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第50話【第3試合〜瞬速のスリード〜】


「……」

「……」


 第3試合が始まる直前、俺はちなつの身体を優しく抱きしめる。その身体は、小さくプルプルと震えていた。


 しばらく沈黙の中抱きしめていると、途端に俺の身体をちなつが突き飛ばす。って!?


「痛って!ちょい!急に突き飛ばすなよ!」

「いや!抱きしめるの長過ぎだろ!このヘンタイ!」

「いやいや!ハグしろっつったのはちなつだろうが!」


 俺はいきなり突き飛ばされて尻もちを打ったところをスリスリしながら、立ち上がりちなつにそう言い返す。

 しかし、そんな俺に対してちなつはもう言い返して来る事は無かった。


 代わりに――


「まぁでもよ、今ので緊張とか無くなったぜ、ありがとな。」


 頬をほんのり赤らめ、笑顔で俺にそう言った。

 はぁ、たくよ。振り回されてるじゃねぇかよ俺。


「たく、」

「ほら、私が試合で使う木の武器、一緒に選ぼうぜ!」

「あいよ」


 ---


 それから俺たちは、フィールド前のエリアの左側にある長机の上に並べられた色んな種類の武器を見ながら、ちなつがどれを使うのか決めていた。


 机の上には普段から俺が使っている様な剣や盾はもちろん、更に短い短剣や、スザクが使っている様な槍までもが置いてある。

 まぁ俺は本番でも普通の剣しか使う気は無いが、今の時間にどんな武器が置いてあるのか確認しておくってのはありかもな。


「お、これとか面白い形してるな」


 そこでちなつがその中からひとつの短剣を手に取る。

 それは、刃の部分(と言っても木で出来ているから木だが)がうねうねと曲がっている短剣だった。


「おぉ、確かに中々見ない形の武器だな。もしかしたら使うこともあるかもしんねぇし、背中にでも仕込んどけよ。」

「だな」


 それにしても今の短剣、どっかで見たことあると思ったら三国志のアニメ映画の中で似た様な形の刃をした槍を見たな。って、んな事はどうでもいいか。

 今はとにかく、ちなつの使う武器を選ばねぇとな。



 しかし、結局その後も2人で色んな武器を触ってみたり軽く振ってみたりしたが、最終的にちなつが選んだのは2本の普通な剣だった。


 まぁちなつが良いんなら別に良いんだが。

 どうせなら変わった武器で戦って欲しかったってのが観客としての俺からの意見だった。


「――よし、じゃあそろそろ本番だ。ありがとなとうま。ここまで色々してくれてよ。」

「いやいや、こっちこそいきなり追いかけて来てすまんかった。ここから応援してるからよ」

「おう!」


 するとそこで、会場に実況者の声が響き渡った。


『そぉぉれではッ!大変お待たせ致しました!これより第3試合、ちなつ選手VSバーサススリード選手の試合を開始致しますッ!!』

「「うぉぉぉぉ!!」」

『では、両選手入場ッ!!』


「よし、じゃあ行ってくるな。」

「おう!頑張って来い!!」


 こうしてちなつは、背中に2本の剣をしまい、フィールドへと入場して行く。その背中に、緊張などどこにも無い。


 ---


 それからフィールド内に入ったちなつ、そして今回の対戦相手であるスリードという、メガネを掛けた緑色のショートヘアの控えめな性格をしていそうな女の子は、中央に向けて歩き、ある程度まで距離が詰まったところで足を止めた。


『では!これより試合を開始致します――』

『試合開始ッ!!』


「はぁぁぁ!!」


 試合開始の合図と共にまず動いたのは、ちなつでは無く相手のスリードだった。

 スリードは素早く地面を蹴り上げると、すぐにちなつへ距離を詰める。


「なッ!?あ、あの女の子、控えめな見た目してる癖にめちゃくちゃ速いじゃねぇか!」


『おぉっと!いきなりスリード選手ちなつ選手との距離を詰めたッ!』


 そしてスリードは、腰にさしていた短剣を逆手で引き抜くと、まるで忍者の様に素早くちなつを切りつける。


 それに対してちなつは、まさかいきなり来られるとは思っていなかった様で、何とか背中から2本の剣を抜いて両手でガードはしたが、後ろに弾き飛ばされてしまった。


 しかし、ちなつもそのままやられっぱなしになる気は無い様で、すぐに構え直すと――


「やり返しだッ!!正義の一撃ジャスティスダブルキリサキ!!」


 クソダサいセリフを大声で吐いた。


『おっと?ちなつ選手がよく分からないセリフを吐いたぞ?』


 あまりのワードセンスの無さに、これには実況者も苦笑いだ。

 しかし、俺たちは知っている。それはただの厨二病発言では無いという事を。


 するとその瞬間、ちなつの持っている2本の剣に、青いオーラが纏われる。

 そして、そのままちなつは短剣を逆手持ちのまま構えているスリードの方へ走り、正義の一撃を放った。――――が、


「なッ!?」


 ちなつは2本の剣での斬撃を放った直後にそう漏らしながら素早く後ろを振り向く。

 そう、なんとスリードは今の攻撃をいとも簡単にちなつの後ろへ移動し回避したのだ。


 いや、速すぎだろ……

 きっと今この会場にいる奴らの中でも、俺は特にそう感じていたはずだ。


 だってよ?今の攻撃はただ双剣で同時に攻撃したって訳じゃねぇ。

 ユニークスキル[正義の心ジャスティスハート]を使用した状態での、言わばちなつの必殺技だったのだ。

 確かに何時もよりスピードも上がっていた、なのに相手のスリードはそんな攻撃をいとも簡単に避けやがった。

 相手は相当なやり手だろう。


『おぉ!ちなつ選手の見事な斬撃をいとも簡単に避けたぞッ!』

「「うぉぉぉぉッ!!」」


 すると、そんなスリードは実況者の言葉に押されるかの様にちなつの方へ再突進。

 またもや先程と同じ様に逆手で持った短剣で横からちなつに向けて斬撃を放つ。


 ――しかし、流石にちなつも二度同じ攻撃を受ける訳にはいかない。

 スリードが狙ってくるであろう場所を片方の剣でガードすると、なんともう片方の手に持っている剣で、攻撃を仕掛けてきているスリードに斬撃を放ち返した。


 そして、そんな奇襲をいくら驚異的なスピードを出せるスリードでも避ける事など不可能だ。

 結果的にスリードは二度目の攻撃は剣にガードされ失敗、更にもう片方の剣で肩にダメージを負った。


「クッ……」


 苦しい表情を顔に出スリード。

 確かに受けた攻撃は鉄では無く木で出来た剣だ、しかし、だからと言ってダメージはある、ここは一旦後ろに下がり、体制を立て直したいと言ったところだろうな。


 だが、それをちなつは許さなかった。


「はぁぁぁッ!!」


 ちなつはそう大声を上げると後ろへバックステップで下がるスリードに猛接近、そしてなんと、背中にさしてあった短剣を逆手で抜き――


「正義の一撃を食らえッ!ジャスティスタンケンッ!!」


 相変わらずクソダサい正義のセリフで身体全体に青いオーラを纏わせて後ろへ下がるスリードに会心の一撃を入れた。


「うがぁぁぁ!?!?」


 予想すらしていなかった攻撃に、そう声を荒らげながら倒れるスリード。



 こうして、第3試合はちなつが制した。




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