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第64話【あれから〜再降臨〜】


 俺たちがエスタリの報せを聞き、ファスティ大陸に戻って来てから数日が経った。

 あれから俺たちはモンスターの討伐依頼は受けていない。

 ――いや、まず冒険者ギルドに行っていないと言った方が良いか。


 なんでかって言うと、別に今討伐に行かなくても生活出来るだけのお金があるってのと――


「はぁぁぁぁ!!」

「おぉ、さっきよりも踏み込みが良くなっていますぞ」


 俺はウェーナの家の真ん中にある中庭で、正面に立つヒルデベルトに対して斬撃を繰り出す。

 (くっそ……今のも避けられたのか……)


 エスタリを殺したサラマンダーはまだ死んではいない。

 だから、何時また現れるか分からない状況だ。俺たちはそれまでに今よりもっと強くならなきゃいけないだろ?


 ――要するに呑気に討伐依頼を受けてお金を稼いでる場合じゃないって訳だ。

 それに、これでもし俺たちがサラマンダーに負けでもしたら――きっとラペルは――いや、ファスティ大陸は壊滅するッ……


「はぁはぁ……もう一度だ……!」

「我は何時までも付き合いますぞ。」


 ちなみに今、俺はヒルデベルトに攻撃を当てる訓練をしている。

 パーティーの中でも剣術のレベルが低い俺は、まず確実に狙ったところへ攻撃を命中させるというスキルを身につけなければならないのだ。


 対してヒルデベルトはリザードマン。人間よりも身体能力は何倍も高いから、この訓練の練習相手には持ってこいって訳だな。(おまけに魔法も使えるから、みさとに魔法を教えていたりもしているな。それなのに主に戦闘で使うのは石などを操り戦う念力なんだから驚きだ。)


「はぁぁぁぁ!」


 俺は再び足に力を入れると、勢い良く地面を蹴りヒルデベルトの方へ突進して行く。

 さっきの攻撃はまだ踏み込み切れていないと言われた。なら――


「よっ!」

「おぉ」

「これなら、どうだぁぁぁッ!!」


 そこで俺は、ヒルデベルトとの距離が3メートル程まで迫ったところで一旦身体を止め、スピードを足に溜めてもう一度強く地面を蹴ると、剣を振り上げ、肩めがけてそれを振り下ろした。


 これなら最初のスピードのまま斬撃を繰り出すよりも速いスピードで行ける……!


 ――しかし、俺の剣が完全にヒルデベルトの肩を捉えたその瞬間、ヒルデベルトはそのゴツゴツとした鱗の腕で剣を握り、その動きを止めた。って!?


「おい!反撃したりはしないんじゃなかったのかよ!」

「確かに我は反撃しないとは言いましたが――とうま殿の剣を掴んで動きを止めないとは言っていませんぞ?」

「そ、そんなの卑怯だろうがよぉ!」


 はぁ……今の攻撃絶対入ってたって……

 しかし、そんな落ち込む俺に対して「そもそも、ちゃんとした剣で行っているのですから、本当に当たってしまうと我が怪我をしてしまうではありませんか」と、ヒルデベルト。

 確かにそうかもしれねぇけどよ……


「ですが今の一撃はしっかりと、我の肩に狙いが定まっていましたぞ。」

「そ、そうか……?な、なら良いが。」


 するとそこで、近くで休憩していたちなつが野次を飛ばして来た。


「とうまって、今みたいに褒められると怒っててもすぐ許しちゃうよなー」

「お、おい!恥ずかしいからそんな事言うんじゃねぇ!」


 今まで褒められた事とか、全然無かったからまだ慣れねぇんだよ!くっそ!

 あぁちなつめ……あいつにも恥ずかしい思いをさせてやりたい――あ、そうだ……!


「――でもよ」

「ん?なんだ?」

「ちなつの方こそ「可愛い」って言われたら照れるんじゃないのか?」

「な、なに言って……んな事……」


 はっはぁ図星ぃぃぃ!!

 やっぱりな!こいつは男っぽいから可愛いって言われたら照れると思ったんだよ!


 そこで、気分の良くなった俺は更に両手を頬に当てて紅くなるちなつに追撃を繰り出す。


「でもよ?ほんとに可愛いぜ?ち・な・つ?」

「ち、ち、ち、ち、ちなつちゃんだとぉぉ……!?」


 ウホウホッ!ほらほら効いてる効いてるぅ!!

 っし!こうなったら徹底的にしてやるからな!


「なぁ、ヒルデベルト。ちなつちゃん、可愛いよな?」

「い、いきなりなんですかなとうま殿?先程まであんなに疲れていたのに――」

「いやいや、んな事良いからよ、可愛いよな?」

「え、えぇ。可愛らしいとは思いますぞ?」

「だってよ、ちなつちゃん?」

「や、や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」


 まぁ、これがここ数日の俺たちって感じだ。

 今みたいにふざける時だってあるが、基本的にみんな訓練に励んでいる。

 そのお陰で、確実に力を付けてこれていた。


 あぁ、いっその事これからもサラマンダーが出現しなかったら良いのにな。

 そりゃもちろんエスタリの仇もあるし、討伐したいのは当然なんだが、それでも、これはサラマンダーな限った話じゃ無いがモンスターは出現しないに越した事はないだろ?って、モンスター討伐を生業にしてる冒険者が言うセリフじゃねぇか。


 すると、そこで席を外していたウェーナが何故か息を切らしながら中庭へ入って来た。


 お、ウェーナ先生が来たぞ。

 さっき水を持って来るとか言ってたから、それを持ってきたのだろうか?


「お、水を持って来てくれたのか?」

「はぁはぁ――」

「って、どうした?」

「――――が、」

「ん?」


 なんだ?今なんて言ったんだ?

 俺は酷い息切れで上手く言葉を発せていないウェーナにもう一度聞き返す。

 すると、そこでウェーナは大声でこう言った。


「さ、サラマンダーが出現しましたッ!!」

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