「――あ!おいみんな!帰って来たぞ!」
「って事は上手く行ったのか!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
中央大陸の入り口から馬車に乗り、帰って来た俺たちに気付いた街に残っていた冒険者は、姿を見るなりそう声を上げ、各自武器を天に掲げる。
「――見たところ戦闘の跡は無いし、こっちにモンスターやソルクユポのメンバーは攻撃しに来ていなかったみたいだな。」
そんな光景をスザクは荷台の窓から見ながらそう呟いた。
「だな、市民の人達も全員無事みたいだし、本当に良かったぜ。」
「魔族の人達も死人は出なかったものね」
そう、実は俺がエイブ・シュタイナーを倒した直後、ソルクユポの連中全員動きが止まったのだ。
それと同様に、俺たちの足止めをして来た
はぁ……マジで誰も死ななかったと知った時は本当に安心したぜ。
魔王なんてあの流れ、絶対死ぬパターンだったからな。
――まぁでも、とりあえずは俺のおかげでみんな助かったって訳だ。ぐへへ。
「――ギルド前にぃ、到着したわぁ」
「よし、降りるぞお前ら。俺はこのふにゃふにゃになったレザリオを担ぐから先に行ってくれ。」
「あぁ、――って本当にめちゃくちゃふにゃふにゃだな。前ドラゴンと戦った時よりも酷くないか?」
俺はスザクの膝の上に頭を置き、スライムの様になっているレザリオを見ながらそう言う。
やっぱりこいつがこの街最強の冒険者だなんてとても信じられねぇよ……
ま、とりあえずは降りるか。
「よっと」
俺とみさと、ちなつ、くるみはスザクに言われた通り、馬車の荷台から先に降りる。
するとその瞬間、周りを囲んでいた冒険者たちが一斉に話しかけて来た。
「おかえり!!良くやってくれた!!」
「俺たちの代表として最高だよ!!」
「お前たちはほんと俺たちの英雄だ!!」
「す、すげぇな。こんなに盛り上がるもんなのか……」
「まぁ、この人たちは私たちに自分の運命を預けていた同然だものね。それに――それだけ私たちは大きな事を成し遂げたのよ。」
「特に、とうまがな!」「うんうん!」
ニヤリと笑い、そう言うちなつと首が折れそうなぐらいにブンブンと縦にふるくるみ。
「お、おいおい英雄扱いはやめてくれよ、恥ずかしいじゃねぇか。それに俺はただの引きこもりエロゲーマーだっつうの。」
「それは前の世界の話じゃない?この世界ではとうまがみんなを救って、笑顔にした英雄なのよ。」
「……ッ!!――みんなを笑顔にした――か。」
確かに、そうなのかもしれねぇな。
「――なぁみさと。ひとつ気になった事があるんだが。」
「ん?なに?」
そこで俺は、ポケットの中に入れていた赤色の宝石を取り出し、それを見ながらこう言う。
「もしかしてよ、俺たち以外にもこの世界に転生して来た奴って居ると思うか?」
「う〜ん、案外居たりするのかも知れないわね。」
「じゃ、じゃあよ?」
「――もし、この石で前の世界に帰る事が出来るとしたら……帰りたいって言う奴はどれくらい居るんだろうな。」
「さぁ、それは聞いてみないと分からないんじゃないかしら?――ってとうま、貴方まさか……?」
「あぁ、俺は前の世界に帰れるんなら、帰りたい。」
「「な!?」」
そこで俺の話を軽く聞き流していたであろうちなつとくるみも食い付いてきた。
「お、お前今前の世界に帰りたいって……?」
「あぁ」
「なんで!?とうま、この世界じゃ英雄なんだよ!?」
「それでもだ。」
まぁでも、正直こいつらからしたら、なんでだよってなるのは当たり前だよな。
だから俺は、その理由を説明した。
---
俺の家、伊吹家は決して裕福な家庭では無かった。
父親は小さい頃に交通事故で亡くなったらしく、どんな人だったのか、顔すら覚えていない。
それに、俺が高校を中退するくらいまでは母親も生活費を稼ぐ為に朝から晩まで働きっぱなしだった。
学生の頃はほとんど姿を見た事は無かったしな。
だから当然、授業参観にも運動会にも来てくれた事は無かったんだ。
でも、高校時代は中退するまで、必ず机の上には手作りの弁当と、毎日一言の応援メッセージの書かれた小さなメモが置かれていた。
分かってるんだ、それが愛だって。
でも当時の俺は思春期だった事もありそんな母親が大嫌いだった。
そして、そのまま気付けば俺はニートになっていた。
それでエロゲを買いに行った矢先――転生してこの世界に来たという訳だな。
「――確かに俺はこの世界じゃ街のみんなを笑顔にした英雄かもしれん。でもよ、一番笑顔にしなくちゃいけない人を俺はまだ一度も笑わせられてねぇんだ。一度も「ありがとう」って言えてねぇんだ。だから俺は、この来者ノ石で転生前の世界に戻れるってんなら、戻りたい。」
はは、言っちまったよ。こんな真面目な話俺らしくねぇよな。
だが、そんな話を聞いた3人は――
「まぁ、私たちのリーダーが言うなら仕方ないわね。」
「だな」「うんうん」
「って、お、お前らまさか……」
「それなら私たちも前の世界に帰るわ。」
「……ッ!!お、お前ら……」
「私、まだ高校生なのよ?卒業くらいしたいわ。」
「私も、もう一度アイドルしたいしな。」
「私、また競馬したいもん!!」
「……ッ!!はは、お前ららしいぜ。」
---
その後スザクたち(オネメル・ヒルデベルトも含まれる)に俺たちが異世界から転生して来た人間で、この来者ノ石で前の世界に帰りたいと告げると、案外簡単に信じてもらえ、それなら他にも帰りたい人が居るかもしれないからと一度市民たちを集めてもらい、それを聞く事になった。
「――という事だ。だからもし違う世界から来ていて、戻りたいという奴が居たら手を挙げてくれ。」
ベイユ競技場前の広場で、集まってもらった人々の前に立った俺は、今までの事や俺が前の世界でやり残した事など、一通り説明をし、最後にそう聞く。
すると次の瞬間――
「私も実は異世界から来たの!帰りたいわ!」
「俺も帰りたいぜ!」「ぼ、僕も!」
なんと6分の1程の人数が手を挙げた。
「こりゃすごいなぁ……異世界から来た奴ってこんなに居るんかい。」
それに対して、ふにゃふにゃ状態から戻り、近くに立っていたレザリオもそう口から言葉を漏らす。
すると続く様にみさとも、
「ほんと、てっきり私たちって結構特別なのかと思ってたわ。」
まぁ、ユニークスキルを持ってるって点については流石に俺たちくらいだろうから特別っちゃ特別なんだろうが、それでも――
そこで俺は、独り言の様にこう呟いた。
「