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鍾会6  諱ボクシング1

司馬昭しばしょうが車に乗って出掛ける。

同乗の予定は陳騫ちんけん陳泰ちんたい、そして鍾会しょうかい

だが鍾会、遅刻する。

なので司馬昭は鍾会を置き去りにした。


待ち合わせ場所に鍾会が辿り着いてみれば、

車はすでに、はるか彼方。


やがてなんとか追いつくと、

司馬昭がはっ、と笑う。


「おいおい、人と出掛けようってのに、

 なにダラダラしてやがったんだ?

 こっちはお前を繇繇・・

 待ってやってたってのによ」


鍾会パパの諱犯して dis ってくるとか、

どんだけ苛ついてたんですか司馬昭さん。


けどこの手の dis りに、

黙って傷つく鍾会さんじゃない。

言い返すよ。


「私は実を旨としておりましてね。

 ドタバタするって、見苦しいですし。

 だから、そこを(ただ)してまで、

 あなたがたとれることもない、

 そう思ったまでです」


あれ? 陳騫、陳泰が

巻き添え喰らってる。


ぐぬぬとなる司馬昭さん。

けど、懲りずに反撃を試みる。


「あー、ときに臯繇こうようを知ってるかね?」


鍾会さん、相手の意図は察しつつも、

敢えてクソリプ。


「尭舜や周公旦、孔子には及びませんが、

 かの時代の士、とは言えましょうか」




晉文帝與二陳共車,過喚鍾會同載,即駛車委去。比出,已遠。既至,因嘲之曰:「與人期行,何以遲遲?望卿遙遙不至。」會答曰:「矯然懿實,何必同群?」帝復問會:「臯繇何如人?」答曰:「上不及堯、舜,下不逮周、孔,亦一時之懿士。」


晉文帝と二陳は車を共とす。過らんとせるに、鍾會を同じく載せんと喚べど、即ち車は駛せて委去す。比に出でるも、已に遠し。既に至らば、因りて之を嘲りて曰く:「人と行かんと期せるに、何をか以て遲遲たるか? 卿を望みたること遙遙たれど至らず」と。會は答えて曰く:「懿實なるを矯然とせば、何をか必ずしも同じく群ぜんか?」と。帝は復た會に問うらく:「臯繇は何如なる人か?」と。答えて曰く:「上は堯、舜に及ばず、下は周、孔に逮ばずも、亦た一時の懿士なり」と。


(排調2)




陳騫、陳泰

それぞれ陳矯ちんきょう陳羣ちんぐんの息子。ついでに書けば司馬昭は司馬懿しばいの息子だし、我らが鍾会さんは鍾繇しょうようの息子。「父親の諱を犯すのは最大レベルの dis り」と言う前提をインプットすると、まー鍾会さんのこのとんち dis 番長ぶりと来たら。つーか二陳も司馬昭の後ろでへらへら笑ってたんだろうなーこれ。


臯繇

いにしえの名君、堯王の時代の名裁判官。ちなみに通常は臯陶と書かれることが多い。そこを敢えて曲げてまでこの人の名前を持ち出した司馬昭さんの意図を汲めば「お前のそのへ理屈、臯繇が聞いたらどう思うかね?」って辺りになるでしょうかね。そして鍾会さん、その辺は全力スルー。かっけえ。


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