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第54話【駆け巡る衝撃〜スザク、固まる〜】


「なぁ、改めてなんだがこれから始まる魔法の部ってのはどんなルールだったっけ?」

「そっか、とうまはさっきまで寝てたから実際に見て無いのよね」

「私たちはもう3回みたけどな」

「で、どんな感じだった?」

「んー……口で説明するのはなんか難しいし――とりあえず見てれば分かるわよ。」


 俺の質問に対してみさとは面倒くさそうにそう答える。

 はぁ……まぁ良いだろう。言われた通りこの目で確かめるとしますかね。


 するとそこで、タイミング良く選手入場の合図を告げるアナウンスが競技場内に鳴り響いた。


『それではッ!只今より魔法の部の初戦最終試合、第4試合を開始致しますッ!両選手入場ッ!!』

「「うぉぉぉ!」」


 そのアナウンスに合わせて、剣の部と同じ様に、対面した入場ゲートから入場してくる2人の冒険者。

 歓声も、やはり剣の部メインで見に来ている人が多いのか俺が今日見てきた試合の中では1番小さかったが(魔法の部の1〜3試合は見ていないから実際のところ分からないが)鳴り響いた。


 そして入場して来たくるみともう1人の男冒険者は、剣の部と同様フィールドの中心へ歩いて行く。

 2人とも木の武器では無く、本物の杖を持っていた。(だが、公平になる様に持っている杖の種類は同じだ。)


 これなら正直剣の部との違いがあまり感じられないが……

 しかし、2人はフィールドの中心まで来て止まるとと、そのうち男冒険者の方がくるみの方へ歩いて行き、横に並んだ。


「ん?おい、なんで今横に並んだんだよ?」

「はぁ……お前は最初にレザリオがしていたルール説明を忘れたのか……?」

「あぁ、正直全然覚えてねぇ」


 確か互いに木の板に魔法を放つとか何とかって――そんな事を言ってた様な気はするが。

 だって自分が出ない部のルールなんて普通本腰入れて聞かねぇだろ。俺はそういう堅苦しいルール説明みたいなのはすぐ忘れるタイプなんだよ。


 するとそんな俺に呆れて再びため息を吐くスザクと、自分の説明を聞かれていなかった事に深く傷付いている様子のレザリオ。


「まぁ簡単に説明すると――ほら、あれを見てみろ。」


 スザクはそういうと、フィールドの方に指を指す。

 俺は言われた通りそれを見てみると、そこでは木の板が立てられ、何重にも重ねている様子があった。


「これからあの2人は、順番にあの板に向かって自分の中で出せるだけの最高火力魔法を放つ。そして審判は、どれだけその魔法で木の板を潰す事が出来たかをポイントとして出すんだ。」

「それで出たポイントの高かった方が勝ち。どうだ?分かったか?」

「なるほど……まぁ分かったぜ。」


 要するに今からあの板に向かって魔法を放って、より強い火力を出せた奴が勝ちって訳だろ?それなら俺でも分かるぜ。


「で?今回の試合はどうなんだ?」

「どうって何がだ?」

「どっちが勝ちそうとか、相手はこんな奴だとかあるだろ。」

「あぁ、そういう事か。ん〜そうだなぁ、正直なところ俺にもよく分からん。」

「え?スザクでも知らないのか?」

「あぁ、すまんな。」


 腕を組み、「おかしいな」そう言いたげに首を傾げるスザク。

 俺的にはてっきり、この祭りに出てくる奴は少なくともある程度の知名度はあるのかと思ってたぜ。

 それにこれまで出場して来た冒険者全員を知ってたスザクが、知らないとは……レザリオが知らないってんなら全然分かる話ではあるんだが。


 すると、スザクは続けてこう言う。


「まぁくるみちゃんはお前らの話通りならなんとかギャンブラーってユニークスキルを持ってる訳だしある程度はポイントを叩き出せるとは思うんだがな……如何せん相手のデータが無さ過ぎる。」

「レザリオ、お前知ってるか?」

「知るかいな。まずあいつが俺たちの使ってる冒険者ギルドに居るんか、違う方の冒険者ギルドに居るんか。それすらも全くデータが無い。」


 いや、なんだよその冒険者。一周まわって怖いじゃねぇか。

 まさか俺たちと同じく別の街から来たとか、そんな感じだろうか?


「――だが、ひとつだけ言える事があるとすれば……」

「ん?あるとすれば?」

「腕はともかく、びっくりするぐらい落ち着いてるって事だ。」

「……ッ!」


 そこで、ずっとそいつの事を見ていた俺も気が付いた。

 確かに入場して来てから、不気味なくらいに緊張している素振りを見せていなかったのだ。

 普通なら緊張しなかったとしても、多少はいつもと違う反応を見せるんだがな。


 そしてそれは、上級冒険者のスザクにも当てはまっている事だった。


「それに、とうまが来る前アナウンスで出場選手の名前が呼ばれたんやが――あいつ今回の祭りになんて名前で登録してると思う?」


 スザクの言葉から更にたたみかけて来る様にそう聞いてくるレザリオ。

 なんだよレザリオまで……怖いじゃねぇか。


「な、なんて名前だよ?」

「「匿名」や」

「と、匿名?」


「あ、確かにそう言えば今回くるみと戦うあいつ。そんな名前だったわね。」


 そこで俺たちの話を聞いていたのか、みさともそんな独り言を呟く。

 いや、なんで匿名にする必要があるんだよ?

 まず、普通に考えてわざわざ名前を隠したいのならこんな祭りには参加しないはず。


 だってこの祭りには優勝賞金も無い。「優勝」という名誉を勝ち取る為の戦いなんだぜ?

 それなのになんで名前を隠すんだよ。まさか優勝賞金が無いって知らないのか?


 俺は頭の中で色々な考えを巡らせる。

 しかし、その結論が出る前にアナウンスが鳴り響いた。


『それではッ!大変お待たせ致しました、木の板の準備が整った様ですので、これよりくるみ選手VSバーサス匿名選手の試合を開始致しますッ!!』


「ま、とりあえずは試合を見ることにしよう。相手がどんな奴であれ、俺たちがくるみちゃんを応援する事には変わり無いからな。」

「だな。くるみ〜!頑張れよ〜!」

「頑張るのよくるみーッ!!」

「くるみ!ファイトだー!!」


『では、まずは匿名選手の方から魔法を放って下さい!』


 アナウンスがそう言うと、匿名の選手は依然表情は全く変える事無く、静かに杖を並んだ木の板の方に向ける。

 そして――


『おおっと!!いきなり放ったぁ!!これは中々の雷魔法だッ!!』


 そのまま雷の魔法を5枚重なっていた木の板に放ち、綺麗に真ん中を貫いた。

 って、普通にやり手じゃねぇかよあいつ!?


「サンダーボルトか……中々に難易度の高い魔法を放ったな。」

「スザク、どうだ?今のはポイント高く付きそうか?」

「あぁ、もしかするとくるみちゃん、勝てないかもしれないくらいにはな。」

「マジか……」


 俺は貫かれた木の板に近付き、ポイントを付けているのであろう審判をドキドキしながら凝視する。

 するとポイントが決まったのか、実況者の方に何やら手で伝えた。


『なるほど……!只今ポイントが確定しました!匿名選手のポイント――127ポイントッ!!』

「「うぉぉぉぉぉぉッ!!」」


 その瞬間地鳴りの様な歓声が鳴り響く。

 選手入場時からはとても考えられない大きさだ。


 という事は……今の127ポイントというのは中々に高ポイントなのだろうか?


「なぁ、今のポイントは高いのか?」


 俺はスザクにそう尋ねる。するとスザクは血相を変えて、


「高い?いや、高過ぎる……この街1番の魔法使いのミラボレアが132ポイントだぞ……?」

「す、すまん……俺にはよくその5ポイントの差が凄いってのは良く分からん……」


 すると、そこでスザクに代わり、レザリオが教えてくれたのだが、どうやら今回の魔法の部はミラボレアの優勝が最初から決まっていたレベルだったらしく、今日出たポイントのミラボレアを除いた最高得点も117ポイントと大きく差が開いていたらしい。


 なのにここに来て全くの無名が127ポイント……これは明らかに異常事態だそうだ。


「お前らにはすまんが、多分――いや絶対くるみちゃんは勝たれへんやろな。残念やけど。」


 レザリオは腕を組みながらそう言う。

 いや、俺も正直そう思うぜ。なんせくるみはまだ冒険者を始めた日数だけでいたらバリバリの初心者だからな。


「それでも応援しよう。」

「そうね」

「当たり前だな!」


 だが、だからと言って応援をしない訳じゃない。最後まで俺たちはくるみの勇姿を目に焼き付ける事にしよう。


『では!続いてくるみ選手、魔法を放って下さい!』


 実況者はそう言うと、くるみは元気良く頷くと、杖を木の板へ向ける。


 するとその途端――くるみの身体に何やらピンク色のオーラが纏われた。


 これには当然競技場全体がざわつき出す。


『おっと?何やらくるみ選手の身体からオーラが溢れています!これは高ポイントの予感だぞ!』


 まさかあいつ……!


「ユニークスキルを使ったってのか……!?」

「よく分からないけど……きっとそうよ……!」

「よし!くるみ!やってやれーッ!」


 正直ユニークスキルを使ったとしてもくるみはまだ初級魔法程度しか使えない。

 だから127ポイントを超えられるから分からないが、頑張れ……!!


 しかし、次の瞬間――俺は信じられない光景を目の当たりにする事になる。


「って!?マジか!?」

「う、嘘だろ……!?」


 なんとくるみが放った火の魔法は、羽の生えたドラゴンのような見た目をしており、凄まじいスピードで木の板を捉えると一瞬で全てを灰にした。


 って、


「はぁぁぁぁぁ!?!?」


 な、なんであいつがあんなド派手な魔法を放てるんだよ!?確実にあれは初級魔法じゃねぇよな!?上級魔法だよなぁ!?


『っとぉぉぉ!?まさかまさかの火竜の咆哮ドラゴンブレスを放ったァァァッ!!ミラボレア選手の放った魔法と全く同じ魔法だぞぉぉぉ!!』


 ど、どらごんぶれす……?なんだよそれ聞いた事ねぇよ……


『そして今ポイントが出ました――――ポイントはなんと、ミラボレア選手と同じ132ポイントだぁぁぁッ!!』

「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」


「ま、マジか……!くるみちゃんめちゃくちゃやるやないか……!!」

「意味が分からん……」


「いや、いきなり色んな事が起きすぎてスザクの言う通りマジで意味わからんが……」

「それでも、」

「ひとつだけ分かる事があるとすれば――」


「「くるみすっげぇぇッ!!」」


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