。」

「そや」

 (隣で話の内容が聞こえたのであろうミラボレアも)「レザリオちゃん、中々良い先輩じゃなぁい?」

「せやろ?せやろ?」


 そうして褒められ、気分が良くなったレザリオは「酒や酒!」そう叫びながらギルドの奥へと歩いて行った。

 おそらく酒を飲みに行ったんだろうな。


 ――にしても、今のあいつらの会話は一体なんだったのだろう?みさととかは「感謝しなきゃね」なんて言ってたが、俺には何が何だかさっぱりだぜ。

 まぁ、無理に知りたい訳でも無いから別に良いんだが。


 そうしてレザリオがいなくなると、今度はみさとが口を開いた。


「ねぇ、ちなみに今回の帝都ティルトル剣術祭で有力な冒険者とか、分かったりはしないの?」

「有力な冒険者か――正直、トーナメント表が出てからじゃないと分からんな。」

「そうなのか?」


 俺はそう問う。だってよ?トーナメント表が出なくたって前回の優勝者とか、最近勢いのある冒険者とか、そういうヤツらは大体出るんじゃないのか?


 しかし、そこでスザクから聞いて分かった事なのだが、どうやらこの帝都ティルトル剣術祭。もちろんこの街での大切な祭りで、大人気なのは間違いないが、年々出場する冒険者が減っているらしかった。


 主な原因が、優勝しても、「優勝」という称号しか貰えないという事だ。


 いや、それなら賞金でも付ければ良いじゃねぇかと言う話なんだが、

 実はこの祭り、元々は恐ろしいモンスターに立ち向かう冒険者の士気を上げ、そして命の無事を願うという意味を込めて作られたらしく、その様なものに賞金を付けると金目当てで参戦してくる冒険者が出てくる。

 という考えで、賞金は無しで昔からやっているんだと。

 (それでも設立当初はその称号を賭けて多くの冒険者が参戦していたらしいのだが)


 まぁ、変な考え方だとは思うが、それに俺たちが口を突っ込むのも違うわな。


 そして、それなら報酬の出る依頼をした方が良い、という最近の考えが増えて来て、今に至る。という訳らしい。


「昨年なんて出場者の人数は6人だったぜ?」

「6!?それは少ないな。」

「あぁ、だから流石にこのままじゃダメだと思って、今年は俺たち2人が出るって訳。」


 なるほど、確かに街のトップ冒険者がその勇姿を見せつければ、今よりももっと活気づくかも知れないもんな。


「って事は今回の優勝候補は……?」

「剣の部では俺、魔法の部ではミラボレアだな」


 という事らしかった。

 いや、今のセリフをエスタリが吐いていたとしたら「なに言ってんだよ!」とツッコめるんだが、こいつらが言ったらガチなんだよ。――ん?って事は今回レザリオは出ないという事なんだろうが?


「なぁ、って事は今回、レザリオは出ないのか?」

「ん?あぁ、あいつは出ないだろうな。それに――」

「それに?」


 なんだ?まさか良くある「あいつには出ることの出来ない理由があるんだ」みたいな展開か?

 しかし、スザクはそこで予想外の発言をした。


「出てもどうせ優勝までは行けないだろうしな」

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