「お、おい!お前らどこに行くんや!?」
「みさと、ちなつ、くるみ!今すぐラペルへ戻るぞ!」
「え、えぇ!」「あぁ!」「うん!」
「すまんレザリオ!」
くっそ……!もしさっきの奴らの会話が本当だとしたら……
『あぁ、それな。確か死人も出たんだっけ?』
『確か弓使いとリザードマンを引き連れるパーティーのリーダーだったって話だ。』
弓使いとリザードマンを引き連れるリーダーなんてラペルどころかファスティ大陸にはエスタリ以外居ないんだぞ……?
どうか無事であってくれ……!
こうして俺たちは、ファスティ大陸と中央大陸を行き来する船が止まっている海辺へと走った。
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しかし、数十分走ったところで俺は重要な事を思い出した。
それは……「本来ティルトルから海辺までは馬車を使って移動する」という事。
動き始めた時はエスタリの事で頭がいっぱいだったから考えていなかったが、確か最初に来た時は馬車でも1時間位掛かった様な……
「はぁ……はぁ……」
「とうま、一旦休憩しましょう。」
「全く……疲れるぜ……」
「ホントだよ……」
「す、すまんお前ら、俺の身勝手な行動で振り回しちまって。」
ずっと走りっぱなしだったから、肺がものすごく痛い。
そんな痛みが、俺の混乱していた脳を冷静にした。
「謝る必要なんて無いわよ。私だって今すぐにでもラペルに戻りたいもの。」
「あぁ、そうだぞ。」
「うん。」
「お前ら……」
「――でも、流石に今からまた砂浜まで走るのはやめた方が良さそうね。」
そこで、みさとは空に指を立てながらそう言う。
そこで俺も空を見上げる。気が付けば太陽はもう沈む寸前だった。
「それに、これからまたティルトルに戻るっつっても暗くなったら道が見えなくなるから無理だよな。」
「だね、それで手当り次第に動いて道を見失ったりしたら最悪だよ」
「――って、事は今日は、」
「野宿になりそうね」
「だな」「だね」
仕方ないと言わんばかりの表情でそう言う3人。
あぁ、本当に申し訳ない……もしあの時俺が冷静に馬車を捕まえてさえいれば……
――でも、もう謝るのはやめておこう。こいつらは俺が出来るだけ罪悪感を背負わない様に接してくれてるんだ。
それなら俺も――
「よし、じゃあとりあえず明日に備えて今日のところは野宿だ!」
――あぁ、エスタリ。マジで無事でいてくれ……
こうして俺は、心に不安を抱きながら野宿をするのだった。
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「う、うぅ……」
小鳥たちのチュンチュンという鳴き声と、顔に直で当たる太陽光で俺は目が覚めた。今は翌日の朝だ。
「ふぁ〜……もう朝なのね……」
「みたい……だな。」
「まだ眠いよ〜」
すると、俺が起きたタイミングで少し離れたところで寝ていた女子3人組も各自目を覚ました。
「って……頭が痛ぇ……」
実はあの後、なにか寝る時に使えそうな物は無いのか探したところ、巨大な葉っぱが見つかったのだが、3枚しか見つけられなく俺は石の上に直接寝たんだよ。あぁ、だから身体中かマジでバキバキだ。
――だが、だからと言ってまた更にここで休憩するなんてのは論外だ。
俺は数回頬を両手で挟むように叩くと――
「っし!お前ら!起きたならもう動くぞ!」
こうして俺たちは、浜辺を目指してさっそく行動を開始した。
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それから数十分掛けて浜辺へ行き、そこに居た初めて来た時もお世話になった黒いローブを纏った男に声を掛け、急ぎの用と言い、目一杯ボートを飛ばしてもらった。
すると男もそれに応えてくれたみたいで、ファスティ大陸まではなんと来た時よりも2倍早い、30分くらいで到着した。
いや、飛ばし過ぎてマジで落ちるかと思ったが……まぁ良いだろう……
「――ありがとな!じゃあ俺たちは行くぜ!」
「ありがとう!」
「ありがとうな!」
「ばいばい〜!」
「おうよ。」
よっしゃ!じゃあ今からラペルに向かって走るぞ!――――って、ん?ちょっとまてよ?今からラペルに向かって走る……ッ!?
「って、ちょ、ちょっと待ってくれ……俺たちまさかまた今からラペルまで走らなくちゃいけないんじゃないか……?」
「た、確かに……忘れてたわ……」
「ちょっと待てよ!?それマジでヤバいだろ!私もう動けねぇって!」
「う、うぅ……現実というのは非常だよ……」
そんな俺の言葉を聞いて、3人もその事を思い出す。
くるみなんてもう今にも泣き崩れそうだ。
しかし、そんな時に砂利道の方からある声が聞こえて来た。
「やっと来ましたか。まぁ皆さんなら絶対に来ると信じていましたが。」
「……ッ!!」
こ、この声は……!
俺たちは直ぐに後ろを向くと、声のした方へ走って行く。
するとなんとそこには、馬車を停め、その上に座っているアンテズ村の村人の姿があった。
「お、お前……!来てくれたのか……!」
「はい、ずっと待っていましたよ。」
「ずっと待ってたのか?」
「えぇ、昨日の昼からずっと。」
「って、き、昨日の昼!?」
それはちょっと待ち過ぎじゃないか!?
普通数時間待って来なかったら帰るだろ!それだけ信頼されてるって事なのかもしんねぇけどさ!
「――忘れたんですか?皆さんは私たちの村を救って下さった救世主なのですよ?それに――前も何度か言った事はありますが、これはこちら側が望んでしている事なのです。だからほら、早く荷台に乗って下さい。」
「クッ……ほんとにすまねぇ…………っし!分かった!お前らも早く乗るぞ!」
「え、えぇ!」
「分かったぞ!」
「うん!」
アンテズ村のみんな、本当にありがとう……!
待ってろよラペル……!
こうして俺たちは、ラペルへと向かった。
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それから約1時間後、俺たちを乗せた馬車はラペルに到着した。
「――っと、」
「着いたわね……!」
「だな」「うん」
馬車が止まった事を確認すると、俺たちは直ぐに荷台から降り、ここまで運んでくれたアンテズ村の村人に礼を言う。
本当に、感謝してもしきれないってのはこういう事を言うんだろうな。
「では、私は村へ戻ります。」
「あぁ、じゃあ俺たちも行くか」
「そうね」「急ごうぜ」「うん」
そうして俺たちは、アンテズ村の村人と別れると、すぐに冒険者ギルド目掛けて走り始めた。
「はぁはぁはぁはぁ――」
数日ぶりのラペル。今までは普通だって思ってたが、こうやって見ると案外いい街だな。(別に今までいい街じゃ無いって思ってた訳ではねぇが。)
――そして、約10分程走ったところで俺たちは遂に冒険者ギルドへ戻って来た。
「なんか、静かだな」
「ね、それ私も思ったわ」
「とりあえず入ろうぜ」
「そうしよ」
今はまだ朝だ、だから何時もならこの今いる冒険者ギルド前もこれから依頼に行くという冒険者で溢れかえっているはずなのによ。
今日は、冒険者が居ないどころかラペル全体が静まり返っていた。
――だが、とりあえずはエスタリの安否を確認しなければ……!
俺は冒険者ギルドの扉に手をかけると、中へ入った。
中に入ると、外と同じく相変わらず冒険者は居なかった。
「――あ!おはようございます――って、皆様!!帰って来て下さったんですね!!」
「あぁ、ただいま。だが、今はそんな事は良いんだ。まずはひとつ、確認を取らせてくれ。」
「エスタリは無事か?」
俺は普段神様なんて信じねぇ。もし神様っつうのがいるんだとしたら、それはきっと意地悪な奴だと思うからだ。
だって、高校生時代いじめられてた俺になんの救いの手も出して来ないんだぜ?
でも、今だけは神様に縋るような思いで、カウンターの向こうにいるお姉さんの言葉を待っていた。
――だが、やはり神様なんてのはいない。
俺の問いを聞いたお姉さんは、今にも泣き出しそうな声でこう答えた。
「亡くなり、ました、」