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第55話【昼休憩〜才能って恐ろしい〜】


 俺たちと同じ様に成長していたくるみが何故か上級魔法を放ち、ミラボレアが叩き出した132ポイントと同じポイントを出した試合が終わり、

 それから少し経つとミラボレアとくるみは仲良く2人で俺たちの居る選手席へと戻って来た。


「――あ!!おかえりくるみ!見たわよさっきの試合!一体どこであんな魔法覚えたのよ!」

「ほんとだぞ!まぁ私たちパーティーメンバーからしたら凄く誇らしいが、それでもなんであんな事が出来たのか教えてくれよ!」


 帰って来たくるみに気が付いたみさととちなつは、開口一番に尋ねる。

 するとくるみは「ただいま〜!応援ありがとう!」アイドルだと言われても全然信じてしまいそうな笑顔でそう言った後、一緒に帰って来たミラボレアの方を見ながら、


「あのね!実は試合の直前――とうまが階段から観客席の方にダッシュで戻って行った後に、選手療養室から出てきたミラボ――いや、先生が「みんなを驚かせてみない?」って教えてくれたんだよ!!」

「うふふ……」


 笑顔で俺たちにそう説明するくるみと、まるで自分の子供を見ているかの様な表情で微笑むミラボレア。

 って「うふふ」じゃねぇよ!?


 ――って言うかここの2人、試合前まであんなに距離近かったか……?

 まずミラボレア自体、なんだか近寄り難い雰囲気がしていて俺たち4人とも距離が近いとは言えなかったが……それでもくるみは特に遠かった気がするぜ……?


 するとそこで、くるみが脅威の132ポイントを出してから理解が追い付かなくなり、ずっと黙り込んでいたスザクが口を開いた。


「ミラボレア……お前まさか火竜の咆哮ドラゴンブレスを直前に教えたってのか……?」

「いや、スザク。冷静に考えてみろよ?くるみは俺たちと同じ時期に冒険者を始めたんだぜ?等級は中級上位とは言え日にちだけで見りゃまだまだこれからの初心者だ。そんな奴が直前にあんな魔法覚えられる訳……」


 だから俺の頭の中には2つの仮説が立っていた。

 まず、1つは、実はくるみは火竜の咆哮ドラゴンブレスなんて元々覚えていなくて、あの時使ったユニークスキル、セレクトギャンブラーの力で初級魔法も上級魔法に見えたという説。


 これならくるみは上級魔法ではなく、火力が異次元に上がった初級魔法を放ったという事になるから、ユニークスキルの存在と内容を知っているこっちの身からすればそこまで不思議では無い。


 そして2つ目は、実はくるみは元々ファスティ大陸に居た頃からウェーナに、俺たちには秘密で上級魔法を教えて貰っていたという説だ。


 正直こっちの説の方が現実味は無いが、くるみが放った魔法がドラゴンの形をしていた事にも納得が行くし、更にユニークスキルによって火力が上乗せされた事によりミラボレアと同じポイントを出せたという事も分からなくは無い。


 しかし、やはりどちらもあまりしっくり来ず、本当はなんなのかずっと結論が出ずにいた。

 ――だが、今目の前に立っているミラボレアはその真実を知っている。

 さぁ、一体スザクの問いに対してどう返すんだ……?


 するとミラボレアは、スザクの質問に対して小悪魔的な笑みを浮かべ、


「えぇ、そうよぉ。私がくるみちゃんに火竜の咆哮ドラゴンブレスを教えたのぉ」

「「……ッ!!」」


 ---


「ま、マジかよ……!?」

「そんな短時間で教えられるのも凄いけれど……すぐに覚えられるくるみ、貴女も相当凄いわよ!!」

「いや、仲間ながらほんとにびっくりしたぜ!」


「おい、ミラボレア……一体くるみちゃんにどうやって教えたんだよ。普通に考えて火竜の咆哮ドラゴンブレス含む上級魔法は全てそう簡単に覚えられる魔法じゃねぇぞ?俺だって魔法専門じゃないにしろ、未だに使いこなせるのは中級魔法までだしよ。」

「いやぁ、私だってぇ、驚いたわよぉ。呪文とコツを直前にちょちょっと吹き込んだだけなのに完璧に使いこなしちゃうんだものぉ。」

「へへぇ……そう?私凄い?」

「えぇ、ほんとぉ、びっくりだわぁ。」


 ミラボレアに頭をスリスリと撫でられ、嬉しそうに可愛らしく笑うくるみ。

 いや、コイツマジで実はめちゃくちゃ凄いんじゃないのか……?


 こうして魔法の部も無事に全員初戦を終えたのだった。


 ---


 それからしばらく経つと、競技場全体にアナウンスが入った。


『先程の試合を持ちまして、一旦、30分間の昼休憩を挟みます。初戦を勝利した選手は、この間に十分休息を挟んで下さい。』


「お、って事は、2回戦まではしばらく時間があるのか」


 俺からしたらまだ魔法の部は1試合しか見てないから早く感じるんだが――気を失ってたんだもんな、そう感じるのも仕方ないか。


「よっしゃ!お前ら、昼休憩やで!今のうちになんか食べとくんやで!」

「おいレザリオ、お前はなんで試合に参加して無いのにそんなに嬉しそうなんだ?」

「いや、普通誰でも休憩時間は好きやろ!それかなんやスザク?お前は好きやないんか?」

「いや、まぁ嫌いではないが……」

「ほらな!好きやないか!」

「お、おい!くっ付いてくるな気持ち悪い!」


「はぁ……!何とか俺たち、全員勝てて良かったな。」


 スザクとレザリオのじゃれ合いを聞きながら、俺はパーティーメンバー3人にそう話し掛ける。


「本当ね。私も絶対誰かは負けると思っていたもの。」

「特にとうまとかな!」

「おいちなつ!2回戦目に当たるのはお前だろ?絶対勝ってやるからな!」

「へっ、やれるもんならやってみろよ!」


 俺とちなつは互いの頬を引っ張り合いながら言い合う。

 するとその時に、みさとがくるみと話していた。


「それにしても、くるみ。貴女本当にあんな技どうやって出したのよ。」

「――確かに、それは俺も気になるぞ。」


 ちなつとの言い合いは試合で決着を付けるとして、くるみの方へ身体を向ける。


「いや、私も案外簡単に出来たからびっくりしたんだよ!」

「ほんとすげぇよ。私ととうまなんて魔力を手に出すことだって1人で出来ないのに。」

「そう言えばそうだったな」


 あんまりにも出来なくて、ウェーナに毎朝地獄の様なトレーニングをさせられてたっけ。

 まぁあのお陰で、こうして無事に勝ち進めたってのもあるんだが。

 なんだか日にちは全然経って無いのに凄く昔の事みたいに感じるな。


 するとそこで、階段から誰かが上がって来る音が聞こえた。


「――ん?」


 俺はみさとたちと話しながら、ふとそっちへ顔を向ける。

 するとそこに居たのはスザクが初戦に戦った上級冒険者、ラゴだった。

 あ、確かあいつ、モンスターを操るユニークスキルを持ってたやつじゃねぇか。


 俺はそんなラゴに声を掛けようとしたが――直前で止めた。

 なぜなら、ラゴはずっと真剣な表情をしていたからだ。

 まるで依頼を受け、現地に向かう時の冒険者の様な。


「ん……?」


 そしてそんな表情で、ラゴはレザリオのところまで行くと耳元で何かを話し、気付けばどこかへ言っていた。


 一体なんだったんだ……?

 でもまぁ、その後もレザリオはいつも通りの振る舞いを見せていたから異常事態とかでは無いんだろうが。


 っし、とりあえず今その事は気にせず、目の前の試合の事にだけ集中しますかね。


 こうして話したりご飯を食べていると、30分の昼休憩はあっという間に終わった。

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