「今日は久しぶりに魔王さんとお話出来ましたし、ちゃんと働いてるのを知って安心しました!!じゃあ、また予定が合ったら会いましょうね!」
「あぁ、当然だ。」
「ではゆうり先輩も!さよなら!」
「えぇ、また会社でね」
えなはそう笑顔でこちらに手を振ると、夕暮れの街へと消えて行く。
今はあれからしばらく話した後だ。
「ふぅ……」
すると、えなが視界から消えた瞬間に身体全体を覆っていた緊張感が息と共に消えて行く。
今日はずっと緊張していたが、何とか無事に終わる事が出来たぞ……
「えな、可愛いわよね」
すると、そこでいきなりえなの去って行く背中を見つめていたゆうりが、目線はまだ向こうを向いたままそう語りかけてきた。
「ん?どうしたんだ急に?」
「いや、さっきの別れ際の挨拶で不意にそう思ったのよ。えなは挨拶とか特にちゃんとしてるから。」
「確かに。そういうところはいつも適当な事を言って我の部屋から出て行くゆうりとは大違いだ。」
「なんか言った?」
「い、いや……なんでも無いぞ、」
「で、アンタはどうなのよ?」
「なにがだ?」
「えなの事、可愛いと思う?」
「……ッ、」
クッ……い、いきなりなんなのだ。
前までは全く恥ずかしがらず、自信を持って言えたんだがな、最近――「えなに恋をしている」そう自覚した辺りからどうも恥ずかしさが出てくる。
だが、だからと言って当然この気持ちが消えている訳では無い。ここは正直に――
「あぁ、可愛いと思うぞ。今日は改めて確信した。我はえなの事が好きだ。」
魔族特有の人間よりも鋭い八重歯をキリッと出すと、笑いながらそう言った。
すると――
「じゃあ、次はえなとデートをする事ね!」
そこで久しぶりに聞いた事の無い言葉が出てきた。
「ん?でーと?なんだそれは?」
「あぁ、そう言えばアンタ、この世界の言葉全然知らないんだっけ――最近は色々覚えて来てたみたいだから忘れてたわ。」
「まぁ、詳しい事はまた話すわよ。」
「そうか」
すると、そこで我の頭の中にひとつの疑問が生まれた。
(思い返してみれば、なぜゆうりはここまで我の恋に協力してくれるのだ?)
確かにゆうりの仕事帰りの愚痴には良く付き合ってやってはいるが……理由はそれだけじゃないはず。
それに、愚痴を聞いてやる以前から、協力的だった様な気がするぞ……?
「な、なぁゆうり。疑問なんだが、なぜそこまでして我の恋を進めようとしてくれているのだ?」
だから、そこで我は思い切ってそう聞いてみた。
すると――
「うーん、まぁ恋愛とか全然しないえなに、恋愛という物を知って貰いたいからって言うのはあるわね――」
「でも、それじゃ我以外の人間でも――」
「ちゃんと最後まで聞いて。まだ話が終わってないわ。」
「アンタはえなをナンパ共から救ってくれたしね。それに――アタシ、初めて公園でアンタを見た時思ったのよ、」
「見た目もおかしくって、バカそうな奴だけど――」
お、おい……それ悪口だぞ……
「でも、良い奴なんだろうなってさ。どうしても協力してあげたくなったのよ。」
「……ッ!」
♦♦♦♦♦
そして、それから数日経ったある日、仕事の忙しさでデートの事を忘れていた頃に、仕事終わり、ゆうりが部屋へやって来た。
「よっ!魔王!」
「お、おい……いきなり入ってくるのではない、我はこれから寝ようと思っていたのだが。明日も何時も通り悠介さんに車で迎えに来てもらうのだ。寝坊は出来んのだぞ?」
「まぁそう言わずに。いきなり女の子を部屋から追い出そうとするなんてえなに嫌われるわよ?――――って、」
すると、そこで何かに気付いたのかゆうりは驚きを顔の全面に出し、こう聞いてきた。
「あ、アンタ今悠介
「ん?あぁ。ここ数日前からそう呼び出したのだ。」
「まぁ、相当前からさんを付けろと言われていたのだ、今更感は強いがな。」そう付け足す我。
「あ、アンタ。前えなと3人で食べに行った時も言われてたけど、ホントに変わったわね……まるで初めて会った頃と中身が変わったみたいよ……」
「それは褒めてるのか?」
「えぇ、まだ信じられないわ……」
おいおい……あたかも我が常識の無い魔族だと言う風な言い方はやめろよ……
「我だって、当然成長するのだ。こう変わって行くのも当たり前の事だろう。――で?話があるのだろ?早く話すなら話してくれ。」
「あ、あぁそうね。危うくあたしが忘れるところだったわ。」
はぁ……どれだけ驚いているのだ……
「改めて、アンタには明日、えなとデートをしてもらうわ。」
そこで、ゆうりは「おほん」と気を取り直してからそう言った。
「前も言ったが、デートとはなんなのだ?」
それに明日って……いきなり過ぎる気がするぞ……
まぁちゃんと明日は休みだが、(おそらく、兄の悠介さんに我の休みを確認していたのだろう。)
「やっぱりそこから説明しないといけないのね……良いわ。デートというのは、ざっくり言ってしまえば男女が2人で遊んだり、お茶をしたりする事よ。」
「なるほど。――ん?」
って、事は……明日我とえなは2人で――って、
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!さすがにそれは心の準備が……!?」
そんないきなりの展開に、さすがの我も後ろに仰け反ってしまう。
しかし、そんな我に呆れたのかゆうりは「はぁ」そう肩を下げてため息を吐くと、
「アンタ最近ずっとそんな調子よね、そんなんじゃ、前みたいにまたえなから心配されるだけよ?」
「うぅ。そ、それは分かっている。だがな……」
「えなに対する気持ちに気付いてからは、とても今までの様な立ち振る舞いは出来ないのだ。」
「ホント、ヘタレな魔王ね。」
「我自身もそう思う。もうなんとでも言ってくれて構わん……」
「まぁでも、どの道えなと付き合いたいなら、前みたいに話せる様にはならないといけないわ。だから、2人で話す練習も兼ねて、デートはした方が良いと思うわよ。」
「なるほど……」
確かに、それはそうだ。
悠介さんが言っていた。好きな女性と付き合うには真正面から告白をしないといけないと。今のままではそんな事絶対に無理だろう。
それに、いつまでもこのままじゃいられない……!
「……ッ!――分かった。」
ここは魔族としての根性を見せる時……!初めてえなに振られた時に誓ったではないか、「必ず落とす」と……ッ!!
やってやる、やってやるぞ……!!