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第60話【出現〜焼けたチュロント〜】


「お、おいスザク、今の音、なんだ……?」

「いや、俺にも……」


 決勝戦の決着が着こうとしていた矢先、俺とスザクは競技場外から聞こえた爆発音で互いに攻撃しようとしていた手を止めると、一旦武器を下ろす。


 いや、マジでなんだよ今の爆発音……?

 まさか、テロとかか?いや、でもこの世界にテロなんて存在しているのだろうか……?


 するとそこで、選手席からレザリオが飛び降りて、こっちへ走って来た。


「おい2人とも!今の爆発音外から聞こえたで!ほんまなんやっちゅうねん!」

「いや、俺たちも何が起こったのか全く……」


「おーい!」


 その時頭上からそんな声が聞こえた。

 俺はすぐに上を向く。するとそこに居たのは――


「ど、ドラゴン!?!?」


 巨大な身体と翼を持つ、赤いドラゴンだった。

 いや、絶対さっきの爆発音出したのこいつだろ!!


「おい!スザク、レザリオ!今の音の正体、絶対あいつだ!」

「いや、それは無い」

「やな、爆発音はともかく、あいつはワイらの仲間やで」

「は?なんでだよ?それよりも攻撃を――」


 もう短時間に色々な事が起き過ぎて訳分からん!

 こうなったら俺が攻撃してやる……!


 しかし、どうやら本当に敵では無かった様で、空中に居たドラゴンはそのままフィールド内に降り立った。

 そしてその背中に乗って居たのは――


「って、お、お前――」


 スザクと初戦に戦い、瞬殺されたドラゴンマスター、ラゴだった。

 あ、確かモンスターを操れるユニークスキルを持ってた上級冒険者だった奴か。


 でも、そんな奴がわざわざこんな登場をするなんて――やっぱり異常事態には変わりない様だな……


 ラゴは、乗っているドラゴンがフィールド内に降り立った事を確認すると、すぐに背中から飛び降りる。

 そして俺たちの方へ駆け寄って来た。

 これにはいきなり試合が止まり、戸惑っていた観客席もざわめき出す。


「レザリオ!!昼休憩の時に僕が言っていた事が実現された!!」

「って、マジか、」


 開口一番にそう言ったラゴに対して、何時も陽気なレザリオが真剣な顔になった。

 なんだよ昼休憩の時に言ってた事って、確かになんかレザリオと話してるなとは思ってたが、


 すると、そこで選手席からみさとやちなつ、くるみ、ミラボレアも降りて来た。


「ねぇとうま、一体どうなってるのよ!?いきなりフィールド内にドラゴンは降りてきたし――」

「私たちさっきから混乱しっぱなしだぞ!!」


「えーと、じゃあ僕が簡単に今起きた事態を説明するよ」


 そうして、俺たちは先程の爆発音の正体を知った。

 ラゴが言うには、今帝都ティルトルの近くにある森、チュロント森(前俺たちがサラマンダーを討伐しに行き、見つけられなかった森)に、再びサラマンダーが現れたらしく、先程の爆発音もそのサラマンダーが放ったブレスの音らしい。


 そして、そのサラマンダーは従来の物とは全く違い、ものすごく凶暴で、身体を覆う鱗は黒いと。

 どちらにせよ、今すぐに討伐をしなくてはいけない、との事だ。


「だから、これから僕が選んだ数人には今から僕と一緒にドラゴンに乗って、現地まで来てもらいたいんだ。」

「なるほどな。」

「分かったで。」

「お、お前ら、よくそんな簡単に事態を飲み込めるな……」


 これが上級冒険者の違いって事なのだろうか。

 俺はまだ、説明されて尚何が起こってるのか良く分からねぇんだが。


 しかし、そこでラゴが選んだ冒険者は、レザリオ、スザク、そして俺だった。ってなんでだよ!?


「分かった。早く連れて行ってくれ。」

「しゃ!ワイの出番やな。」

「――――あぁ〜!分かったよ!行けばいいんだろ行けば!」

「ありがとう、3人とも。」


 はぁ……正直俺なんかよりも絶対みさとやちなつ、くるみやミラボレアを連れて行った方が良いと思うんだけどな。

 だが、そこはちゃんとラゴにも考えがあったらしく、「いきなりこんな大型モンスターが現れたんだ、もう一体現れてもおかしくない、だから、一般人の多い競技場にも強い冒険者を残しておきたい」との事だった。


 確かに、ミラボレアなら仮にもう一体現れても上級魔法で吹き飛ばせそうだけどよ。


「よし、じゃあ3人とも!早くボクの後ろに乗って!」

「あぁ」「よっしゃ!」

「こ、こうか……?い、意外に高いなドラゴンの上はって!?」


 そこでドラゴンは俺たち全員が背中に乗った事を確認すると、すぐに空へ飛び上がった。


「競技場に残った冒険者の人たちも、観客たちの事を頼んだよ!」


 こうして俺たちは、今回の騒動の元凶、黒いサラマンダーの元へ向かった。

 くっそ……いきなりこんな大切な試合を台無しにしてくれやがって……絶対許さねぇからな……!


 ---


 それから数分、俺は高所に怯えながらドラゴンに乗って目的地へ向かっていると、そこでラゴが地上を指さしながらこう言った。


「みんな!見えてきたよ!サラマンダーはあそこにいる!」

「ん?どこだ?――」


 そのセリフに、俺は絶対背中から落ちないようがっちりとドラゴンを掴むと、軽く身を乗り出して地上の方を見る。

 するとそこには確かに森があり、その中心部分に半径20メートル程の焼け焦げた円形の場所があった。


 あ、あそこだけ明らかに周りと違うじゃねぇか、絶対居るとしたらあそこだろ。


「よし!サラマンダーのブレス跡も目視も出来た!じゃあ降りるよ!3人とも準備は良い?」

「あぁ、俺は何時でも大丈夫だ。」

「ワイもいけるで!」

「…………っしゃ!仕方ねぇやってやる!!」



 こうして俺たちは、地面に降り立った。



「うぅ……焦げ臭いな……」

「まぁ今さっき燃やされた訳だからな」


 俺は地面に降り立つと、すぐに鼻の中に目掛けて焦げ臭い焼けた匂いが飛び込んできた。

 って言うかまさか一撃でここまでの範囲を燃やしたってのか……?運動場の半分くらいはあるぞ、これ……


 俺はそんなこれまで出会った事の無いレベルのモンスターに怖気付いていると――そこで遂に奴が現れた。


「おい、2人とも。そんな悠長に話しとる場合や無さそうやで。」

「遂に姿を現したね。」

「って、あいつか……!」

「サラマンダーと聞いていたから、そこまで大きくは無いと思っていたが――これは確定で変異種だな。」


「しゃァァァァァァッ!!」


 俺たちの数十メートル先、焼けた森から姿を表したのは、体調はおよそ5〜10メートルはあるであろう、前情報の通り全身を黒い鱗が覆う巨大なモンスターだ。

 これが……サラマンダーの変異種……!


 冒険者歴の浅い俺でも分かる……今まで色んなモンスターと戦って来たが、こいつはレベルがちげぇ……!


「と、とりあえず構えるぞ!スザク!」

「あぁ」


 だが、ラゴに選んでもらってここまで来たんだ!ただビビってるだけじゃ終われねぇ!

 俺は背中にさしてある剣を抜くと、何時飛びかかって来られても大丈夫な様に構えた。――――って!?


 しかし、そこで俺は気付いてしまった。

 なんと、試合中に使っていた木の剣をそのまま持って来てしまっていたのだ。しかも盾だってスザクに吹き飛ばされたから無ぇ!


 そして、それは同様に試合をしていたスザクも同じだった。

 スザクも手に持った木の槍を構えてからそれに気付く。


 ちょっと待ってくれよ……あの時はいきなりの連発で武器を持ち替えるなんて頭無かった……くそ……

 ここは一か八か木の剣で戦うか……?

 いや、でもあの硬そうな黒光りした鱗に木の攻撃が効くとは思えん。なんならブレス一撃で燃えて無くなってしまいそうだ。


「ど、どうするスザク!?」

「い、いや俺もこればっかりは……」


 さらに、そんなまずい状況を加速させる様に、サラマンダーは先程よりも威嚇の声が大きくなる。


「しゃァァァァァァァァ!!」

「ま、マズイぞ……」

「僕もあのレベルと戦うならドラゴンに乗ってだけど、それならみんなに怪我をさしかねないよ……」

「いや、それでも良いからラゴ――」


 ドラゴンマスターの力であのモンスターを倒してくれ、じゃないとティルトルに被害が行くぞ。

 そう言おうとした時だ。


 ひとりの、背中に巨大な大剣を背負った冒険者が俺たちを横切ると、前に出て一言。


「しゃあないなぁほんま、ワイがやったるわ。」




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