「な、な、」
ちょっと待て……サラマンダーが出現したって……?
「ウェーナ殿、今の発言は本当ですかな。」
「おい!とうま!急げ!準備しろ!みさともだ!中で休憩してるオネメルとくるみにも報告してくれ」
「分かったわッ!」
ほん、とに……?――――ッ!!くっそ!!
「ウェーナなここにいろ、」
「いえ、私も行きますよ」
「いや、もし俺たちが殺りきれなかったら次はラペルの住人が危ないからな、その時に頼む。」
今回の相手は正直今までとは格が違う……
中央大陸で見たあの光景は……普通じゃ無かったからな。
だからこそもしもの事があるかもしれない。
「よし!まずは冒険者ギルドで詳細を聞くぞッ!」
こうして俺たちは、冒険者ギルドへとダッシュで向かった。
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「おいッ!サラマンダーが再び出現したのは本当か!?」
それから俺たちはすぐに装備等一式を持つと、冒険者ギルドへ移動した。
ドアを走って来たスピードそのままに荒く開け、中に飛び込むようにして入る俺。
すると、なんとこんな時だと言うのに冒険者は1人もおらず、受け付けカウンターにお姉さんが立っているだけだった。
お姉さんは俺たちがギルドに入って来た事を確認すると、すぐ目に涙を溜め、縋るような声でこう返してくる。
「――皆様……!はい……ッ!先程山菜狩りに行っていた方からの報告によりますと、数日前に現れた場所と同じ草原にて、背中に剣の刺さった鱗の黒い――おそらく変異種のサラマンダーを発見したとの事です……!」
くっ……ウェーナの言ってた事は本当だったって訳か……
正直さっきのは誰かのデマ情報を鵜呑みにした勘違いであって欲しかったのだが――現れた以上仕方ない。
「よし……!ならそのサラマンダー、今から俺たちが討伐するッ!」
俺は覚悟を決めると、片手を胸に当て、そうお姉さんに告げる。――って言うか、ギルドに俺たち以外誰も居ないんだ、俺たちがやらなきゃ誰がやるんだって感じだしな。
しかし、そんな俺の言葉を聞いたお姉さんは、まるで俺たちは絶対に討伐しに行かないと思っていたかの様に、カウンターから身を乗り出して、
「って、え!?皆様本当に討伐しに行って下さるのですか……!?」
「いや、何を驚いてるんだ?俺たちはここ数日間サラマンダーを倒す為に訓練を積んできたんだぞ?それに、出現したモンスターを討伐するのは冒険者の仕事じゃねぇか。」
「いや、まぁそれはそうなのですが――」
「?」
それから俺たちはお姉さんの話を聞くと、実はお姉さん、これから中央大陸に手紙を出して緊急で上級冒険者に来てもらおうとしていたらしい。
理由は、この大陸にサラマンダーを倒せるレベルの冒険者が居るのか定かでは無いという事と、そもそもここ数日間、エスタリの報せを聞いてから討伐に行くのが怖くなって、冒険者ギルドに来る冒険者自体の数が減っていて、頼める冒険者がいなかったからという事らしい。
なるほど、だから俺たちが緊急で中央大陸から帰って来た時も冒険者ギルド内に冒険者が居なかった訳だな。――それに、俺たちだってここ数日間は顔を出さずにウェーナの家で訓練をしていたんだ。
そりゃ俺たちもサラマンダーと戦ったり、死ぬのが怖いと思われていて普通だよな。
でも、だからって今から中央大陸に手紙を出して上級冒険者に来てもらうなんて――
「考えてみろよ?手紙があっちに着くまででも相当時間が掛かるんだぞ?その間にサラマンダーがもしラペルに来たりしたらどうする?」
「確かにそれは……」
俺のセリフを聞き、俯いてしまうお姉さん。
あぁクソ……なんか俺がお姉さんを責めてるみたいになっちまった。
きっとお姉さんだって、誰も来ない中1人でずっと何か言い策がないか考えてたんだもんな。
だから俺は、俯いて今にも泣き出しそうなお姉さんの頭に手を乗せると、
「でも、もう大丈夫だ。あとは俺たちが何とかするからよ。」
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それから現時点で分かっている情報をお姉さんに教えて貰った俺たちは、すぐに冒険者ギルドを出ると、現れたというヨーセル森の横にある草原へと向かった。
目撃情報によると暴れたりする素振りは見せていなかったらしいが……
あんなに危険なモンスターなんだ、暴れ始めたら本当に止められんぞ……!
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それから数分後、俺たちは目撃情報のあった草原へと着いた。
(ここに来るのも久しぶりだな。)
初めてこの世界に転生して来た時と言い、なんだかんだ縁のある場所だ。
そして俺は、そんな青々しい草花がどこまでも生えている草原を一望した。
チュロント森とは違い、まだサラマンダーはブレスを吐いて草木を燃やしたりはしていないみたいだな。というか、爆発音が鳴っていないのにブレスを放たれていてはそれこそいつ来るのか分からないから手の打ちようが無いのだが。
そんな風景は、以前通りすがった時と、全く変わっていなかった。
そう、
「とうま殿……!」
「あぁ、分かってる。お前ら全員構えろッ!」
砂利道を逸れ、草原に足を踏み入れた俺たちの数十メートル前に現れた黒い影。それに対して武器を構える。
それこそ、エスタリを殺した張本人、黒い鱗を持つサラマンダーだった。
「しゃァァァ……」
俺たちの存在に気付いたサラマンダーは、そう威嚇の声をあげながら、ゆっくりとその間合いを確実に詰めてくる。
思わず、足を1歩下げてしまいそうになる、ものすごい圧力だ。
――しかし、こんなところで思う下がれる訳が無い。
(背中にエスタリの剣が刺さってるな……よし、目撃情報があったのもあいつに違いねぇ)
もし目の前のサラマンダーが目撃情報のあったやつじゃなかったら最悪だ。
だから俺は最後にその事だけしっかりと確認すると――
「今だ!行くぞぉぉぉぉぉぉ!!」
「「うぉぉぉぉぉ!!」」
間合いを詰めてくるサラマンダーに、全員で一気に飛び込んで行った。