帝都ティルトル剣術祭魔法の部の決勝戦も終わり、等々本当に終盤に差し掛かって来た頃。遂に俺の出番がやって来た。
「ふぅ……」
「どうしたのよとうま?」
「おいおい、まさか緊張してんのか?」
「大丈夫?とうま?」
俺が緊張で吐いた息の音を聞いた3人が、各自後ろからそう声を掛けてくる。
「そりゃ緊張するだろ、決勝戦なんだぞ?この戦いで勝者が決まるんだ。」
今、俺たちはフィールド前のエリアに居て、入場のアナウンスを待っているという状態だ。
たく……ここまで来なくて良いってあれだけ言ったのによ。
なんだかんだで3人ともついてきやがった。
「今更緊張なんてしないでよね、とうまは私たち全員の気持ちも背負ってるのよ?」
「だから、そんな事を言われるから俺は更に緊張してくるんだって……」
はぁ……それにお前らこの祭りに思い入れなんてないだろ。
――まぁでも、
「――でもよ、ここまでお前らが背中押してくれてるんだ、死なない程度に頑張って来るぜ。」
「えぇ!」「おう!」「うん!」
俺は3人の方に振り返ると、真っ直ぐ拳を突き出す。
その拳に、3人は拳を合わした。
するとそこで――
『それではッ!大変長らくお待たせ致しました!これより帝都ティルトル剣術祭剣の部決勝戦、とうま選手
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
『両選手、入場ッ!!』
「お、アナウンスが流れたな、じゃ、行って来るぜ。」
「えぇ、頑張って来なさいよ!」
「負けたら承知しねぇからな!」
「頑張って来てねー!」
「おう!」
へっ、これから戦うスザクがどれだけ強かったとしても、今の俺にはみさと、ちなつ、くるみがついてるんだ、ひとつも怖くなんかねぇよ!!
---
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
俺がフィールドに姿を現すと、先程のアナウンス時の歓声から連続して競技場内がどっと湧き上がった。
すげぇな本当に、これが決勝戦の景色ってやつなのか。
歓声はある程度のところまでデカくなりゃあそれ以上はどちらも同じくらい大きく聞こえる。
だから、正直な所準決勝の歓声と決勝の歓声の聞こえる大きさは変わらない。
でも、雰囲気は全然違っている。これからこの勝者が決まるという事を知らなかったとしても本能でそう気付く様な、本当に不思議な感覚だ。
そしてきっと、今の雰囲気よりも、優勝者が感じる雰囲気の方がもう1段上なのだろう。
「へっ……」
余計に負けられねぇ……!勝って、その感覚をたっぷりとあいつらに自慢してやるんだ……!
俺は歓声を聞いて止まっていた足を再び動かし始め、フィールドの中心部分に向かって歩き始めた。
だが――絶対勝つと誓ったのは良いとして、どうやって勝とうか。
準決勝の時は、相手がちなつ――女の子だったからこそユニークスキルを奇襲的な方法で使い、相手の意表を突く事が出来て勝てたが、
今回はもうさっき1度使ったから奇襲的に使えなければ、そもそも相手が男だから、ユニークスキルが発動出来ない。
となれば、やっぱり正面からねじ伏せるしか……
いや、それは絶対に無理だ。
俺たちのパーティーの中で恐らく1、2番目にタイマンの強いみさとを正面から易々とねじ伏せた相手を俺が完封出来るわけが無い。
じゃあどうやって……?
――くっそ、マジで浮かばねぇ……
とりあえず、戦いながら考えるとするかね。
今回の俺の装備はいつも依頼を受けている時に使っている通りの剣と盾。
盾を装備していなかった準決勝でも、回避に全振りすればほとんどの攻撃を避けられたんだ、そこに、更に盾を追加すればたとえ相手が異次元のスピードを持つ上級冒険者だったとしても、何か作戦が思い付くまでだったら何とか耐えられるはず……!
そこまで考えたところで、俺とスザクは互いにフィールドの中心部分まで移動が完了し、進む足を止めた。
「緊張してるのか?とうま。」
「まぁ、少しはな。でも、アイツらが直前で背中を押してくれたんだ、だから大丈夫だぜ。スザクこそ、相手が俺だからって手抜くなよ?」
「当たり前だ。俺は相手が誰だったとしても手は抜かない。正面から斬り捨てるのみ……!」
そこで、スザクの身体からオーラが放たれている様な気がした。
それは非常に重く、背中に重りを乗せられている様な、そんな雰囲気をフィールド内に満たして行く。
本当に来た……!これがみさとの行ってた……!
-試合前-
「そう言えば、スザクとフィールドで実際に対面した時、なんだか身体全体が水中に居るかの様な、そんな感覚に襲われたわ。」
「はぁ?何言ってんだよ、水中になんている訳ねぇだろ?それはみさとが緊張し過ぎて頭おかしくなってただけじゃねぇのか?」
「はぁ……腹立つ言い方をするわね……マジでぶん殴るわよ全く……要するに、身体が重くなるって事よ」
---
あの時俺は半分冗談でみさとの言葉を聞き流していたが……まさかマジとはな。
これが上級冒険者と対峙した時のプレッシャーって訳か。
『それではッ!これより、とうま選手とスザク選手の決勝戦を開始致しますッ!』
『試合――――』
「……ッ!」
俺は背中から剣を抜くと、何時仕掛けて来られても良いように身構える。
『開始ッ!!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
こうして決勝戦の火蓋が切って落とされた。
瞬間――
「な!?」
試合前にスザクが行っていた通り、いきなり俺を斬り捨てに来やがった。
こいつ、決勝戦を一瞬で終わらせる気かよ……!?
「はぁぁッ!!」
スザクは一瞬にして俺を捉えられる位置まで移動すると、そう叫びながら槍を振るう。
「あっぶねぇ!」
だが、俺だって今みたいないきなりの攻撃を予測していなかった訳じゃねぇ!
寸前で身体を盾でガードすると、次いで即座にバックステップ。
攻撃を回避した。
が――
「これで終わると思うなよ」
やはりスザクも上級冒険者。今の攻撃を避けられるという事はある程度理解していたと言わんばかりに、一切表情は変えず、移動はせずに今度は突きを放って来た。
「……ッ!?」
この攻撃、やべぇ……!
俺はすぐさま盾で突きが飛んでくる場所をガード。
「おぉ、この攻撃も防ぐか、中々良いスピードを持っているな。」
――しかし、その代償で、盾を吹き飛ばされてしまった。
くそ……これじゃもう長くは回避し続けれ無いじゃねぇか。
今の突き攻撃。
遠観客席から見れば俺の反応が遅れて攻撃を食らった。そう見えるかもしれない。
だが、実際最初の攻撃同様に反応は出来ていた。
では何故、最初の攻撃の様に避けられなかったのか?
それは、その攻撃を放つ時にする動作に関係があった。
まず最初の攻撃、これはまず俺を捉える事の出来る場所まで移動し、そこから槍を振り上げて振り下ろす。
まぁこれは俺やみさと、ちなつもする様な本当に誰でもする動きだな。
しかし、一方俺が避けきれなかった2回目の攻撃。
これの動作に最初の「移動」が入っていない。
要するに、最初の斬りつける攻撃に比べて、突き攻撃は射程距離が長いから、その分移動を必要とせず、攻撃までの速度が早かったのだ。
「くっそ……」
参ったな、この攻撃を繰り返されたら一瞬で負けそうだ。
それこそ、次の一撃で負けたっておかしくねぇ……
――だが、それなら俺だって次の攻撃でスザクを沈めてやる……!
「なぁ、スザク。ひとつ聞いても良いか?」
そこで俺は、次の攻撃をいつ仕掛けようかと考えていたであろうスザクにそう話し掛けた。
『おぉっと!?何やら両選手、会話を始めました!!』
「なんだ?答えられる範囲なら構わないが。」
ほう、やっぱりここで「どうせ時間稼ぎだろ」と言って来ないのがいかにまだ余裕があるのかってのを感じさせるぜ。
だが、その余裕は何時まで持つかな?
実はもう見つけたんだよな、スザクの弱点を。
「お前、前に1度肩をモンスターかなんかに攻撃された事、あるよな?」
「……ッ!」
そこで、そのセリフを聞いたスザクは明らかに動揺をした。
やっぱり、図星か。
「あぁ、何故知っているのかは知らないが、あるぞ。だが、それがどうしたって言うんだ?」
「ふっ……その怪我の後遺症なのかは知らないが、お前が攻撃を仕掛けてくる瞬間、肩がピクっと動くんだよ。」
そう、実は1撃目を避けた時からその事には気付いていたのだが、2発目でそれが確信に変わったぜ。
「なるほど、でもよ、それを分かったところでとうま、お前は俺のスピードにはついてこれ無いんじゃないのか?」
「それはやってみなくちゃ分かんないと思うぜ……!」
そこで俺は回避の姿勢を辞めると、剣を真正面から構える。
「ふっ、良いだろう。なら俺も正面から全力でそれを受け止めてやるよ!」
「さぁ来いやッ!!」
正直、これで俺が本当に勝てるのかどうかは分からない。
でも、今言った通りやってみなきゃ分かんねぇ!!
ヒキニート時代にずっとしていたFPSゲーで鍛えたこの動体視力に賭けるッ!!
するとその瞬間、スザクは今まで見た中でもダントツに1番早い突きを放った。が……!
見えた……!!
それとほぼ同時に俺も身体を横に倒すと、突き攻撃を避けながら剣を振り上げ、スザク目掛けて振り下ろす準備をする。
「……ッ!」
そこで、スザクもヤバいと思ったのか少し引きつった表情になった。
よし……!本当に行ける……!!
「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、その瞬間、俺のスザクを捉えようとしていた剣も、俺の攻撃から何とか回避しようとしていたスザクも、どちらの動きも競技場