魔王に道を切り開いてもらった後、俺たちはエイブ・シュタイナーの元へ行く為、ただひたすらどこまでも広がる草原を走っていた。
あれから俺たちの行く手を阻もうとしてくるモンスターはなんと1体も現れていない。それどころか、現れる雰囲気すら一向に無かった。
魔王が魔法を放って消し飛ばしたモンスターはものすごい数がいたのにだ。
まさか、あのモンスターたちで全部だったのか?
いや、でもソルクユポの頂点がそんなヘマをするなんて考えられんが……?
それに、まだソルクユポの者たちが姿を現していない。
一応、説明しておくが、当然ソルクユポはエイブ・シュタイナーだけでは無く、他にも沢山居る。
実は俺たち、魔大陸に着いて最初に戦闘するのはそいつらだと思っていたんだよ。(ソルクユポの奴らは当然人間、市民を人質に取る様な卑怯な手を使ってくる可能性もあるから中央大陸の市民たちを守れる様にほとんどの冒険者を街に残らせたってのもあるしな。)
だから、いざ蓋を開けてみたら待ち受けていたのはモンスターばかりで、人間はゼロだったから各自口に出してはいないが結構拍子抜けしている。
――だが、そんな事で悩んでいる暇は無かった。
もう何度も言っているが、今回の戦いは時間勝負だ。一刻も早くエイブ・シュタイナーの企みを止めに行かなければ。
それに、出て来ないなら出て来ないでそれは嬉しい誤算だからな。
――するとそんな時だ、俺の横を走っていたみさとが前方を指さしてこう叫んだ。
「――ねぇ!!あれって石の祭壇じゃない!!」
その声に反応した俺たちはすぐに指さしている方へ視線を向ける。確かにそこには、草の生えていない石のエリアがあった。
確かにダリアの言っていた通り円形だし、まだ遠くだからちゃんとは分からないが魔法陣もその上に描かれている様な……
だが、そこに肝心のエイブ・シュタイナーの姿は無かった。
「……ッ!」
俺はすぐに周りを見渡すが、やはり姿はどこにもない。
おいおい……どうなってるってんだよ……まさかあの祭壇はカモフラージュで、本物のはまた別のどこかにあるとか……
そんな事を考えていると――次の瞬間、
「――てっきり私が前もって召喚していたモンスターすら倒せずに終わると思っていたのですが、まさかあの魔王が協力するとは。流石ですね」
「「……ッ!?!?エイブ・シュタイナー……!?」」
俺たちの頭上から声が聞こえ、すぐに上を向くとそこには空中に浮遊するエイブ・シュタイナーと、何十人もの白いローブを纏った人間、おそらくソルクユポのメンバーだった。
って!?あ、あいつら空中に浮いてやがる……!?意味わかんねぇぞ!!
しかし、そんな俺たちは無視し、まるで確定された事実を告げるかのように、
「――ですが、残念ながら皆さんの足掻きもここまでです。何故ならもう
「な……!?」
「まじで言ってんのか……」
これには流石のスザクやレザリオの顔にもあからさまな焦りが滲む。
今エイブ・シュタイナーの言った事が100パーセント本当かどうかは正直今はかなりまずい状況だった。
でも、それでも……ッ!
「だからなんだよ!!そんな何とかドラゴンなんて俺がこの剣で一刀両断してやるッ!」
「ちょ、ちょっととう――」
「俺たちは負けねぇ!!どれだけの人の意思を背負ってここに立ってると思ってるんだッ!!そう簡単に、たかが
俺は手に持った剣を空中に浮くエイブ・シュタイナーに向かって伸ばすと、ニヤリと笑いながら超ドヤ顔のスーパーとうまモードでそう叫ぶ。
正直、
するとそんな俺のセリフで目が覚めたのか、先程まで手に持った武器を地面に落としそうになっていたスザクたちも、
「……ッ!とうま……!そうだ、その通りだッ!俺たちは絶対に諦めん!!」
「そうやッ!ちんちくりんのローブ集団に負けてたまるかぁ!」
「ふふ……とうまちゃん……かっこいいじゃなぁい?」
先程の表情からは考えられない、自信に満ち溢れた笑顔が顔に浮かんでいた。
よし、とりあえず士気は上手く上がったぞ!だが――
「はは、最後まで面白い展開にしてくれますね。まぁだからと言ってあなたたちはその
だからと言って状況が変わった訳では無かった。
「じゃあ私はこれから
相変わらず余裕の表情なエイブ・シュタイナーは隣にいるソルクユポのメンバーにそう告げると、後ろに下がり、祭壇の方へ降りて行く。
すると反対に、周りのソルクユポの人間達はそのまま俺たちの前に降りてきた。
「「……」」
「なんやねんお前ら、攻撃してくるんやったらしてこいや――」
「――すぐに俺が切り伏せてやる。」
レザリオは背中から大剣、
それにならってスザクやミラボレア、みさとたちも戦闘態勢に入った。
だけどよ……!このまま目の前のこいつらと戦ったところで
何か他に……絶対にどこかにあるはずなんだよ……!この絶望的な状況を打破する方法が……!
俺は脳みそフル回転でエイブ・シュタイナーの言葉を何度も再生する。
「……ッ!!分かったぞ!」
そこで見つけた。この状況から
「なんだ、この際なんでも良い。教えてくれ。」
「――――」
「「……ッ!!」」
そこで俺は、今思い付いた方法をみんなに素早く説明する。するとそれを聞いたみんなは、
「確かにそれなら少なからずこのまま正面のこいつらと戦うよりは勝機がありそうだ。」
「――面白い、乗ってやろう。」
「とうまちゃんにしてはぁ、上出来じゃなぁい?」
「でもとうま、これはとうまにかかってるのよ……?もし失敗したら私たちはきっと、いや、絶対に全滅するわ。」
「それでもするのか……?」「とうま?」
「――あぁ、任せろ。だから頼む、みんなの力を貸してくれ」
「分かった、どうすれば良い?」
「とりあえず、今から俺がエイブ・シュタイナーの元まで走る。だからみんなは、おそらく追って来るであろうソルクユポの奴らを食い止めてくれ。」
「「了解」」
よし……!この作戦、が上手く行けば……!俺たちは勝てる……!
---
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
臨時的な作戦会議が終わると、俺はすぐに走り始める。
目指すは正面、数十メートル先の石の祭壇だ。そこでエイブ・シュタイナーはもう既に最終段階に入っていた。
それに、目の前には当然、そこまで行けない様に立ち塞がるソルクユポの者たちがいる。
だが、それは――
「
「ふふ、散りなさい?コメットインプレスッ!!」
「乱れ三段突きッ!!!」
「行っくよぅ!!
「はぁぁ!!ジャスティス・キリサキッ!!」
「貴方の攻撃は見えているわ、食らいなさい!!」
後ろで待ち構えていた仲間たちが、それぞれの持ちうる最大火力で一気に吹き飛ばす。
みんな……ッ!本当にありがとう、絶対に俺がこの戦いを終わらせるッ!!
そのまま俺は仲間の攻撃のおかげで空いた隙間を抜い、エイブ・シュタイナーの方へ走って行く。
――が、もうその頃には地面に描かれている魔法陣から紫色のオーラと共に、半透明の巨大なドラゴンが浮かび上がって来ていた。
その為、ソルクユポの者たちの壁から抜けてきた俺をエイブ・シュタイナーは確認しても止める様子など何処にも無く、
「ははッ!!残念だったなガキ!!私の計画はもう完了した!!私を殺してももうとまらんぞ!!」
先程までの知的な喋り方では無く、全ての願いが叶い、それを完遂させた自分に酔う様な喋り方でそう叫ぶ。
だがな――
「いや、まだ終わってねぇ!!」
「は?」
そこで俺は標的をエイブ・シュタイナーから、半透明の
――そして触れた瞬間、
「全てを吸収してやるッ!!」
半透明なドラゴンは瞬く間に俺の左手へと吸収されて行った。
そう、さっき俺が考えた作戦、それは「
先程、エイブ・シュタイナーは「
そしてそんな俺の考え通り、
やれやれ……流石にここまで良い作戦を思い付いちまうと、自分にも酔っちまうな。
「な、なんだ、と……?」
「すまんが、俺にはユニークスキルがあるんだよ。あとお前なんだろ?俺たちをこの世界に転生させたのはよ?おかげで新作エロゲを買いそびれたぜ。」
「な、……!?くそ……まさか
するとなんとエイブ・シュタイナーは、そう言い残し、俺に背中を向けて逃げようとする。
はは、愚かな奴だよ。おそらくこいつは俺のユニークスキルが「エネルギーを吸い込む」という物だと理解してるんだろうが――
あるんだよ、まだ身体の中に力が……!さっきから
だから俺は右手に持つ、エスタリの剣に力を込める。
(なぁエス、やっと本当の敵討ちが出来るぜ。)
そして俺は逃げるエイブ・シュタイナーの背中にあっという間に近付くと、
「最後にひとつだけ教えておいてやる。お前は俺をガキと言ったが、それは間違いだ。俺は――」
「今年で28になる超ナイスガイなガリガリエロゲーマーだぁぁぁぁぁぁ!!」
身体の中にある全てのエネルギーを剣に集め、エイブ・シュタイナーにその全てを力任せにぶつけた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」
そんな攻撃で、一瞬にして地面ごと粉々になるエイブ・シュタイナー。
そこで俺は、もう姿すら無くなった彼に、最後に一言こう吐き捨てた。
「――あ、といっても、そんな骨みたいにガリガリな訳じゃ無いぜ?一般的に見たら痩せてるねーくらいだ。」