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間話【その時〜エスタリの最後〜】(エスタリ目線)


 ようお前ら!俺はオネメル、ヒルデベルトを引き連れる中級冒険者パーティーのリーダー、エスタリだ。


 とうま達が中央大陸に旅立ってから数日間。

 俺は自分たちも中央大陸に行く機会がないかを伺いながら、あいつらが何時こっちへ帰って来るのかを考えていた。


 いやぁ、とうまがあっちに行く寸前に、「俺からも帰って来たら凄い報告をする」なんて言ったんだが……

 う〜む、正直今のところ出来るかは微妙なんだよな。


「はぁ……」

「おいおいエス、お前が真剣な顔でため息なんてらしくないな。あの新人パーティーに、先越された事考えてんのか?」


 冒険者ギルドからすぐそこの武器屋。

 その1階で俺は腕を組みながら壁に掛けられた武器を見ていると、奥から歩いて来た店主がそう言って来た。


「いや、違ぇよ。別に追い越されたなんて微塵も思ってねぇしな。」


 まぁ、正直このままだとすぐに越されちまいそうだが……まだ俺が上だ。


「ん?――あ、オネメルちゃんの事か。」

「あぁ、そうだ。」

「お前、まだ気持ち伝えて無いのか?」

「いや、伝えてるぜ、毎日結婚してくれってな。――でもよ、毎回毎回何言ってんのよって具合にいなされるんだ。」

「そりゃお前、そんな毎日言ってたら相手だって、ふざけて言ってるんだろうなって思うだろうよ。」

「そ、そう聞こえるもんなのか……?」

「あぁ、お前だって女の子に毎日結婚してって言われたら、逆に本気にしないだろ?」

「ま、まぁ……」


 それでも嬉しいけどな?


「だから、そういうのは心に決めた日に、面と向かって真剣に言うんだよ。そうやって、まずは恋人になる。結婚はそこからだ。段階は踏まないとな。」

「なるほどな……」


 確かに、今まで俺は付き合ってくれ、なんてあまり言って来なかったな。それは段階をちゃんと踏めていないのかもしれない。


 すると、そこで店主はしばらく腕を組んで何かを考えたあと、閃いた様に「あ、それなら」そう言い、こう続けた。


「どこかで綺麗なネックレスでも指輪でも買って、それをプレゼントする時に言えば良いんじゃないか?メディー牧場方面にある山からなら、確か夕暮れに綺麗な夕日が見えたぞ。」

「おぉ……!それ良いな!」


 それなら、俺の気持ちもちゃんとオネメルに伝わるかも知れん……!っし!となれば今すぐ行動だ!

 今日は俺たち、依頼を受ける予定は無いし、オネメルもヒルデベルトも家に居る。

 あいつらに内緒でネックレスなり指輪なりを買うにも絶好の条件だしな!


「よし!じゃあ今から買ってくるぜ!」

「って、今から行くのか!?おいおい……うちの店では何も買って行かないのかよ」

「あぁ、すまねぇな!また来るからよ!」

「はぁ、じゃあ行ってこい」


 こうして俺は武器屋を出た。

 よっしゃ見てろよとうま!お前が帰って来た時には目の前でラブラブヒューヒューしてやるぜ!


 ---


 ――と、勢いのままに武器屋を出たのは良いが……


「おいおい、一体ネックレスや指輪はどこに売ってるってんだよ!!」


 俺、今までそんな装飾品とは縁もゆかりも無無かったからそれが売ってる店なんてマジで知らんぞ!


 ――でも、だからといって今からまた武器屋に入って場所を聞くのもなんかダサいしな……っし!とりあえずラペルの出口方面に歩いたら見つかるだろ!


 とりあえず俺は、2つあるラペルの入り口の内、ヨーセル森やとうま達と共にオーガを討伐したオリアラの森などに繋がる、西側にある入り口目掛けて歩き始めた。



 そうして数十分後――


「入り口に着いちまったよ……」


 結局俺は、それっぽい店を見つける事無くラペルの入り口まで来てしまった。

 あれぇ?ちゃんと全ての店は見たんだがな?まさか、ラペルにそんな店は無いのか?


 いや、でもそれなら武器屋の店主もあんな提案はしないだろうし……

 俺は腕を組むと、これからどうするかを考える。


 するとそんな時、俺は凄く慌てた表情でラペルの入り口目掛けて走ってくる人の姿が見えた。

 ん?なに慌ててんだあいつ?まさか、またオーガが出たのだろうか?


 いや、でもオーガレベルのモンスターならラペルの周囲に張られた結界魔法でこっちまでは来られないから、ここまで焦る必要は無いと思うが……


 そこで俺は、その男に話し掛ける事にした。


「おい、どうしたんだ?そんなに慌ててよ?」


 ラペルの入り口に入り、膝から崩れ落ちてぜぇはぁと荒い呼吸をする男に俺はそう話し掛ける。

 すると男は――


「あ、貴方は冒険者様ですか……?」

「あぁ、そうだが――って!?」


 その瞬間、俺が冒険者だと分かった男は縋るように涙目でこう言った。


「この先――ヨーセル森のすぐ隣にある草原で真っ黒のサラマンダーを目撃しました!!お願いです!!今すぐあのモンスターを討伐して下さい!!」

「は、はぁ!?!?サラマンダーだと!?それも真っ黒って、」


 まず、こっちの大陸にサラマンダーが出現するなんて聞いた事ねぇぞ?しかも真っ黒。

 どこかで聞いた事がある、色が違うのは突然変異か、もしくは――変異種だと。

 そして変異種の場合力が非常に上がっている可能性が高い。


「おい、この街を囲う結界魔法にそんなレベルのモンスターから守る力なんて無いんじゃないか……?」

「だからお願いします!!今すぐ……今すぐ倒して下さいッ!」


 くッ……どうする俺……とりあえず俺1人で倒せるレベルの相手じゃない事は確かだ。

 それなら今から冒険者ギルドに戻って――いや、それならその間にサラマンダーがラペルまで来る可能性があるな……


「くっそぉッ!!分かった!!とりあえず今から俺が現場に向かう!!お前はダッシュで冒険者ギルドに向かい、誰でも良いから加勢に来てくれる冒険者を呼んできてくれ!!」

「わ、分かりました……!!」


 マジで今回ばかりはどうなるか分かんねぇ。

 でも、だからって冒険者として、エスタリというひとりの男として、ビビってる場合じゃねぇだろうが!!


 ---


 それから俺は直ぐにラペルから出ると、ヨーセル森を横切り、男がサラマンダーを目撃したという草原まで来た。


「はぁはぁ……ここだな。――ってッ!?」


 とりあえず草原に着くと、俺は息を整えるついでに周りを見渡す。

 ――そこで見つけた。真っ黒なサラマンダーを。


「で、デカすぎだろ……」


 サラマンダーってこんなにでかいのか……?

 確かモンスターの情報が乗ってある本には3〜5メートルって……

 しかし、今目撃したサラマンダーは男が言っていた通り真っ黒な見た目をしていて、大きさは恐らく8メートル程だった。


 こんなのどう倒すってんだよ……

 俺はとりあえず背中から剣を抜くと、ゆっくりと間合いを詰めて行く。

 だが――


「しゃァァァァァァァァァッ!!」

「……ッ!!」


 ある程度まで近付いたところで、サラマンダーに気付かれてしまった。

 サラマンダーは、直ぐに身体の向きをこっちに向けるとその巨体からは考えられないスピードで突進して来る。


「くっ……!!」


 それに対して俺は何とか横に身体を倒して回避――する事は出来なかった。


「ってぇ!?」

「しゃァァァ!」


 こ、こいつ……いくらなんでも早すぎだろ……

 俺は鋭い爪に切り裂かれた右側の腹部を左手で押さえ、出血の量を抑えながら直ぐにサラマンダーの方へ剣を構える。


 すると、サラマンダーも直ぐに2度目の突進を仕掛けてきた――が、流石に2度も同じ手には引っ掛かるか!!

 俺は先程よりも早く左に身体を倒して、今度は何とか攻撃を回避する事ができた。


「ここだぁぁぁ!!」


 そして、攻撃を空ぶり、隙の見えたサラマンダー目掛けて俺は何とか痛みに耐えながら剣を振り下ろす。


「しゃァァァァァァ!?」

「っし!見たか!」


 その攻撃は見事サラマンダーの背中にクリーンヒット。

 相手は悲鳴を上げると、距離を取るように俺から離れてい行き、直ぐにまた、何時でも突進出来る体制になった。


「――はぁはぁ……」


 とりあえず、一撃与える事が出来たのは良いが……腹の傷が……

 今身体を無理に倒して避けたという事もあり、出血が酷い……俺は急激に大量に出血をしたせいか、クラクラして来た。

 そして、そんな時だと言うのにも関わらず、サラマンダーは容赦無く3度目の突進を仕掛けてきやがった。


 しかも、今回のは今までの突進とは違い、更にスピードも早かった。

 そこで俺はこう悟る、「避けられない」と――


 ただでさえ大量出血で意識が遠のきそうな中、先程よりも早い速度の突進。

 これはどう考えても避ける事など出来ない。


「あぁ……くそ……」


 でもよ……ここで諦めないのが俺、エスタリだ……!!

 一か八か、こっちも前に出て攻撃をしてやるよ……!!


「さ、さぁ来いよ……サラマンダー……!俺が、返り討ちに――して、やるッ!!」


 神様、今だけ、今だけ俺に力をくれッ!!


「はぁぁぁぁぁ!!!」

「しゃァァァァァァァァァッ!!!」


 俺はサラマンダー目掛けて剣を振り下ろす。

 サラマンダーは俺目掛けて鋭い爪を振り下ろす。

 そうして決着が着いた。


 ---


 その瞬間、俺の攻撃は見事に成功。

 剣が深くサラマンダーの背中に突き刺さった。――――しかし、サラマンダーの攻撃も俺に的中――


「ぁあ……」


 どさりと地面に落ちる俺の上半身。

 サラマンダーが悲鳴を上げ、遠くへ去って行く音が聞こえた。

 あぁ、何とか俺はサラマンダーを追い払えたんだ……


 すると、そこで何やら誰かがダッシュでこちらへ近付いて来る音が聞こえた。


「……ス……エ……エス!!しっかりして!!」

「エスタリ殿!!」

「ぁあ、お前ら……か。」


 地面に倒れた俺の視界に、涙目のオネメルと焦った表情のヒルデベルトが入って来る。

 はは……こんな時だってのに、愛しのオネメルは可愛いし……ヒルデベルトがいるから心強いな……


「おねがいエス!しっかりして!」

「エスタリ殿!!」


 2人は俺にそう、必死に呼び掛けてくる。

 ――でも、もう俺が助からない事くらい、自分でも良く分かった。

 そしてこいつらも、それがよく分かっているだろう。


 なぜなら俺にはもう、

 恐らく、さっきのサラマンダーの攻撃で上半身と下半身が真っ二つになったんだろう。

 へっ……自分でもなんで生きてるのか分かんねぇよ。


 って、あぁ。そうだ。オネメルに伝えなきゃ行けない事が、あるじゃねぇかよ俺。


 俺は最後の力を振り絞ると、必死に手に力を入れ、地面に咲いていた綺麗な紫色のチューリップを引き抜く。

 そしてそれを何とかオネメルの方に伸ばし――


「ずっと……貴方が、好き、でした。俺と、付き合っ――」

「当たり前じゃない!!!」

「ぁ……」

「エス!何時も幸せにしてくれるって言ってくれたじゃない!!私だって貴女が大好きなんだから!!先に

逝かないでよ!!」


 そこでオネメルは差し出したチューリップを直ぐに受け取ると、大粒の涙を顔に何度もかけながら、俺の身体を抱き締めてくれた。


「ぁあ……俺は……」


 そこで俺の目からも――遠のいて行く意識の中、涙が溢れてきた。


 なぁとうま、お前の土産話を俺が聞いてやる事は出来ねぇけどよ――それでも絶対、今の俺には勝てねぇな。


 俺は今……世界一幸せな冒険者だ。

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